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65歳未満お断り。高齢者の入居困りごとを支援する「R65不動産」

斉藤徹超高齢未来観測所
高齢者の人たちが安心して住める部屋さがしを(写真:アフロ)

高齢者は賃貸住宅を借りられない?

 賃貸住宅業界には、大家が物件を貸し出したくない3大賃借人のタイプがあるというのをご存じでしょうか?

 その3大賃借人とは、「障害者」「高齢者」「外国人」です。平成26年の日本賃貸住宅管理協会の調査によると、大家の7割が障害者に対して、6割が高齢者や外国人に対して、何らかの拒否感を感じており、実際の入居制限を行っている人も一定程度存在しているそうです。アンケート結果では、実際にそれぞれ、外国人(16.3%)、生活保護者(12.8%)、単身高齢者(60歳以上)(11.9%)、高齢者のみ世帯(8.9%)の比率で入居制限が行われているという結果が出ています。

 入居制限の理由で最も高いものは「家賃の支払いに対する不安」であり、次いで「住宅の使用方法に対する不安」「入居者以外の者の出入りに対する不安」「居室内での死亡事故等に対する不安」などが上位に並んでいます。

 近年、「障害者総合支援法」「生活困窮者自立支援制度」などの法整備がされ、巷では「ダイバーシティ」といったキーワードが流布はしていますが、実際にはこのような入居に対する選別が行われているのが実態なのです。

セーフティネット住宅登録戸数は全国でわずか444戸

 かつて、高齢者のための住居整備として、「高齢者円滑入居賃貸住宅」といった登録制度もあり、その後この制度は、「高齢者専用賃貸住宅制度」「サービス付き高齢者住宅制度」と制度変更がなされる中、高齢者向け住宅基盤整備を目的としたものから、介護サービス付き住宅の整備へとその本質を変えていきました。その結果、当初、目的とされていた高齢者入居を保証するための賃貸住宅整備は置き去りにされたままの状態といっていいでしょう。

 新たな方策として、高齢者や低額所得者、子育て世帯等の入居を拒まない「新たな住宅セーフィティネット制度」が創設されていますが、ホームページ「セーフティネット住宅情報提供システム」上での登録件数は、現在、全国でわずか63件というお寒い状況です。(http://www.safetynet-jutaku.jp/guest/index.php)(2018年3月5日現在)

R65不動産スタートの経緯

 このような環境の中で、「R65不動産」は、高齢者のみを対象に賃貸住宅の仲介を行う企業です。代表の山本遼さんに、この事業をスタートした経緯についてお話をお伺いしました。

 山本さんは、大学卒業後、最初の会社は彼の地元愛媛県の不動産仲介会社に就職しました。その後、転勤で東京の支店で勤務するようになります。

 「高齢者の入居の申し込み、お断り」。これは、彼が勤務していた折りにも、何の疑問もなく当然の事として行っていたそうです。大家の中にもそのような方が多いため、いちいち大家に確認するまでもなく、不動産仲介会社としてお断りする。そういった業界慣行がまかり通っていたのです。

 ある時、山本さんは80歳の方の仲介を引き受けてしまいます。結局、この方の住居が決まるまでに、山本さんは200件のオーナーに電話をかけ続けたそうです。

 「これだけ大変な状況なのだから、同じようにお困りの高齢者が多数いるに違いない。」そして、逆にこれをビジネスチャンスと捉えた山本さんは、会社を退職して起業を決意しました。それが2015年のことでした。

 当初から店舗は持たず、ホームページ・オンリーでのリーンスタートを目指しました。事業開始から半年くらいは、何の音沙汰もなく厳しいスタートであったそうです。しかし1年を過ぎてからは、(HPを見た)医者やケアマネさんから聞いたなど、徐々に口コミが広がり、現在は事業的にも安定してきたそうです。現在の取り扱い物件数は1都3県で約300物件、月に40件ほどの仲介を行っています。

増加する子供宅との「近居」移転ケース

 R65利用者の特徴としては大きく2つに分かれます。ひとつは長年入居していたマンションやアパートの老朽化に伴い立ち退きを迫られたケース。そしてもうひとつは、従来住んでいた場所から、現在子供が住む家の近くに移り住む「近居」移転のケースで、最近目立つのは後者のケースです。

 高齢となり、連れ合いも亡くなり、一人で一軒家に住むのも不用心だ。と言って、子供と同居するわけにもいかない。老人ホームやサービス付高齢者住宅などで人の世話にはなりたくない。子供の家の近くに住むことで、同居でなくても、何かあった時のためにお互いに安心感を得たい。そのように考える人たちが増えてきているのです。

R65が無くなる社会を目指して

R65不動産代表の山本遼さん(筆者撮影)
R65不動産代表の山本遼さん(筆者撮影)

 今後、山本さんが目指すのは、まずは、高齢者入居拒否の偏見やハードルを下げていくための仕掛けづくりにチャレンジしていきたいそうです。

 「例えば、世代別にアパートの回転を見ると、実は高齢者が平均入居年数は一番長い。学生は一般に4年、ファミリー層は6年、単身世帯は2年です。入居年数が短ければ短いほど、入れ替わりに度にリフォームを行う必要もあり、実は高齢者入居のメリットは高いのです。」(山本さん)

 一方、大家が不安視する「孤独死」「不慮死」に対するハードルを下げていく必要も感じており、メーカーと連携した「見守りシステム」の開発や、「孤独死の定義化」により、事故物件とむやみに呼ばれることへの歯止めもかけていきたいと語ります。

 「短期的には、高齢者が入居拒否に合うことのない社会を作り上げること。最終的には、高齢者がいつまでもかっこ良く過ごせる社会づくりを目指したい、R65が無くなるのが一番理想的(笑)」と山本さんは、語ります。

 たしかに、高齢者が目に見えない有形無形の差別、阻害を受けている局面はこの他にも数多くありそうです。わたしたちは、このような差別をひとつひとつ取り上げ、具体的解消に向けたアクションに取り組んでいかねばなりません。R65不動産のチャレンジは、その先駆的試みであると言えるでしょう。

R65不動産のサイトはこちら

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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