【国会改革】国民民主党が官僚の深夜残業是正に向けた改善策を発表、まずは各党できることから実施を
「日程闘争」脱却には与野党の協力が必須
台風前夜の「国会待機」をきっかけに、改めて注目が集まり、機運が高まりつつある官僚の深夜残業是正、国会審議活性化に向けた「国会改革」。
11月20日、筆者が代表理事を務める日本若者協議会が主催して、現役・元官僚、内定者・官僚志望の学生を交えた「国会改革・官僚の働き方を考える」国民民主党との意見交換会が開催された。
日本若者協議会からは現役・元官僚らの意見を踏まえた、「国会改革案」を提言(提言全文は末尾に載せる)。
その後、出席した国民民主党の玉木雄一郎代表、古川元久 党政治改革推進本部長、伊藤孝恵 参議院議員と意見交換を行った。
以前から度々言及しているように、この国会改革には与野党の協力が欠かせない。
特に、本丸である「日程闘争」からの脱却のためには、審議日程の計画化、法案修正の活性化などを行う必要があり、与野党で互いに落とし所を模索しなければならない。
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官僚の負担軽減のために党として実施できることも
他方、官僚の深夜残業是正のために、党として実施できる改善策もある。
たとえば、「質問要旨をFAXではなく、メールなどオンラインで提出すること」や「オンライン議員レクの積極的活用」、ペーパーレス化などだ。
そして、11月20日、意見交換会にて、国民民主党より官僚の深夜残業是正に向けた改善策が発表された。
19日、政治改革推進本部(古川元久本部長、泉健太本部長代行、奥野総一郎事務局長)が第一次案を取りまとめた。
国会公務員の労働環境是正のための国会改革に向けた第一次案
(前略)現在の国会運営を前提とした中での、国会質問への職員の答弁作成等の業務の効率化・削減に資するよう、党として取り組むべきことを以下の通り提案する。
○省庁側の『待機』を減らせるよう、質問分野の先行通告などに取り組む。
○データ共有を簡易にするため、文書により質問通告をする場合はデータ送信を基本とし、その後の調整のために秘書の携帯電話番号付記などのルール化を進める。
○国会議員・秘書へのオンラインレク実証実験への参加・協力を進める。
<今後の検討項目>
○委員会開催日程の早期確定に向けた与野党の協議
○議員の質問作成時間の確保と早期の通告との兼ね合いを踏まえた仕組みづくり
○質問主意書のあり方
○政府参考人の拘束時間の短縮
もちろん、本丸は「日程闘争」からの脱却、国会審議の活性化、実効性の強化であるが、与野党による丁寧な協議が欠かせず、今すぐに実現できるものでもない。
一方で、8月に厚労省若手チームから、「悲鳴の声」のような緊急提言が出されたように、官僚の労働環境は限界に近づきつつあり、待ったなしの状況である。
そのため、超党派、衆議院・参議院両院での協議も進めつつ、各党それぞれの早急な取り組みを期待したい。
国会の活用を
また、今回の「第一次案」では検討項目にとどまったが、「質問主意書」の“乱発”が官僚への大きな負担として問題になっており、こちらの改善も欠かせない。
閣議決定を不要にする(質問主意書への回答者を、「内閣」ではなく、「内閣総理大臣その他の国務大臣」に変更する)ことなどは国会法の改正が必要であり、超党派で取り組む必要があるが、同じ質問内容の質問主意書は控える、「野党合同ヒアリング」ではなく、国会の「予備的調査の活用」を進めることも一案である。
細野豪志衆議院議員が指摘しているように、現状、多くの議員が調査や法案作成に官僚を頼っているが、国会には国会図書館や調査室など、充実した調査機能が揃っており、そちらをもっと活用すべきである。
そして、現状ほぼ唯一の政治家の外部評価として機能している、「万年野党」というNPO団体(会長:田原総一朗、2014年1月設立)が、選定・表彰している「三ツ星議員」の評価指標から、質問主意書の回数をなくし、「質問・立法回数」から「質問・立法の質」へと評価軸を転換すべきだろう。
関連記事:官僚の長時間労働の一因になっている「質問主意書」のルールも変えた方が良いのでは?
