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「小さいからラグビーなんかできねーよ」に反発。初来日ファフ・デクラークの反骨【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
報道陣の求めに応じ、パスを放る(筆者撮影)。

 チームのトレーニングが熱を帯びてきた頃、スタンドに集められた報道陣が一斉に前列へ並ぶ。被写体にレンズを向ける。

 お目当てのブロンドヘアが芝に出てきたからだ。

 ラグビー南アフリカ代表のファフ・デクラークが、12月1日、新加入した横浜キヤノンイーグルスの活動に参加していた。

 室内での用事を終えてグラウンドに現れた。全体練習が終わるのを見届けると、同じスクラムハーフのポジションの選手にボックスキック(接点の後ろから蹴り上げるキック)の動作を伝授。こう振り返った。

「ボックスキックのテクニックを教えてくれと言われたので。ボールへの力の伝え方を伝えました。彼らもよく反応し、採り入れてくれているみたいです」

 楕円の尖がった部分に近い位置に足の甲あたりを当てることで、ボールの腹を軸に両角が回転するのを伝えていたような。

「特に事前に予定していたわけではなくて。(グラウンドから)上がろうかと思ったら、ハーフのひとり(天野寿紀か)が『教えてくれ』という感じ。自分から彼らから学べることも多くあるし、彼らからラグビーに関して質問されたら何でも答えたい。お互い相乗効果で成長できたら。仲間と意見交換して高め合っていけることも、楽しんでいます」

 身長172センチ、体重88キロの31歳。2019年のワールドカップ日本大会では、初めて8強入りした日本代表を決勝トーナメント準々決勝で26―3と撃破。3度目の優勝に輝いている。

 世界屈指の実力と国内有数の知名度を誇る海外選手の加入は、注目を集めている。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——ワールドカップフランス大会を来秋に控え、南アフリカ代表の完成度は。

「いい状態と言える。最後のイングランド代表戦でもいい成績を残せた(27—13で勝利)。11月のツアーの前には若手を起用し、選手層が厚くなった。これで怪我人が出ても優秀な選手で埋められる。(現在世界ランク上位2傑の)アイルランド代表、フランス代表にも勝てると証明できた(それぞれ16―19、26―30で惜敗)。日本大会の1年前にあたる2018年の時よりもいい状態です。ここからどんどん上げていく」

——ご自身は今週からチームに合流しました。チームや日本のラグビーへの印象は。また、今回のリーグワンで目指していることは。

「合流して2回しか練習を見ていないですが、それだけでも才能あふれる選手が集まっていると感じました。経験値の高い選手、今後の日本代表候補となりそうな若手もいる印象です。リーグワンでは南アフリカの友人がプレーしていて、彼らから『タフなリーグだ。スタンダードも高い』と聞いていた。そこで戦えることを楽しみにしています。

まずはキヤノンでいいプレーをして実力を示す。新人として入ってきているので、コーチ、選手たちに自分の存在を認めてもらいたい。リスペクトを得られるような振る舞いをしたい。トップ4を目指します。プレーオフに入ったらどこが勝ってもおかしくない状況になる。そこへ進出したいです」

——同僚に同じ南アフリカ代表のジェシー・クリエルがいる意味は。また、南アフリカ代表の選手は他チームにたくさんいますが。

「ジェシーがいることには助かっている。海外から日本に来て生活に慣れるにあたり、色んなことを教わっています。来て間もないですが、近所のカフェ、レストランを紹介してもらった。その意味でも心強いです。

代表のチームメイトと日本で対戦する。彼らがトップレベルの選手であると熟知したうえで、彼らと戦うのはすごく楽しみです。日本の生活で困ったことがあったら彼らにも色々と聞けるのが心強いです。日本で彼らと対戦することへは、最初は変な感じがするかもしれません。ただ、グラウンドへ入れば真剣勝負。相手が嫌がるようなことを、どんどんしていきたいです」

——日本でのプレーを通して。

「アタッキングラグビーを体験することはフィットネス向上につながる。(母国では)キックを導入するので、そこが日本で十分にできないのであれば、エキストラ(個人練習)で精度を高め続けないといけない。

