田崎真也氏の後継者は誰?
アジア・オセアニア地区のナンバーワン・ソムリエを決める「アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」が11月5、6日の2日間、香港で開かれ、日本代表の石田博ソムリエが、初優勝を飾った。
「圧勝でしょう」。現地で石田氏の戦いぶりを観戦したあるソムリエは、決勝戦をこう振り返った。
同コンクールは3年毎に開かれ、今回は10か国・地域の予選を勝ち抜いた18人のソムリエが出場した。初日に行われた準々決勝、準決勝の結果、石田氏のほか、中国代表とオーストラリア代表の3選手が、最終日に行われた決勝に進出。詰めかけた大勢の観客の前で、ワインの香りを表現したり銘柄を当てたりするテイスティング力や、ワインに関する知識、サービスの技などを競った。
光った「おもてなし力」
ソムリエのサービスの技というと、素早い身のこなしや、ワインを注ぐスピードなどをイメージする人も多いかもしれない。それも確かに大切。だが、コンクールの審査でより重視されるのは、ずばり「おもてなし力」だ。
レストランに食事に来た客の様々な要求に、どれだけ丁寧に、かつ適切に応えることができるか。そして、時にはユーモアあふれる会話も交えながら、客にいかに満足感を味わわせることができるか。これが重要なポイントとなる。審査員は、「自分が客だったら、どのソムリエに一番サービスしてもらいたいか」という視点で審査しているのだ。「おもてなし力」は、近年の大会では、国内外を問わず、ますます重視される傾向にある。
石田氏は、ワイン全般の知識に加え、この「おもてなし力」が、他の2選手に勝っていた。審査内容は非公開だが、決勝戦を観戦していたソムリエの多くが、石田氏の勝因をこう分析した。
実は今回、日本のワイン界が石田氏にかける期待は、非常に大きいものがあった。もちろん、過去の実績や現在の実力から見て、多くの関係者が、石田氏を優勝の本命と見ていたこともある。だが、それだけではない。
新星待望論
日本では、ソムリエと言えば、田崎真也氏の名前が真っ先に浮かぶ。1995年のソムリエ世界大会で、日本人として初めて優勝。日本にワインブームをもたらすと共に、ソムリエという職業の存在を世に知らしめた立役者だ。その後も、メディアへの露出を含めた様々な形で、日本のワイン界に多大な貢献をし続け、昔も今も、そしてこれからも、ワイン界の第一人者であることは、誰もが認める。
しかし、ワイン界が今、田崎氏に続く新たなスターの出現を切望しているのも事実だ。最近のスポーツ界を見ても明らかなように、現代は、それがどんな世界であろうと、海外でも通用するような実力を持つ新星が次々と現れることで、ファン層や一般の関心が広がり、その世界全体の活性化や進化・発展につながる時代。その点、日本のワイン界には、田崎氏以降、メディアのスポットライトを浴びるような新星が、20年間も現れていない。ワイン界が待ちわびる新星の最有力候補が、石田氏というわけだ。
熱い期待を裏付けるかのように、決勝戦には、はるばる日本から、多くのワイン関係者やワインファンが駆けつけ、石田氏に熱い声援を送った。応援団の規模では、他国を圧倒していた感すらある。
日本におけるワイン人人気は、もはやブームの域を超え、愛好家のすそ野も広がり、食文化として定着しつつあるかに見える。景気の回復や日本ワインブームなど、追い風も吹いている。だが、関係者の間では、せっかくの追い風を十分に生かし切れていないとの思いも強い。すそ野が広がっているとは言っても、ワインを日常的に楽しむ習慣は、まだまだ東京など一部の大都市に限られている。一人当たりの消費量も、欧州諸国に比べれば一桁少ない。新星には、市場拡大の起爆剤としての期待もかかる。
注目は来年4月の世界大会
石田氏のソムリエとしての実力は、すでに申し分ない。トゥールダルジャンなど数々の有名レストランでソムリエを務め、世界大会で3位に入賞するなど実績も十分。あるベテランのソムリエいわく、「国内では今のところ敵なし」だ。
年齢も46歳と、田崎氏より一回り若い。端正なマスクと、柔和でユーモアに富んだ語り口で、男性も含めファンも多い。石田氏に足りないのは、田崎氏も手にした「世界一」の称号だけだ。
今大会での優勝で、石田氏は、来年4月にアルゼンチンで開かれる世界大会への出場権を得た。果たして、強豪の欧米勢を破り、田崎氏以来となる日本人2人目の優勝者となれるだろうか。