キャビア、フォアグラ、黒毛和牛……品川駅の上空で開催されている「秘密のディナー」とは?
隠れ家レストラン
隠れ家レストランに行こうと誘われたら、どのようなレストランを想像するでしょうか。
ミシュランガイドには隠れ家レストランといったカテゴリがなく、店舗データにも隠れ家レストランを示すアイコンは存在しません。食べログでは、詳細検索する際にロケーションとして隠れ家レストランを選ぶことができます。
隠れ家の意味は次の通りです。
これによると、隠れ家レストランは「人目を避けた場所にあるレストラン」「表立たないところにあるレストラン」ということになるでしょう。
そして、ある種のわかりにくさこそが、隠れ家レストランの価値とされているのです。
隠れ家とは何か
本来であれば隠れ家レストランはそうそう存在しておらず、しかも、知られていないはずですが、グルメ記事では、隠れ家レストランといった形容が当然のように用いられてきました。
それに対するネガティブな反応は「本当に知られていないのか」や「不便な場所にあるだけではないか」といった疑問です。
確かに、大通りをただ一本入った路地にあれば隠れ家なのか、アクセスが悪いために迷っているのに隠れ家なのか、人気がなくて通り過ぎていくような店が隠れ家的なのか、といった批判はあります。
しかし、こういった指摘を納得させられるような、隠れ家レストランがあるのです。
それは、ストリングスホテル東京インターコンチネンタルの「 ディネ・スクレ( Diner Secret )」。
「ディネ・スクレ」とは
ストリングスホテル東京インターコンチネンタルは品川駅からペデストリアンデッキで直結している、アクセス抜群のラグジュアリーホテルです。ビルの26階から32階という高層階に入居し、眺望も抜群。有名ホテルなので多くの人に知られており、便利なロケーションに位置しています。
このホテルの中に、フランス語で「秘密のディナー」を意味する「ディネ・スクレ」が行われているというのです。2020年11月24日から平日夜限定で開始され、3日前までの要予約で2名から利用可能となっています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてしばらくの間休止していましたが、2021年11月1日から、月曜日から木曜日の夜限定で再開されました。最大で3組まででエクスクルーシブ感があります。
この秘密のディナーを主宰するのが、総料理長を務めるフランス・トゥールーズ出身のオリヴィエ・ロドリゲス氏。フランスやイタリアで研鑽を積み、フランス料理はもちろん、イタリア料理も得意としています。
ストリングスホテル東京インターコンチネンタルにはフランス料理店はないので、ロドリゲス氏の本格フレンチが楽しめる、唯一の機会がこの「ディネ・スクレ」なのです。
秘密のディナーの内容
そのロドリゲス氏による秘密のディナーは、次の通り。取材時の内容です。
ディネ・スクレ(18,700円、税込・サ別、2人から)
・ストゥーリアキャビア&貝類のコンソメジュレ&ヴィシソワーズのクーリ
・サフラン雲丹ブランマンジェ カリフラワームース&パセリクーリ
・りんごを纏ったフォアグラのスチーム&りんごのチャツネ カルダモンソース ブリオッシュトースト
・甘鯛の鱗焼き ブイヤベースエミュージョン&フェンネルのコンフィ
・お口直しのグラニテ
・黒毛和牛のフィレ 京人参の赤ワインブレゼ ブラックスパイスのサバイヨン
・洋梨のコンポート 洋梨のソルベ&ジュレ カカオソース
・コーヒー または 紅茶
・小菓子
コース内容は冷前菜、温前菜、魚料理、グラニテ、肉料理、デザートと、オーソドックスなフランス料理の流れ。
キャビアやフォアグラ、甘鯛、黒毛和牛といった高級食材が用いられており、ハーブやスパイスを用いた魅力的なメニューばかりです。
料理にぴったりなワインペアリング(5種、9,900円、税込・サ別)も提供されているので、オーダーすればより楽しめることは間違いありません。
では、それぞれの料理を詳しく紹介していきましょう。
