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「ゴールを仕留めれば、序列も上がる」。ニューカッスルの武藤嘉紀、2節で初ゴールなるか

田嶋コウスケ英国在住ライター・翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

11日に行われたニューカッスル対トットナムのプレミアリーグ開幕戦。ニューカッスルに加入した日本代表FW武藤嘉紀の初戦は、ベンチスタートとなった。

武藤は前半34分、ウォームアップのためスイス代表DFのファビアン・シェアと韓国代表MFのキ・ソンヨンと共にベンチからタッチライン際へ飛び出していった。

そして、事前にアップを始めていたトットナムの選手たちと握手を交わしていく。顔ぶれは、ベルギー代表DFのトビー・アルデルヴァイレルト、スペイン代表歴のあるFWフェルナンド・ジョレンテ、韓国代表FWのソン・フンミン。代表クラスの選手たちが黙々とウォームアップを行う姿は、各クラブとも豪華な選手陣を誇るプレミアリーグならではの光景だ。

その武藤に出番の声がかかったのは、1−2の相手リードで迎えた後半36分。緊張することなく、平常心でピッチに入れたという。

「(記者:ピッチに入ったとき気持ちが高ぶった?) 全然ならなかったです。もう一通りそういうのは終わった感じですね。W杯でちょっと高ぶってしまったこともありますし、ブンデスリーガのときもすごく高ぶりましたけど、特に緊張するというのはなかった」(武藤)

入団時に「怖いもの知らず」と自身について語っていた武藤の言葉通り、投入から積極的に仕掛けた。4−2−3−1のトップ下に入ると、頻繁に左サイドへ流れて縦パスを呼び込んだ。投入から1分後には、左サイドからクロスボール。その5分後にも、左サイドでパスをもらいシュートを放った。初めて対峙したトットナムDF陣について、武藤は次のように印象を語る。

「細かい動きについて来れないという印象はありました。ボールウォッチャーになるDFが多かったので、パスが出てくれば(チャンスになる)。1本シュートを打ったところも相手は見えていなかった。良いところに動き出せば、必ずフリーでもらえた。試合の終盤に相手が引いてきても、あそこにスペースがあった。だから、それ以外の時間帯なら、もっと空いてくるのかなと思います」

試合は、1−2でニューカッスルが敗れた。6分間のアディショナルタイムと合わせて約15分間プレーした武藤は「もうちょい時間が欲しかった」と唇を噛んだ。しかし、デビュー戦で自分らしさをある程度出せたことに感触を掴んだようだった。チームについても、好印象を抱いていると明かす。

「すごくクオリティーが高い。サイドの選手は簡単にクロスを上げてくれるし、スピードもある。自分が良い場所に入れば、チャンスは多く来ると思うので、とても楽しみです。(記者:ニューカッスルの指揮官は、05年にリバプールでチャンピオンズリーグを制したラファエル・ベニテス監督。印象は?) 選手を信頼してくれているし、求めていることがはっきりしている。練習後、自分にも戦術を丁寧に話してくれる。とても良い監督です」

今後気になるのは武藤の起用法だろう。4−2−3−1を採用したトットナム戦ではFWホセルを最前線のセンターフォワード(CF)に配し、トップ下にFWアジョセ・ペレスを起用した。

そして、試合終盤になると、今夏市場で加入したベネズエラ代表FWのサロモン・ロンドンを起用。CFの位置に入ると、武藤はアジョセ・ペレスとの交代でトップ下に入った。

ドイツ1部マインツでは1トップを務めた武藤だが、トットナム戦のように4−2−3−1のトップ下、もしくは2トップ編成でCFのやや後方、セカンドストライカーとしてプレーする機会がこれから多くなるかもしれない。

その場合、体格の大きいロンドンの後方でプレーすることになるが、武藤はこの役割のメリットが大きいと話す。

「前方にでっかい選手を置いて、その周りを自由に動けるのはFWとしてすごくやりやすい。これだけ大きな選手や強い選手を自分が背負うのは、相性としてよくない。だから、誰かに前線でボールを収めてもらい、自分がその裏だったり、その近くで動けるというスタイルは、自分にとって非常に合っているかなと思っています」

試合後にソン・フンミン(写真左)、キ・ソンヨン(同中央)、武藤嘉紀(同右)のアジア勢3人で談笑。【撮影:田嶋コウスケ】
試合後にソン・フンミン(写真左)、キ・ソンヨン(同中央)、武藤嘉紀(同右)のアジア勢3人で談笑。【撮影:田嶋コウスケ】

現時点で、武藤が自身の課題に挙げるのはコンディションだ。今月2日に入団発表を行なったが、この時点で英労働ビザの手続きが完了していなかった。手続きが全て終わるまでチーム練習に参加できないため、武藤は一人で調整を進めてきた。しかも、手続きを完了させるには英国外へ一度出る必要もあった。そのため、チーム練習に合流できたのは試合の3日前だった。

「サッカーをするのが3日前からだった。それまでは、ずっと一人で走ることぐらいしかできなかった。とにかく体作りだけはしていましたけど、やっぱりサッカーで使う筋肉と、一人の練習で使う筋肉は違う。練習3日間だけで筋肉痛が残っている状態だったので、サッカーで使う筋肉を早く呼び起こさせないといけない。

チームの練習量が少なく、その後の自主練も許してくれないので、自分で走りに…(笑)。試合後も、そのまま何もない感じなので、ホテルのジムで追い込まないと。明日もオフなので、とにかく自分に厳しくしないといけない」

現地時間18日に行われる第2節カーディフ戦で、武藤に先発のチャンスはあるのか。

クラブOBで現在は解説者を務めるミック・クイン氏は、ロンドンの1トップ起用を予想した。トップ下にはアジョセ・ペレスを配し、武藤をベンチスタートと予想。ただ同氏は、武藤について「彼のプレーをもっと見たい」と期待感を示した。

武藤は力を込める。

「(81分からの投入で出番が)約10分ありましたけど、そこでゴールを仕留められるようにしたい。そうやっていけば、序列も上がってくると思う」

第2節もベンチスタートかもしれないが、途中出場でも結果を掴むことが、スタメン奪取の近道になる──。26歳の日本代表FWは、自分自身にそう言い聞かせていた。

英国在住ライター・翻訳家

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍にあわせ、2012〜14年までは英国マンチェスター在住。ワールドサッカーダイジェスト(本誌)やスポーツナビ、Number、Goal.com、AERAdot. などでサッカーを中心に執筆と翻訳に精を出す。

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