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アフマダリエフ、グッドマン、ピカソ。井上尚弥争奪戦はドヘニー戦後に過熱間違いなし

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上vs.ネリ直後にリングに上がり挑戦を希望したグッドマン(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

五輪で勢いをもらったアフマダリエフ

 東京・有明アリーナで9月3日ゴングが鳴るスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)vs.挑戦者TJ・ドヘニー(アイルランド)のタイトルマッチまで3週間を切った。最近3試合を日本で行っているドヘニーは近々、来日する予定で決戦ムードが高まるだろう。それでも圧倒的有利を予想される井上だけに自ずと話題は“次”へ移ってしまう。

 4団体のうち井上を“スーパー王者”に認定するWBAは、以前WBAとIBFの統一王者だったムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との指名試合を通達した。これはいろいろな意味で井上と陣営に無理強いを強いた印象が濃く、ひとまず回避することができた。だがドヘニー戦を井上がクリアすればアフマダリエフ側は黙っていないだろう。彼のプロモーター、エディ・ハーン氏(マッチルーム・ボクシング)やマネジャーがやんやと騒ぎ立てる展開が予測される。

 アフマダリエフ本人は米国カリフォルニア州でウズベキスタン人を中心としたグループで合宿生活を送りながらトレーニングを続けている。今月3日ロサンゼルスでチームメイトで親友のイスライル・マドリモフ(ウズベキスタン=前WBA世界スーパーウェルター級王者)が井上とパウンド・フォー・パウンド(PFP)トップを争い、ウェルター級4団体統一王者だったテレンス・クロフォード(米)の挑戦を受けた際、いっしょにリングに上がり、ウズベキスタン国旗を掲げて同胞を鼓舞していた。

 井上戦が締結するしないにかかわらず好戦的なアフマダリエフはモンスターと噛み合うスタイルの選手と見られる。WBAスーパーバンタム級挑戦者決定戦を勝ち抜いた後、試合予定がないのは井上挑戦に的を絞っているからに違いない。

 ウズベキスタンはパリ五輪ボクシング競技男子7階級中5階級で金メダルを獲得し気を吐いた。同国が獲得した金メダル8個の半数以上をボクシングで稼ぎ出した。自身もリオデジャネイロ五輪銅メダリストのアフマダリエフは同胞たちの活躍を見て武者震いしているだろう。ウズベキスタン勢の五輪でのアマチュア王国ぶりが加味され、井上vs.アフマダリエフはかなり魅力的なカードに映る。

リオデジャネイロ五輪で銅メダル獲得のアフマダリエフ
リオデジャネイロ五輪で銅メダル獲得のアフマダリエフ写真:ロイター/アフロ

グッドマンは9月に始動か?

 IBFとWBOで1位を占めるサム・グッドマン(豪州)は井上への挑戦を見送った後7月10日に地元でチャイノイ・ウォラワット(タイ)とノンタイトル12回戦を行い3-0判定勝ちを収めた。しかし途中で左拳を負傷。骨折したと伝えられる。

 ドヘニー戦の後に井上にアタックしたい意向だが、今のところ不透明。7月末のニュースではトレーニングが再開できるまで4~5週間要するということでジムに戻れるのは9月になるか。年末に復帰を希望するが、相手が井上になる保証はない。当然というべきか、アフマダリエフの動向を気にしている。井上挑戦前に世界ランカー(チャイノイ)と前哨戦を行ったグッドマンのやる気は買えるが代償は高くついた。

ネリを追うピカソ

 ルイス・ネリ(メキシコ)戦でWBCの指名試合をクリアした井上に対し、WBCは新たな挑戦者決定戦を承認した。今月24日、メキシコシティで1位アラン・ピカソ(メキシコ)vs.アザト・ホバネシアン(アルメニア/米)が対戦する。試合はピカソが保持するWBCスーパーバンタム級シルバー王座タイトルマッチと銘打たれているが、勝者が井上の指名挑戦者に抜てきされる設定となっている。主役は地元のピカソ。昨年ネリとのWBC挑戦者決定戦で11回TKO負けしたホバネシアンは以後リングに上がっていない。アルメニア人にはかなりハンディがある一戦となりそうだ。ちなみにメインイベントはフロイド・メイウェザー(米)vs.有名ギャングの孫ジョン・ゴッティ三世(米)のエキシビションマッチ。

 メキシコの最高学府で学ぶインテリボクサーとして売り出し中のピカソは最近2試合を米国で行い、いずれも快勝している。だが、もし井上と対戦するとなると、まだ力不足の印象がぬぐえない。井上のフェザー級進出を待って、それから王座決定戦でベルト獲得という目論見が感じられる。

 WBCスーパーバンタム級ランキングは2位マーロン・タパレス(フィリピン)、3位ネリ、4位アフマダリエフ、5位リアム・デービス(英)、6位グッドマン、7位スティーブン・フルトン(米)、8位ドヘニー、9位ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)、10位チャイノイ、11位下町俊貴(グリーンツダ)……の順。こう記してみるとそうそうたる顔ぶれが並ぶ。

24日メキシコシティで対戦するピカソとホバネシアン(写真:Box Azteca)
24日メキシコシティで対戦するピカソとホバネシアン(写真:Box Azteca)

スーパーバンタム級で中谷とのドリームマッチ?

 井上がフェザー級へ舵を切るまでスーパーバンタム級でリングに上がるのはドヘニー戦を含めて多くて3試合ではないかと私は思っている。アフマダリエフ同様、スリリングなファイトが売り物のデービスとキャラクター的にカシメロが私のおすすめだが、2人はダークホース。アフマダリエフ、グッドマンそしてピカソが残りの“2枠”あるいは“1枠”を争うと推測される。そこに最近話題を集める中谷潤人(M.T=WBC世界バンタム級王者)との対決が一躍クローズアップされる。

 他方で流れとして「リヤド・シーズン」を推進するサウジアラビアの娯楽庁長官トルキ・アラルシャイフ氏の要望に沿い、同国で井上戦が実現する可能性もある。また日本以外では英国のビッグイベントに起用されるオプションも以前からささやかれる。

 もしかしたらドヘニー戦の後、いきなりフェザー級進出という筋書きも無きにしもあらず。アフマダリエフやグッドマンが落胆する姿が目に浮かぶがファンの期待が先送りされることになる。個人的にも「フェザー級へようこそ!」といった記事を早く書きたいと念じている。もちろん、いずれは「井上vs.中谷正式決定」という見出しも載せたい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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