1200人に聞いた「人生100年時代、あなたは何歳まで働きたいですか?」
働く高齢者が増える理由
人生100年時代と言われる現在、65歳を過ぎ高齢期になっても働き続ける人の数は増え続けています。「労働力調査(2022年)」によると、65歳以上の就業者数は912万人で総就業者数の13.6%を占めています。10年前の2012年における65歳以上比率は9.5%でしたから、労働者に占める高齢者の割合はこの10年で4%増えています。
65歳を過ぎても働き続けている人が増えているのは、主に以下のふたつの理由によるものです。
ひとつは健康寿命の伸びに見られるように、65歳を過ぎても心身ともに健康な人が増加したこと。元気なうちは働き続け、年金プラスアルファの収入を得ることで、より良きシニアライフを送りたいと考える人たちです。
そしてもうひとつは、働かざるを得ない人たちです。とりわけ近年、物価上昇が著しい中、年金は伸びに追いついておらず、生活はますます苦しくなっています。国民年金や厚生年金のみでは生活することが困難で、働かざるを得ない人々も増加しています。
高齢期のライフステージモデルの変化
こうした人々が増えているのは、長寿化によって高齢期のライフステージモデルが変化したことも影響しています。
今から40年ほど前の1980年当時、日本人の平均寿命は現在より10歳ほど若い男性73歳、女性77歳でした。当時の男性のライフステージモデルは、60歳で定年を迎え、そこから十数年、年金暮らしを続け、「老後」を過ごすのが一般的でした。しかし現在は、平均寿命は10年程度伸び、仮に65歳でリタイアしても、そこから男性で16年、女性で22年という「長い老後」が待ち受けています。「長い老後」をいかにして過ごすべきか、長寿社会の老後のライフステージモデルのあり方が、現在改めて問われています。
こうした長寿化による老後のライフステージモデル変化の動き、さらには老齢年金や医療費・介護費など社会保障給付費の増大を受け、「65歳を過ぎても働き続けるべき」という社会的要請の声が次第に強くなりつつあることも、高齢期に働き続ける人が増えている背景にはあるでしょう。
日本人は何歳まで働くべきと考えているか
では、実際に多くの人々は、自分は何歳まで働くべきと考えているのでしょうか?オンライン・アンケート「ミルトーク」で、現在何らかの形で働いている20歳から82歳までの1,200人に、「あなたは何歳まで働くべきか」と、その理由について聞いてみました。
結果は図表1に見られる通りで、最も多い回答は、「(働けるうちは)いつまでも働き続けたい」というものでした。
図表1
・「自分が働きたいと思っているうちは働き、社会の役に立ちたいです。」(47歳・女性)
・「働きたい人は働けるだけ働いたらいいと思います。私自身も体が健康である限り、仕事を頂けるなら、働けるだけ働けたらいいなと思っています」(52歳・女性)
・「本人が出来るなら何歳でも。働く方が色々な意味で老けないと思います」(54歳・男)
・「死ぬまで働きたい。社会とかかわっていたいから」(58歳・男性)
など、ある意味で前向きに働き続けることを捉える声がある一方で、
・「貯蓄も無く国民年金のみなので死ぬまで働かないと生きていけないと思います」(67歳・男性)
・「できるだけ長く。働かないと生活していけないと思うから」(33歳・女性)
など、公的年金のみでは生活できそうにないために働き続けざるを得ないと考える人も一定数いることがわかりました。
働きたいと考える年齢は70歳まで
また、具体的年齢で回答されたものを年齢階級別5歳刻みに分類してみると、最も多かった働き続けたい年齢は「61〜65歳」、次いで「66〜70歳」と、多くは60代の回答が集まりました。
「50歳まで」、「60歳まで」という回答も100名以上おり、これは筆者にとっては予想外の回答でもありました。
「50歳まで」と回答した人には、
・「まだ動ける年齢なので趣味を楽しみたいから」(39歳・男性)
・「それ以降は体力的にきついと思うからです」(29歳・女性)
