早すぎた早明再戦? 勝った早稲田大学・大田尾竜彦監督はどう思ったか。【ラグビー旬な一問一答】
記者会見場の向こう側から、むせび泣きが聞こえる。敗れた明治大学(明大)ラグビー部の面々が、付近のロッカールームへ引き上げているのだろうか。
2022年12月25日、東京・秩父宮ラグビー場。大学選手権の準々決勝で早稲田大学(早大)が明大に27―21で辛勝。4日に同じカードを21―35で落としたなか(国立競技場)、リベンジを果たした。
ラストワンプレーでも自陣深い位置まで攻め込まれたが、相手ウイングの石田吉平主将が走り込んできたところへフランカーの相良昌彦主将がジャッカル。ターンオーバーを決め、逃げ切った。相良の証言。
「今年のチームは『誰でもできることを全力でやろう』『1000分の1のこだわり』『タフチョイス』がテーマ。抜かれそうになったら全員で帰るとか、誰かが抜け出したら全員でサポートするとか、そういうことです。あそこで自分がライン際まで帰ってジャッカルできたのは、(テーマを)体現できたのでよかったと思っています」
攻防の起点となるスクラムは終始、苦しんだように映ったが、主戦級の佐藤健次が投入された後半にやや改善。同10分以降、相手の反則を誘うスクラムを2本、組み、敵陣22メートルエリア左側へ侵入できた。
かくして迎えた17分、スクラムからの攻撃でいったん中央にラックを作りながら、その左側の死角へウイングの松下怜央を走らせた。20―14と勝ち越した。
かねて大田尾竜彦監督は、敵陣22メートルエリア内でのアタックを改善する意向を示していた。球の動かし方の角度、方向性に変化をつけた松下のトライは、指揮官が有言実行した証。相良は続けた。
「トーナメントに入るなかでいろんなオプションを持つのは当然。あそこの位置で、最善の選択があれだった」
続く19分には、スクラムハーフの宮尾昌典が自陣深い位置でインターセプト。そのまま走り切り、27―14と突き放す。その後はフロントローを交替させた明治大学のスクラムに手を焼き27―21とされたが、粘って準決勝進出を決めた。
試合後は大田尾監督と相良主将が会見した。
以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。
大田尾
「きょうの試合は最初の50分をしっかりと我慢して、そこからギアを入れる。最後は22メートル(ゴール前)の勝負になるから集中してやり切ろうと話し、選手たちをグラウンドに送った。本当によく頑張ってくれました。きょう登録された23人だけじゃなく、150人、対抗戦が終わってから成長してこられたことが勝利に繋がりました」
相良
「去年と同じ対戦カード(後述)になり、去年の4年生の思いがあり、(戦前には)先週、負けてしまった(試合に出ない)4年生同士の早明戦のリベンジの気持ちをしようと話しました。去年、負けていたスクラム、接点で去年から成長した部分は見られた。収穫の多い試合だったと思います」
——試合運びについて改めて。
大田尾
「勝つんだったらこの形かなと。うちのワーストシナリオとしては、後半20分くらいから明治ボールのスクラムでペナルティを犯して自陣の22メートルエリアに入られて、セットプレーを繰り返されること。そのため、井元を後ろに持って行った(先発することの多かった左プロップの井元正大はこの日リザーブから)。野中(健吾=今季中盤から正スタンドオフに定着)を後半に持ってきて、伊藤を下げた(この日スタンドオフで先発した伊藤大祐は、野中投入後にフルバックに転じた)のもうまくいったなと」
——スクラムは。
相良
「フロントロー(最前列)じゃないのでわからないですが、1年間スクラムに時間をかけてやって来たので、対応力はチーム全体で増している。1年間やったことが、出たのかなと。そこのプライドが1年を通してできてきた。フォワードが勝負できるチームになったなと」
——チームの成長は。
相良
「疲れている時、劣勢の時にバラバラになるのが年間を通しての課題だったのですが、僕が抜けていた間に4年生がひとつになり、引っ張るキャラじゃない人も声を出すようになった。そうしてまとまりができた」
大田尾
「『こういうゲームを作りに行こう』へのコミットメント、実行力が伸びてきた。チーム力、ですね。4年生を中心としたチーム力が、この3週間で加わってきて。まだまだ伸びしろはあると思うんですが、(理想の)7割くらいの状態にきているかなと思っています。
(今後の伸びしろは)状況の見極めです。最後、残り3分で敵陣にいて3点が欲しい、最悪、ドロップアウトでもいい。もしくは敵陣22メートル線周辺でのセットプレーならいいといった状況判断が、もう少し(必要)かと思います。前半も『このフェーズは獲りきりたい』という状況判断はもう少しかなと」
——選手権では東洋大学との3回戦から登場。
大田尾
「東洋大学戦かなりきつくて。選手も痛んでいたし、相手も本物だった。ここでかなりチームがまとまって、相良が言った先週の4年生早明でもものすごくいいパフォーマンスをした。きょうを見た対抗戦の終わりというより、対抗戦が終わって皆で必死にがむしゃらにやっての、きょう、みたいなイメージが強いです。あまりここまできれいにデザインした3週間というより、負けたら終わりなので、1週、1週という感じでした」
改めてこの日は、同じ対抗戦のライバルとの激闘を乗り越えた。来年1月2日の準決勝に進む4チーム中3チームが対抗戦勢で、唯一の関西大学Aリーグ加盟の京都産業大学も、慶應義塾大学と34―33と競り合っていた。
選手権では対抗戦上位陣が優勝争いの軸となっているが、現行のレギュレーションでは対抗戦2、3位が準々決勝でぶつかりそうな座組(3位が関東大学リーグ戦3位と対戦)。昨季も対抗戦の早明戦があった12月のうちに早大と明大の選手権準々決勝があり、勝敗が入れ替わった(対抗戦で早大が勝利も、選手権では明大が勝利)。
かようなレギュレーションに対し、当事者は何を思うか。勝った早大の大田尾監督は「何とも言えないです」としながら、こう述べた。
「厳しい戦いを2年連続したというのは間違いない。何が正解なのかはわからない。…まぁ、できれば、年を越したあたりで明治大学さんとぶつかれたらいいなとは思いますが、こればかりは与えられたものでやるしかない、と言うしかないです」
そもそも今回の選手権準々決勝は、国内トップにあたるリーグワン1部の第2節・計4試合と日程が重なっている。競争力、顧客満足度を最大化するカーディング、スケジューリングが求められる。