「4年前と比べて周りが見えるようになった」。GK平尾知佳が象徴するなでしこジャパンの一体感
【GKチームの絆】
ゴールを決めた選手が、日本ベンチに向かって全力で走り出す。控えメンバーはタッチラインギリギリまで飛び出して、全員でハイタッチを交わすーー。ワールドカップのグループステージで3連勝を収めたなでしこジャパンは、控えメンバーもピッチ上と同じ熱量で戦っている。
両腕をいっぱいに広げ、飛び込んでくる選手を満面の笑みで抱きしめるGK平尾知佳の姿は、世界に日本のチームワークを印象づけたはずだ。
「めっっちゃ嬉しかったですね」
平尾は、仲間のゴールの瞬間をそう振り返る。そして、こう続けた。
「スペイン戦で、(センターバックの高橋)はなが大けがから復帰して大舞台に立ったのは、泣けるぐらい嬉しかったです。はなは(ムードメーカーで)みんなを明るくしてくれるし、チームのために戦える選手なので、そういう人柄や努力も含めて報われた気がしたんです」
それぞれの選手の良さやバックグラウンド、大会にかける思いも知り、自分のことのように喜ぶことができる。それは、4年前のワールドカップとは違うところだ。
「4年前と比べて年齢が上になって、いい意味で周りが見えるようになってきて。いろんな選手のストーリーも考えながら、このワールドカップを経験できて本当にありがたいです」
初出場した2019年のフランスワールドカップは、22歳だった。ピッチに立つ機会はなく、ベンチで静かにベスト16敗退の現実を受け入れた。「当時は若くて周りについていくのがやっとで、何もできませんでした」と平尾は言う。
2021年の東京五輪も、3人のGKに名を連ねた。いつ名前を呼ばれてもいいように万全の準備をしたが、その時も出場機会はなかった。だが、スタメンが決まった瞬間からすぐに切り替え、チームのサポートに全力を尽くした。
そして、26歳で迎えた今大会は以前とは違い、年下の選手も多くなった。代表合宿では雰囲気に慣れていない若い選手に気さくに声をかけて仲良くなり、溶け込みやすくなるように導いてきた。そのコミュニケーション力の高さは平尾の武器であり、人間的な魅力でもある。
GK田中桃子は、「ちかさんはいろんな人をよく見て柔軟に対応できる人。すごく気を遣ってくれているので、自分はいろいろなことをあまり気にせずにやれています」と、その細やかな気配りを尊敬の眼差しで見つめる。
今大会、ここまで3試合無失点の守備を最後方で支えてきたGK山下杏也加は、「いつ出てもいい準備をして、一緒にチームを盛り上げてくれているからこそ、自分が何試合出ても疲労は関係ないし、ピッチ内外でも感謝しています」と、平尾と田中に感謝を込めた。
「GKの仲がいいチームは、チームの雰囲気もいい」。そう考える平尾は、練習の中から、キーパー同士が互いに意見を発信しやすい環境づくりを心がけてきた。一つしかないポジションを争うライバルだが、そのプレッシャーや孤独を理解できる仲間でもある。スペイン戦後、平尾は3人の結束の強さを強調した。
「練習でも試合でも、よく3人で話をしています。山(下)さんは観察眼が鋭いので、試合中に気づいていないことはあまりないと思いますが、ピッチの外と中では見えるものが違うので、気づいたことは伝えています」
【苦しいシーズンを経て】
173cmの身長と、「女性には負けたことがない」という大きな手。その恵まれたフィジカルで小学生の頃にGKの資質を見出され、JFAアカデミー福島に入った後は年代別代表の常連になった。国内随一のクロス対応を強みとし、2016年7月になでしこジャパンに初選出。2017年に浦和から新潟に移籍し、正守護神としてゴールを守ってきた。
WEリーグからは、3強の浦和、神戸、東京NBから多くの選手が代表に選ばれる。その中で、平尾は新潟の誇りを胸に、代表のユニフォームに袖を通してきた。代表に選ばれる喜びについて聞かれるたび、平尾の答えはいつも一貫している。
「代表活動にいくと、自分に足りないものや、チーム(新潟)に還元できることを学べるんです」
WEリーグが始まる前年の2020年にクラブとプロ契約を交わし、結果への責任感は増した。1対1やパンチングの飛距離、キックの精度など、新しい武器を獲得。昨季はシュートストップを強化するため、ジャンプ動作やキャッチを一から見直した。
しかし、WEリーグでは2年連続で下位に低迷。昨季はキャプテンを任されたものの、得点力不足も響いて最下位の時期も長かった。試合後に、平尾が滅多に見せない涙を見せたこともある。
だが、今年5月に無敗で首位を走っていた神戸との試合(1-0で新潟が勝利)でビッグセーブを連発し、価値ある1勝を掴むと、そこから4試合連続クリーンシートで最下位を脱出。19節の仙台戦(△0-0)では、相手のPKを弾かずにキャッチして、地道なトレーニングの成果を結実させた。試合後、飛び跳ねるようにして仲間に抱きついた平尾の姿は、それまでの苦しさを物語っていた。
「キャプテンとして、強めの言葉でぐいぐい引っ張っていくというよりは、選手たちを優しく導いてくれました」
新潟を2シーズンにわたって率いた村松大介元監督は、昨季終了後に平尾をチームのMVPに挙げた。苦しいシーズンを終えて、平尾も自らの変化を感じていた。
「これまではあまり感情を表に出さなかったのですが、キャプテンという立場になって、なんでも伝えることが大事だなと思うようになりました。たとえば、良かったことをその都度、口に出して褒めることで味方ももっといいプレーをしてくれる。感情を出すこともすごく大事だと感じて、素直に出すようになりました」
気持ちのこもったプレーとストレートな感情表現は、見ている者の心を揺さぶる。
代表歴は8年目に突入した。国際Aマッチの出場数は4試合だが、さまざまな大会に参加して強豪国の躍進を肌で感じ、同時になでしこジャパンの変化やレベルアップも体感してきた。
「世界(海外)で戦っている選手たちは、日本で戦っている選手に対して厳しい要求もしますが、経験して肌で感じている人の言葉は説得力があります。みんながその言葉を聞き入れる心を持っているので、切磋琢磨できているなと思います」
8月5日のノルウェー戦に勝利すれば、日本は2大会ぶりのベスト8進出となる。ピッチに立つ11人とともに、ベンチのメンバー、スタッフが一丸となって戦い、新たなステージへの切符を掴みにいく。
*表記のない写真は筆者撮影