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強い寒気南下で北日本中心の暴風と日本海側の大雪 寒気の強さは新田次郎が開発したラジオゾンデで観測

饒村曜気象予報士
北日本を襲う発達した低気圧に伴う雲(2月16日1時20分)

低気圧の猛烈な発達

 三陸沖を北上した発達中の低気圧は、オホーツク海沿岸で中心気圧が約940ヘクトパスカルまで発達する見込です(図1、タイトル画像参照)。

図1 予想天気図(2月16日9時の予想)
図1 予想天気図(2月16日9時の予想)

 日本近海では今冬一番の発達した低気圧で、真冬でもめったに出現しない急発達です。

 このため、北日本では暴風が吹き荒れ、その後の強い寒気南下で日本海側の地方を中心に大雪の可能性があります。

 令和2年から3年(2020年から2021年)の冬は、前年の暖冬から一変し、寒冬となっています。

 日本付近のジェット気流が大きく蛇行し、この蛇行にのって北極付近の強い寒気が、周期的に日本付近へ南下しているからで、これまで5回強い寒気が南下しています。

 1回目は12月14日頃から、2回目は年末年始頃、3回目は1月7日頃から、4回目は1月16日頃からで、5回目は1月29日頃からのものです。

 そして、強い寒気が南下するたびに、各地の冬日(最低気温が0度未満)と真冬日(最高気温が0度未満)の観測地点数が増加しています(図2)。

図2 各地の冬日と真冬日の観測地点数の推移
図2 各地の冬日と真冬日の観測地点数の推移

 5回目の寒気南下は、短い周期で寒い日が繰り返されるもので、暖気が入って春を思わせるものでした。

 しかし、2月16日以降、北海道付近で低気圧が発達し、6回目の強い寒気が南下してきますので、北日本で暴風、日本海側で大雪のおそれがあります。

日本海側の大雪

 日本列島に南下する寒気の目安として、上空約5500mの気温が使われます。

 上空約5500mの気温が氷点下30度以下なら強い寒気、氷点下36度以下なら非常に強い寒気で大雪の可能性もあります。

 6回目の寒気南下は、これまでのようにシベリアからの直接の南下ではなく、いったん中国東北部に南下した寒気が東進してくるものです(図3)。

図3 上空5500mの気温分布予想(2月16日夜の予想)
図3 上空5500mの気温分布予想(2月16日夜の予想)

 つまり、5回目の寒気の中心は北海道ではなく、東北地方から北陸地方です。

 そして、寒気の南下による3日間の降雪量は、東北地方日本海側から北陸の山沿いを中心に100cmを超え、所によっては200cm超えというコンピュータ予想もあります(図4)。

図4 72時間予想降雪量(2月16日3時~2月19日3時)
図4 72時間予想降雪量(2月16日3時~2月19日3時)

 地元気象台が発表する最新の警報や注意報などの入手に努め、警戒してください。

新田次郎とラジオゾンデ

 2月15日は新田次郎忌です。

 昭和55年(1980年)の2月15日、直木賞作家の新田次郎(本名は藤原寛人)が満67歳の生涯を閉じています。

 「富士山頂」や「八甲田山死の彷徨」などの作品で、作家としての評価が高いのですが、ラジオゾンデを開発し、現在の精度が高い天気予報に多大な貢献をしたことは、あまり知られていません。

 天気予報のためには高層の大気の状態を観測する必要があり、大正時代から風船に水素をつめて上空へあげ、その動きを地上から望遠鏡で追跡する方法が採用されていました。

 これにより、日本上空の強い風、ジェット気流が発見されたのですが、この方法では風向風速しかわかりませんでした。

 太平洋戦争が始まる少し前頃から、水素を詰めたゴム気球に気温や湿度などを観測する機器と無線通信機を載せ、地上に観測結果を送信する「ラジオゾンデ観測」という方法が考えられ、各国がその開発にしのぎをけずります(図5)。

図5 ラジオゾンデのイラスト
図5 ラジオゾンデのイラスト

 中央気象台(現在の気象庁)で開発に携わっていたのは、神田電機学校(現:東京電機大学)に学びながら、叔父の藤原作平が中央気象台長をしていた中央気象台に入った藤原寛人(ひろと)です。

 藤原寛人が、富士山頂の気象観測所に物資を運ぶ人たちを描いた「強力伝」は、昭和31年(1956年)に直木賞を受賞しており、一般的には新田次郎のデビュー作は「強力伝」です。

 しかし、「強力伝」を発表する14年前に、藤原寛人は地人書館から「ラジオゾンデ」という一般向けの本を書いていますので、実質的なデビュー作は「ラジオゾンデ」です。

 初版は昭和17年(1942年)9月20日、太平洋戦争が始まっていました。

 筆者が入手したのは昭和18年(1943年)8月10日発行の第3版ですが、そこには2000部印刷の記述があります(図6)。

図6 「ラジオゾンデ」の奥付
図6 「ラジオゾンデ」の奥付

 ちなみに、この本の値段は、定価2円80銭に特別行為税14銭を加えた2円94銭でした。

 ここでいう特別行為税は、戦争遂行のために昭和18年(1943年)1月に行われた大増税の一環として新設された税金です。

 藤原寛人の「ラジオゾンデ」は、非常にわかりやすい解説に加え、ドイツ、イタリア、フィンランド、アメリカ、フランス、イギリス、オランダ、ソビエト連邦(現在のロシア)における気象台や陸軍、海軍、大学のラジオゾンデについて、詳細な図入りで解説しています。

 ただ、外国の事情が詳しい割には、日本の最新事情については書かれていません。

 この理由は、太平洋戦争中であったからです。

 平和な時代であれば、詳しく書きたかった世界に誇れる日本の技術だったのではないかと思います。

 気象衛星観測やレーダー観測など、電波等を使って遠くから観測する技術が進んでも、その観測値をより正確に求めるためには、直接その場所で行った観測値をもとに補正する作業が欠かせません。

 しかし、観測機器を上空にもってゆき、そこで直接観測するための方法として、ラジオゾンデ以上に、安価で確実な方法はありません。

 もちろん、観測データの送受信機の進歩や、GPS機能の付加などの技術革新が行われていますが、今でも使われている方法にかわりはありません。

タイトル画像、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに著者作成。

図5の出典:饒村曜(平成24年(2012年))、大気現象と災害、近代消防社。

図6の出典:藤原寛人(昭和18年(1943年))、ラジオゾンデ、地人書館。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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