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「紀州のドン・ファン」事件 公判の争点と今後のポイント #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
「紀州のドン・ファン」こと資産家・野崎幸助氏(享年77)(写真:Motoo Naka/アフロ)

「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家の男性が急性覚醒剤中毒で死亡した事件の初公判で、殺人罪などに問われている元妻が無罪を主張しました。遺産目当てに完全犯罪をもくろんだというのが検察の描く構図ですが、殺害方法など不明な点も多く、検察は状況証拠を積み上げ、自殺や事故ではなく他殺であり、元妻が犯人に間違いないという難しい立証を迫られます。公判の争点と今後のポイントについて、参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「口から覚醒剤を摂取して亡くなったという点に争いはない」「事件性とともに、被告が殺害したかどうかの犯人性が最大の争点」
出典:紀伊民報 2024/9/12(木)

「覚醒剤の入手方法ついて(中略)どう立証していくのか」「いかにして野崎さんが摂取することになったのかを立証できるのか」
出典:FNNプライムオンライン 2024/9/12(木)

「膨大な検索履歴を提示して、覚醒剤を飲ませたのが須藤被告しかいないと思わせるような証拠を検察が積み上げている」
出典:読売テレビ 2024/9/12(木)

「被害者の覚醒剤摂取の方法について(中略)検察側からの言及がなかった」「検察側も(中略)特定できなかったと思う」
出典:スポニチアネックス 2024/9/12(木)

エキスパートの補足・見解

検察は今回のケースと類似する和歌山白浜・水難偽装殺人事件での立証方法を参考にしているものと思われます。妻に不倫が発覚した夫が、妻との関係を清算して保険金を得るため、海中で妻を押さえ付けて溺死させたとされる事件です。夫は黙秘を貫き、殺人か否か、夫が犯人か否かが争点となりました。

検察は事件前に夫がスマホで「溺死にみせかける」などと検索していた事実を計画性や動機を裏付ける事情として挙げました。また、主治医や解剖医、水難学の専門家、現場付近にいた監視員らの証言により、自殺や事故、病死の可能性がなく、現場には夫しかおらず、時間的にも夫の犯行が可能だったと立証しました。この結果、一審の裁判員裁判は2021年に夫を殺人罪で懲役19年に処しており、ことし3月の控訴審判決もその結論を支持しました(夫が上告中)。

今回の事件も、検察は「完全犯罪」といった元妻によるネットの検索履歴など様々な状況証拠を積み上げて有罪立証を行おうとしています。ただ、そのまま飲むと苦い大量の覚醒剤をどのようなやり方で飲ませたのか、殺害の態様については「何らかの方法により」といった形で不明のまま終わるかもしれません。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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