何より日本での生活を思い切り楽しみたい。日本人、外国人と仲良くなり、日本語も勉強したい。

色んなスタイルのプレーができることも証明したい。イングランドでは雨が多くスローな展開を経験できた。日本では速い展開に。オールラウンドでプレーできることを見てもらうことで、代表のセレクションに入っていけると思います」

——代表戦ではゴールキッカーも務めていたが。イーグルスでは。

「必要であれば。ただ、他にいいキッカーがいるので出番はないかと」

——田村優選手と司令塔団を組む。

「彼とは何回か会話をしました。ラグビーのことではなく、別のことです。

 さっき、言われたのは『俺、年だわ』。あとは日本の家について『落ち着きました?』と。他にはコーヒー(を飲み)に行こう、今度、酒を飲みに行こうという感じでした。

 前評判からはもちろん、実際に対戦した経験からも感じます。彼は日本一、スキルのある選手。彼とコンビでやれるのは楽しみです。2019年ワールドカップの時は彼を脅威と思っていたので、徹底的に狙っていました。その彼とプレーできるのは楽しみです」

——英語圏以外でプレーするのは初めて。

「コーリング、フィールド内での会話は英語。シンプルなので、覚えやすいはずです。田村がクリアに英語と日本語を混ぜて話してくれるので、わかりやすい。あとは自分が頑張って日本語を覚えます」

——日本で困ったことは。例えば、選手の顔と名前が一致しないなど…。

「それは、ありました! マスクをつけている人もいるので、苦戦しました。ロッカールームに名前と顔が載ったものが貼られているので、それで覚えたいです。ただ困ったことは一切、ないです。歓迎してくれて、何かあったら助けてくれる。ワールドカップで来た頃から、日本は素晴らしい国だと思っています。最高です」

 改めて、デクラークは本格合流前だ。

「メディカルチームにチェックをしてもらっています」とのことで、「うまくいけば来週の頭には(本格的に)合流」。11月20日のイングランド代表戦で、最終戦で左足首を負傷していたからだ。

「腫れさえ引けば、戻れるかなと」

 12月18日の開幕節(コベルコ神戸スティーラーズ戦/神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場)へ、練習試合を経ずして出場する意欲を示した。

「やはり新メンバーとして出ずに横で見ているのは印象としてもよくないし、その立場になるのは嫌。足首の腫れを引かせ、セレクションに入れるようにしたいです。

 特に不安はない。ぶっつけ本番でも大丈夫です。自分はプレーの憶え、選手たちのプレーの感覚で掴むのが速いほうだと思います。コーチから(戦術などの)ディテールを聞き、役割をクリアにする。それを徹底的に遂行すれば、あとは目の前の状況に応じてプレーできる」

 チームを率いる沢木敬介監督は、冬に入ってからの各国代表組の合流についてこう私見を述べている。

「あいつらはすぐにフィットする。それまでに色々なところでレベルアップできればいいと思います。毎回、練習(の動画や内容)は(所属選手だけが見られる格納先へ)上げている。(代表組は)それぞれ見ていると思います」

 ちなみに今度の会見では、自身の原動力についても話題が及んだ。

 小さな身体で大型選手の多い南アフリカ代表のレギュラーとなれた理由について聞かれれば、こう述べていた。

「ラグビーを始めた頃から、自分はどのチームに行っても身体が小さいほうでした。父もきょうだいも小さかった。ただ、彼らから教え込まれました。『怖がるな、ビビるな』と。

『お前は小さいからラグビーなんかできねーよ』とさんざん言われてきて、『畜生!』と見返したいと思ってきました。それが、原動力です。

でかい相手がこちらへ走ってくる。『こいつは小さいからタックルなんかできないだろう』と考えられているであろうなか、思いっきりタックルへ行ってビビらせる。それをいまは、楽しんでできるようになりました。

小さいゆえにチャレンジすることが多いですが、自分はチャレンジすることが好き。だからこそ日本に来て、チャレンジしているところもあります」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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