20日の意見交換会にて、国民民主党の古川元久議員が「イギリスでは、逐条審査における自由討議が政治家の登竜門になっており、そこで実力が足りない議員は副大臣、大臣に上がれない評価の仕組みになっている」と紹介していたが、日本でも逐条審査や自由討議を導入し、(国民に開かれた場で)もっと与野党の議員同士が国家像や特定の課題について議論を行い、本当に実力のある政治家が評価されるべきである。
(自由討議は1947年に国会法が制定された当時、本会議における自由討議制度が設けられ、「各議院は、国政に関し議員に自由討議の機会を与えるため、少くとも、二週間に一回その会議を開くことを要する」と定められていたが、審議の効率性を妨げるとして1955年の国会法改正により廃止された)
いつになったら政策論議をきちんと報道するテレビ局が出てくるのか?
官僚の負担軽減に向けた国会運営の計画化、ICTの活用による効率化などは政治家が果たす役割が大きいが、国会審議の活性化(審議内容の伝達)に向けては、他のステークホルダーの改善も欠かせない。
先日の言論NPOによる調査結果を見ても明らかなように、国会に対する国民の信頼は低く、その大きな原因が「国会で真面目な議論が行われず、何をしているのか分からないから」という評価である。
関連記事:若年層ほど高い「政治家・国会に対する不信感」。どうすれば改善できるか?
しかし実際には、逐条審査や自由討議、事前審査制・会期不継続の原則を前提にした法案修正の少なさなど足りない部分はあるものの、各委員会で真面目な議論は行われており、法案審議はされている(見たことがない方は、インターネットで中継されているので、各委員会の様子をぜひ一度見て欲しい)。
問題は、それを報じないメディアであり、特に公共性の高いマスコミである。
スキャンダルの話題が出てくると、必ず「野党はスキャンダルばかり追及している」という声が多く出るが、それ以外の法案審議はカットされ、多くの真面目な政治家は嘆いているのが実態だ(もちろん一部それに乗じて集中的に取り上げる議員はいるが、マスコミとの共犯関係であり、マスコミが変わらなければなかなか変わらないだろう)。
※誤解ないよう補足しておくと、「桜を見る会」に関する報道が重要でないと言っているのではなく、そればかり取り上げすぎ、という趣旨である。
「国会改革」に関する今回の提言は、対政党であり、政治家が対象であるため、報道については触れてはいないが、果たす役割は大きく、政治家だけでなく、報道関係者も変わらなければならない。
令和元年11月20日
一般社団法人日本若者協議会
国会改革、国家公務員の長時間労働改善に対する申し入れ
厚生労働省の若手チームが本省職員にアンケートしたところ、20代後半の職員の約半数が「やめたいと思うことがある」と回答し、また「官僚の働き方改革を求める国民の会」の全省庁1,006名の官僚へのアンケート結果によると、平均残業時間は年963時間であった。これは人事院の定める超過勤務命令の上限720時間を大きく上回っており、月80時間の過労死ラインを常に上回っている計算である。このように、国家公務員の「ブラック化」は強まる一方、キャリア官僚志望の学生まで減少傾向にある。
その長時間労働の大きな原因の一つが「国会対応」であり、労働環境の改善、官僚の政策立案機能の強化(回復)、ひいては国民の生活のために、国会改革が求められている。
また、日本財団が17〜19歳を対象に行なった調査では、国会が国民生活に役に立っているかの問いに、3割が「役に立っていない」とし、半数近くは「わからない」と答えている。
国会の議論に関しても、過半数が「知っている」、「多少は知っている」としているものの、54.8%は「有意義な政策議論の場になっていると思わない」と答え、その理由として「議論がかみ合っていない」、「政策以外のやり取りが多すぎる」、「同じ質問が繰り返される」などの点が指摘されている。
これらの背景には、与党の事前審査制、会期制(会期不継続の原則)による「日程闘争」を中心とした、法案審議プロセス、国会審議の形骸化があることは明らかである。
他方、国会議員からも度々「国会改革」が叫ばれており、その課題意識は共有されているものと思われる。