など、もしかすると中高年期以降の生活にリアリティが感じられていない人の回答だったかもしれません。
60歳までと回答した人の多くは、体力的にも60歳までが限界で、定年を機に、「老後を楽しみたい」「やりたいことにチャレンジしたい」「旅行に行きたい」など、ゆっくりしたい、自分の時間を楽しみたいと回答した人が多いように感じました。
・「60歳。身体が動くうちに自分の時間がほしいです」(53歳・男性)
・「60歳。もういい加減労働から解放されて身体が動くうちに好きなことをしたいから」(34歳・男性)
・「60歳が限界です」(34歳・女性)
・「60歳。それ以上はのんびり暮らしたいので」(35歳・女性)
このように60歳を契機に「のんびりしたい」という意見は、65歳においても同様に多いものでした。現在、定年の年齢、定年後の雇用延長年齢の多くが、60歳、65歳に集中していることから、この年齢層に同じような意見が集まったのでしょう。
年齢によって「働き続けたい年齢」に差はあるか
もしかすると、現在の年齢によって「働き続けたい年齢」に大きな差があるかもしれません。それを調べてみたものが図表2になります。
図表2
横軸が回答者の実際年齢で、縦軸が「働きたいと考える年齢」です。緑色の直線が実際年齢を指し、青色のドットが、「働きたいと考える年齢」を指しています。赤色の点線は、「働きたいと考える年齢」回答データから得た近似線です。(「いつまでも働きたい」「働きたくない」など、働きたい年齢不詳のものはグラフデータから外しています。)
近似線からも、年齢が高くなるにつれ働きたい年齢が上がる傾向は多少見られますが、多くは60歳から75歳の5歳刻み年齢幅に収まっていることがわかります。80歳以上と回答した人は少数に留まっています。
先ほど紹介した「労働力調査(2022年)」データでは、男性就業率は60〜64歳83.9%、65〜69歳61.0%、70〜74歳41.8%、女性就業率は60〜64歳62.7%、65〜69歳41.3%、70〜74歳26.1%と、現実的には男性では6割が、女性では4割が60代後半でも働き続けています。
このように見ていくと、多くの人々が考えている「働きたい年齢」よりも、実際には長く働かねばならないという現実がそこには横たわっています。
こうした現実を踏まえた上で、私たちは改めて働くことの意味を考えなくてはなりません。
働くことを苦痛から楽しみに
今回のアンケートを行なって感じたポイントを最後にあげてみたいと思います。
ひとつは、働くことを苦痛と考える人が一定数いるということです。だからこそ、定年などを契機に働くことから離れたいと望む人が多いのでしょう。
しかし、働くこと、そこにはさまざまな意味が込められています。もちろんその中で「生活のための収入を得る」ことが大きな割合を占めますが、それ以外にも、「社会の役に立つ」「生活のリズムを得る」「身体を動かす」「社会との接点」など、働くことを通じて得られる「心理社会的効用」もあるはずなのですが、働きたくないと考える人にとっては、「働くことによって生じるさまざまな負担」が、そうした「心理社会的効用」を上回っているということなのかもしれません。
しかし、人々が長く働き続けたいと考えていくためには、苦痛を上回る「心理社会的効用」を感じ取ってもらう必要があります。
日本は今後、人口減少が急速なスピードで続いていきます。さまざまな分野で、人手不足、労働者不足が今後表面化していくことが予想されます。
それだけに、これからの社会は、高齢期になっても何らかの形で働き続けたいと考える「生涯現役意識」を多くの人たちが持つ必要があります。
ここで言う「働く」とは、何もどこかの組織に属して働くことだけを意味するものではありません。ボランティアをする、学童の見守りをする、元気な高齢者が近所の高齢者の困りごとを助けるなど、「働く」には、さまざまな働き方があります。そうした意識を多くの人々が持つことによって初めて、超高齢社会の課題をひとつ乗り越えていくことが可能になるのではないでしょうか。