ストゥーリアキャビア&貝類のコンソメジュレ&ヴィシソワーズのクーリ
アミューズはロドリゲス氏のスペシャリテから。フランス産キャビアの隣にはジャガイモの冷製スープのペーストがあり、底には貝類のコンソメジュレがあります。キャビアの塩気、ヴィシソワーズの甘味、ジュレの旨味が一体化しているといってよいでしょう。添えられたブリニに載せて食べれば、また違った味わいが楽しめます。
サフラン雲丹ブランマンジェ カリフラワームース&パセリクーリ
ウニのブランマンジェが下層に重ねられているので非常に濃厚。カリフラワーのムースには優しい甘みがあり、一番上には磯の香りが豊かな生ウニ。プレートの上下に配されたパセリのソースは適度な苦味があって、よいバランスです。
りんごを纏ったフォアグラのスチーム&りんごのチャツネ カルダモンソース ブリオッシュトースト
フォアグラにリンゴを巻いてから焼いた意欲作。フォアグラの脂に酸味が加わり、とてもさっぱりとします。下に敷かれたチャツネも、ちょうどよいアクセントです。リッチなブリオッシュトーストはフォアグラとの相性が抜群。
甘鯛の鱗焼き ブイヤベースエミュージョン&フェンネルのコンフィ
食味のよい甘鯛をカリカリの鱗焼きにしました。ふっくらとした身と表面の鱗との素晴らしいコントラストが印象的です。ブイヤベースのソースは香りが豊かで、フェンネルの茎のコンフィには心地よい苦味が感じられます。
黒毛和牛のフィレ 京人参の赤ワインブレゼ ブラックスパイスのサバイヨン
牛肉の格付けでA4の黒毛和牛フィレ肉を使用。厚みがたっぷりとあり、美しい赤いグラデーションを描くように、丁寧に焼かれています。ブラックスパイスのサバイヨンソースは濃厚ながらもスパイシーで、肉の食味が高められています。
洋梨のコンポート 洋梨のソルベ&ジュレ カカオソース
洋梨とカカオの深みのあるコンビネーション。洋梨のジューシーな甘味と、チョコレートの苦味とのメリハリが心地よいです。洋梨に見立てたチュイールも目を引きます。
「ディネ・スクレ」が企画された理由
秘密のディナーという、ホテルでは珍しい企画はどのようにして持ち上がったのでしょうか。
総料理長のロドリゲス氏は「密を避けられる個室の需要が高まっている。ソーシャルディスタンスを保ちながら素晴らしい食体験をご提供したかった。個室であるだけではなく、これまでとは異なるユニークな料理を提供することが重要であると考えた」といいます。
スタッフは既存レストランに加えて「ディネ・スクレ」の料理もつくらなければならないので大変ですが、新たなチャレンジとして楽しんでいるということです。
ゲストの反応についても尋ねました。
「繊細ながらも緩急がある味で、おいしかったというお言葉が多い。ワインとのペアリングも好評。メインダイニングがある吹き抜けエリアとは違い、隠れ家のような空間でエレガントなフレンチを堪能できるのが嬉しいという声をいただいている」
コロナ禍の中なので、定期的な消毒の強化、スタッフによる接客時のマスクや手袋の着用、ソーシャルディスタンスの確保も十分に行われています。
「ディネ・スクレ」は通年で提供していく予定であり、今後は季節に合わせて新しくなるということです。
話題となりそうな隠れ家レストラン
「ディネ・スクレ」では、開かれたホテルのダイニングでありながらも、閉ざされた快適なプライベート空間の中で、ロドリゲス氏による、ここだけの渾身のフレンチが味わえます。
誰にも知られていない隠れ家レストランは、食通にとっても、食にあまり興味がない人にとっても、めったに食べられるものではないという希少性から興味をもたれるもの。
イギリス・ロンドンにある人気インドレストラン「ダージリン・エキスプレス」のアスマ・カーン氏はかつて、週末に自宅で秘密の食事会を開催していました。そのクローズドな美食サロンが話題となって、本物の店舗をもつようになり、世界に知られるような有名店に成長させたという経緯があります。
空間も料理もワインも揃った「ディネ・スクレ」は、知る人ぞ知る魅惑的な隠れ家レストランではないでしょうか。