そこで、「言論の府」にふさわしい国会審議活性化、国家公務員の長時間労働改善、さらには若者にとって、政治家や官僚が魅力とやりがいのある職業になるために、以下の点について、各党の取り組みをお願いしたい。
1.質問通告に関するルールの見直し・徹底
1999年9月に、原則として「前々日の正午までに質問の趣旨などを通告する」ことが、与野党の国対委員長間で申し合わせされたが、現状は形骸化しており、実際の通告は質問前日の夕方や夜になることが多く、国家公務員の長時間労働の温床になっており、後述の「審議日程決め」とあわせて、改善が求められる。
・質問通告は2営業日前までに実施すること(期限を過ぎた場合は後日文書による回答とする)
・質問通告の内容・提出時間を事前に公開すること
・質問要旨をFAXではなく、メールなどオンラインで提出すること
・質問通告のフォーマットを変更すること(質問の「要求大臣」だけではなく、「質問内容」も含める)
・質問詳細の問い合わせ(質問取りレク)不可を禁止にすること
2.審議日程の決定方法の見直し
前述の「質問通告2日前ルール」があるものの、実際には委員会の開催が2日前の午後以降に決まることもあり、質問通告の早期化、「日程闘争」からの脱却のためには、審議日程の決め方を変える必要がある。
厚労省職員へのアンケートでは、「何が業務量を増やしているか」という問いに対して、7 割以上の職員が、「厚生労働省で作業量・スケジュールを決められない他律的業務が多い(国会業務、内閣官房・内閣府からの作業依頼など)」と回答しており、国会運営の計画化は極めて重要である。
・国会開会直前もしくは開会後速やかに、(議院運営委員会もしくは各委員長により)本会議・委員会の審議日程、採決の日取りまであらかじめ決めておくこと(少なくとも審議日の1週間前には公表)
・通年国会の導入(会期不継続の原則の見直し)
3.質問主意書のルールの見直し
質問主意書は閣議決定を要するため、業務負担が大きいのに加え、近年は件数が大幅に増えており、手続きの見直しが求められる。
・議員からの質問主意書提出日から内閣への転送日の間を2日程度延長すること
・質問主意書への回答者を、「内閣」ではなく、「内閣総理大臣その他の国務大臣」に変更すること
・同じ質問内容の質問主意書は禁止とする(政府が同質問だと判断した場合は閣議決定不要とする(上記「内閣総理大臣その他の国務大臣に変更」が実現できない場合)、答弁が作成されていない同様の質問は控える、等)
4.国会審議の活性化に向けた改善策
日本の国会では、与党の事前審査制によって、実質的な国会審議が行われておらず、内閣提出法案の修正率は1割にも満たない。結果的に、(法案審議ではなく「日程闘争」に重きが置かれ)国民に政策議論が伝わりにくく、信頼も獲得できていない。そのため、法案修正の活性化や逐条審査、自由討議などを導入することで、より活発な政策議論が行われる場所へと転換すべきである。
また、「参考人招致」や「特別委員会の設置」は行政監視の一環であるにもかかわらず、与党が拒否すると実施されないという矛盾を抱えており、是正すべきである。
・逐条審査の実施
・法案修正の活性化(与党の事前審査制を一部改め、法案審議を国民に開かれた国会中心とする、内閣が議案を修正できるように国会法59条の改正)
・予備的調査の活用・拡充(「野党合同ヒアリング」ではなく、国会の予備的調査の活用を原則とする)
・少数者調査権の導入(与党=多数会派が反対しても、参考人招致や特別委員会の設置を可能にする)
・党議拘束の一部緩和
・国会議員間の自由討議の活性化(法案審議がない時は自由討議とする)
・党首討論の定例化・夜間開催
・国会会議録に加え、委員会配布資料の公開や、委員会審査等に関する報告書の作成
5.その他
・明らかに効率の悪い、国会答弁資料の印刷・資料組み・資料持込みを不要にするために、本会議・委員会でのパソコンやタブレット等の使用(ペーパーレス化)の義務化を求める。
・国会対応に要する移動等の負担軽減のため、オンライン議員レクの積極的活用を求める
・国家公務員も労働基準法の適用範囲とする
・若者向けのライブ配信サービス(YouTube/Facebook/インスタグラム/Twitter/SHOWROOM/ニコニコ動画等)で中継する(コメントや投票なども可能に)
・超党派による「国会改革」を実現するために、衆議院・参議院合同の「国会改革に関する両院協議会」を設置すること