(その2)#9月入学賛成 vs. #9月入学反対:ツイッター上で繰り広げられる賛成運動・反対運動
以下の先週の記事の続きです。
(その1)#9月入学賛成 vs. #9月入学反対:ツイッター上で繰り広げられる賛成運動・反対運動
#9月入学賛成 #9月入学反対
前回の記事では、ツイッター上において、#9月入学賛成 #9月入学反対 というハッシュタグがある種の意見表明フォーマットになっている点、そしてそれを旗印にしたツイッターデモ・抗議活動が盛り上がりつつあることを指摘した。
そして、このハッシュタグのどちらかのみを記載しているツイートが「賛成側」「反対側」と見なせることに注目し、賛成論・反対論の特徴をテキストマイニングで確認したというのが前回の記事の要点である。ただし、前回はよく現れる語だけをチェックしたのみなので、今回の記事ではもうすこし別の観点から見ていこう。
共起しやすい語
ツイッターには1ツイートに付きおよそ140字の字数制限がある。そうした限られた環境で、何度も同時に現れている語があるとすると、それらは結びつきの強い語である。もっと言えば、似たような論点で出てくるキーワードと言えるかもしれない。実際、どのような語が共起しやすいだろうか。
この問いについて、多次元尺度構成法(MDS)という方法を用いて分析した。
図を見てもらったほうが早いだろう。簡単に言えば、近くにあるほど共起が多かった語である。
数多いキーワードに圧倒されるかもしれないが、実は、分析するまでもなく自明な「発見」も多い。
たとえば、図は、「就学」と「児」(図右側)が、あるいは、「2020」と「年度」(図上側)が非常に共起しやすいことを示している。前者は「未就学児」が、後者は「2020年度」というキーワードが切り出されたためであり、当然の結果である。
また、図の右下を見ると、「抗議」と「犠牲」の共起がわかる。一見奇妙な傾向だが、実際のツイートを見るとよくわかる。たとえば以下のもの。
要するに、ツイッターデモでの「#未就学児を犠牲にする9月入学に抗議します」というハッシュタグを拾い取ったものである。
時期・賛否との関係
次に、各語と、ツイート時期それと賛成反対との対応関係を見てみたい。対応分析という方法で検討した。
これも図を見てもらったほうが早いだろう。
周辺にあるほど特徴的な語であり、中心に近いほどありふれた語である。図の中心には多数の字が重なっていて判別不能だが、以上の理由から無視して構わない。
日付に注目すると、左右の軸がツイート時期であることがわかる。つまり、右にあるほうが、4月下旬~5月上旬によりツイートされた語で、左にあるほうが5月中旬寄りである。
一方、上下の軸は、明確なものではないが、賛成・反対と解釈できるだろう。上にあるほうがどちらかといえば反対寄りで、下にあるほうが賛成寄りだと言える。(たしかに、先日の記事の「賛成寄りの語・反対寄りの語」リストと対照すると、その傾向が見いだせる)
目にとまるのは、5月16日~17日の特徴的な動きである。これは、この時期に賛成側・反対側が、独自のハッシュタグを用いた「ツイッターデモ」を行った結果である。
たとえば、図左上の「抗議」「犠牲」「就学」「児」はまさに前述の「#未就学児を犠牲にする9月入学に抗議します」を反映したものである。
また、図左下にある「2020」「年度」「学び」「機会」「全員」「年齢」もやはりハッシュタグを反映したものだが、こちらは、賛成側の旗印のハッシュタグである。たとえば次のツイートが典型的である。
「9月入学=グローバル」論
ここまでは、ツイッター運動の枠内での話だったが、9月入学論に関して興味深い点をひとつ指摘しておきたい。それは、前回の記事でも触れた「9月入学=グローバルスタンダード」という論拠である。
少しわかりづらいが、「グローバル」は、図の最も右側に位置していることがわかる。つまり、早い時期に特徴的だった語だということである。
たしかに、4月末に知事会がぶちあげた「9月入学=グローバルスタンダード」論は賛否両論を巻き起こした。しかし、よく考えれば自明の通り、留学のしやすさとか国際標準かどうかなどは、当事者(児童生徒や現場の教師、学齢期の子供を持つ保護者)にしてみれば優先度の低い論点であった。実際、休講に起因する種々の問題からすれば本件は極めて「どうでもいい」話である。
だからこそ、ツイッターで賛成側・反対側の抗議運動が燃え上がるにつれて次第に「忘却」されていったという構図が読み取れる。
ここまでで注目したキーワードに絞って、言及率のトレンドを確認しよう(以下の図)。
「未就学児」「学び」への言及は知事会の提言のときこそ少なかったものの、その後増加している。一方で、「国際」あるいは「グローバル」に言及したツイートは徐々に存在感を失っている。
もっとも、「未就学児」も「学び」も5月16~17日頃のハッシュタグ運動の流れの中で爆発的に増加したことを考慮するべきだが、だとしても、それ以前よりすでに増加の兆しが見えており、「グローバル/国際」とは対照的である。
教育現場の苦境をグローバル化推進のダシにすべきではない
本記事は、ツイッターでのハッシュタグ運動に注目したものであり、9月入学論に具体的な提言をする性格のものではない。しかし、次の指摘はできるだろう。それは、知事会をはじめとして非当事者がしきりに言う「9月入学=グローバルスタンダード」論は、当事者の訴え(賛成論にせよ反対論にせよ)を満足にすくい取れていない点である。
これは知事会だけに限らない。たとえば、東京財団政策研究所という団体が、5月12日に「【共同提言】小中高生の教育機会均等のため、卒業を6月に、大学は秋入学へ」という提言を出している。 タイトルこそ、小中高生の学習環境に寄り添う姿勢を見せているが、中身を見ると印象は180度変わる。国際化や留学のしやすさ(日本人の海外留学の促進、優れた外国人の来日)という「メリット」ばかりが語られており、具体的にどこが機会均等に関わるのか不明。これでは、「児童生徒の苦境をダシにして、欧米志向の大人たちが『理想』を語っただけの身勝手な提言」と言われても仕方ないだろう。
このような残念な提言にならないよう、最低でも、留学に関する論点(および入試時期の季節的リスクの論点)と、児童生徒の学習保障に関する論点は、厳密に区別するべきである。