コマンの一撃にバイエルンの「万力」。パリSGはエムバペ独壇場で希望
欧州チャンピオンズリーグ(CL)、ラウンド16。2月14日、パリ・サンジェルマンはドイツ王者バイエルン・ミュンヘンとのファーストレグ、本拠地で0-1と敗れている。
試合構造としては、スター軍団のパリSGが、チーム力で勝るバイエルンをどこまで凌ぎ、どう攻略するのか。お互いの駆け引きを巡って、試合の流れはめまぐるしく変わっていった。世界最前線の勝負の行方とは――。
バイエルンの「万力」
パリSGは、前線のリオネル・メッシ、ネイマールをどう生かすか、を戦略にしていた。しかしそれ以上に、強力なバイエルンの攻撃を受け止めなければなかった。
そこで中盤の4人はボランチタイプで中を徹底的に絞って、ボールを運ばせず、縦パスも入れさせない。塹壕を掘って待ち構えるリアクション戦術だった。バックラインも中盤との距離を緊密にしながら、相手FWに駆け引きを許さい。ボールを持たせることで、試合をコントロールしていたわけだが…。
知将ユリアン・ナーゲルスマン監督が率いるバイエルンは、前半途中から動きに工夫を入れる。ボランチのレオン・ゴレツカがゴール前に積極に入る動きを見せ、バックラインをじりじりと下がらせる。これによって左ウィングバックで遊撃的な役割を果たしていたキングスレー・コマンのドリブルのスペースができ、徐々に流れを作った。相手の陣形に適応できる素地の良さが出た。
一方、パリSGも後半はてこ入れをする。プレスネル・キンペンベを投入、3バックにし、ウィングバックでミラーゲームで対抗。やり合う姿勢を見せることで、挽回を図る。押し込まれたままでは、ジリ貧は目に見えていたからだ。
そしてバイエルンも、後半からさらに攻勢を強めた。ややおとなしかった右ウィングバックのジョアン・カンセロを下げ、快足アルフォンソ・デイビスを左ウィングバックに入れ、縦の推進力を出し、コマンを右に回した。これで両サイドから万力のようにパリSGを締め付ける。守備はやや手薄になった一方、攻撃で強度が増した。
そして52分、バイエルンはセンターフォワードのマキシム・シュポモティングが左に流れて、セルヒオ・ラモス、マルキーニョスを釣り出し、起点を作る。左でパスを受けたデイビスが左足でファーポストに入ってきたコマンに合わせ、ダイレクトでシュートを押し込んだ。
戦術的に、バイエルンに軍配が上がった瞬間だった。
エムバペの独壇場
しかし、パリSGはもう一つの「戦術」を用意していた。驚異的な回復力で戦列に間に合ったキリアン・エムバペだ。
「できればプレーすべきではない」という状態だったようだが、エムバペがピッチに入るだけで局面が変わった。左サイドに入ると、バイエルンのディフェンスを恐れさせ、引き付ける。ボールを持ってドリブルに入った瞬間、相手が凍り付いたようになった。呆気なくバイエルンの戦術的バランスを崩し、メッシ、ネイマールが息を吹き返したように躍動を始めた。
73分、エムバペは自陣からの一本のロングパスに、一瞬の駆け引きだけで抜け出し、そのままGKと一対一になっている。ラストタッチがわずかに大きくなってシュートはブロックされたが、反撃の狼煙を上げる。76分には、マーカーについたウパメカーノをワンフェイントで抜き去って、決定機を演出。81分にもヌーノ・メンデスが左を駆け抜け、折り返したボールに猛然と飛び込み、ネットを揺らした。オフサイドで取り消されたが、その後も完全にペースを握った。メッシ、ヴィチーニャが立て続けに決定機をつかんだ。
結局、バイエルンは凌ぎ切って0-1と大きな勝利を得た。しかし、最後は打つ手がないほど、落城寸前に追い込まれていた。パヴァールはメッシへのタックルで、終了間際に退場処分になった。
「ポジティブに捉えるべきだろう。アウエーで勝ちに行くし、ベスト8に進むのは我々だ」
エムバペが意欲的に言うのは、強がりではない。彼一人が強力な戦術になる。その存在によって、自然にメッシ、ネイマールも躍動し、バイエルンでさえ押し込めるだけに…。
3月8日のリターンマッチは必見だ。