「あの会社、SDGsウォッシュ」と言われないための3ヵ条とは
*この記事は、2020年2月6日に配信した『「あの会社、SDGsウォッシュ」と言われないための3ヵ条とは?SDGs世界レポ(2)』の連載と記事掲載が終了するにあたって、当時の記事を編集し、情報を改訂・追記したものです。
「SDGs(エスディージーズ)」という言葉はビジネスパーソンの間で浸透した。(SDGs=エスディージーズ:持続可能な開発目標)
だが「SDGsウォッシュ」という言葉は、知らない人もいるかもしれない。英語では「SDG Washing(SDGsウォッシング)」などという。これは、企業が喧伝するSDGsの取り組みが、実態を伴っていないことを指す。たとえば、企業がマーケティングやイメージアップのために、SDGsへの貢献について、曖昧な、または虚偽の主張を行いながらも、実際には目標を支援するための有意義な行動を取らないことなどである(1)。
「SDGsウォッシュ」は、環境配慮を謳いながらも、そうでないことを示す「グリーンウォッシュ(グリーンウォッシング)」に似ている。グリーンウォッシングとは、企業の製品やサービスが環境に配慮していないにもかかわらず、配慮しているかのごとく、誤った印象や誤解を招くような情報を伝えることである。根拠のない主張をすることで、消費者を欺き、企業の製品が実際より環境に良い影響を与えていると信じさせる(2)。この「ウォッシュ」という言葉は「ホワイトウォッシュ」が由来だ。意味は、うわべだけをとりつくろうこと、人々が真実を知ろうとすることを阻止しようとすることで、「グリーンウォッシュ」も「SDGsウォッシュ」も造語だ。
SDGsが採択された直後はまだ知名度が薄かった
「SDGs」が国連サミットで採択された2015年9月は、SDGsやSDGsウォッシュに関する報道はまだ少なく、認知度も低かった。
拙著『賞味期限のウソ』(幻冬舎新書、2016)(3)ではSDGsに言及している(p127-128)。原稿を書いた2016年春、SDGsは、一般には全く浸透していなかった。初稿の段階で入れていた「持続可能な開発目標:SDGs」は、編集の段階で「SDGs」が削られ、日本語の「持続可能な開発目標」だけが残された。
2016年、ある出版社の編集長とSDGsの書籍企画について相談していた。当時すでに出版されていた書籍『SDGsと開発教育 持続可能な開発目標のための学び』(田中治彦・三宅隆史・湯本浩之編著、学文社)を持参し、何度もお話ししたのだが、出版の実現までには至らなかった。今でこそ「SDGs本」は多数出版されているが、当時、出版社に持ちかけても、「SDGs」に対する反応はほとんどなかった。
2018年、日本企業からSDGsのマテリアリティの相談
2018年初め、CSR関連の資格取得講座を受講した。受講生たちは、2015年にSDGsが採択された時からSDGsの何たるかを知っている人たちで、筆者もおおいに刺激を受けた。受講生の一人は、名刺にSDGsのロゴマークを入れていた。彼は「名刺交換の時、SDGsを知らない人が知ってもらうきっかけになるからいいよ」と言われた。確かに、これはいいアイディアだと思い、さっそく、筆者も名刺にロゴマークを入れてみた。
講座の受講後、ある日本企業からSDGs関連の相談を頂いた。SDGsの17のゴールのうち、自社のマテリアリティ(重要課題)を特定し、経営戦略に盛り込みたいので、経営陣へのコンサルティングに来て欲しいという依頼だった。
その企業へコンサルティングに行ったあと、他の企業も、公式サイトで自社のマテリアリティを公開するところが増えてきた。ビジネス系の雑誌でも徐々にSDGsの特集が増え始めていった。
企業の社員がつけているSDGsバッジ
2018年ごろから、背広の胸の部分にSDGsバッジをつけている人を見る場面が増えた。17色が散りばめられた、丸いドーナツ型の、光るバッジ。国連など、国際機関の職員がよく胸につけているSDGsのバッジだ。
日本では、国際機関ではない一般企業の経営陣が背広の胸につけているのを目にする。社章を胸につけるのはよくあることだが、2019年あたりから特に目立つようになった。
ある人が、SDGsバッジをつけている男性に「なんでこれをつけているの?」と聞いたところ、「上司がつけろと言ったから」という、笑えない話がある。
「え、食品を大量に捨てている会社の社長がなぜSDGsバッジつけるの?」
2019年。SDGsは、日本のビジネス界で市民権を得た。SDGsの本質を理解し、積極的に推進していくのはとてもいいことだ。その上で、SDGsバッジを胸につけるのはいい。
ただ、SDGsという言葉が知られてきただけに、今度は「え、食品を大量に捨てているのに、なぜこの企業の社長がSDGsバッジをつけるの?」と、違和感を感じる場面も出てきた。
なぜ、日本企業の社員はSDGsバッジを胸につけたがるのか
なぜ、日本企業の社員はSDGsバッジをつけたがるのだろう。
筆者は、あるテレビ番組を見ていて、「ああ、なるほど」と合点がいった。
それについて語る前に、2015年9月のSDGs採択から2019年末までの4年強の間に「SDGs」という言葉が、国内主要メディア150紙誌にどれくらい登場しているのか、日本最大のビジネスデータベースサービス「G-Search(ジーサーチ)」で件数を調べてみた。棒グラフを作ったので、見てみよう。
日本最大のビジネスデータベースサービス、G-Search(ジーサーチ)で調べたところ、主要メディア150紙誌が「SDGs」を取り上げた回数は、次の通り。
2015年には174件、2016年には599件と3桁だったのが、2017年には2051件、2018年には5012件と4桁になる。そして2019年には12,055件と、ついに5桁になる。対前年比で2倍以上に増えている。2020年は16,043件、2021年は29,048件、2022年は33,271件。
「SDGs」について、国内メディアで最初に取り上げていたのが共同通信と日刊工業新聞で、共に2015年9月25日付の記事だった。
前述のテレビ番組とは、NHK BS1「COOL JAPAN 〜発掘!かっこいいニッポン〜」だ。
「COOL JAPAN」は、日本では当たり前でも、外国籍の人から見たら「え?」と思うトピックスを取り上げる番組だ。なぜ外国人は不思議に思うのか、なぜ日本人はそういう行動をとるのか、などについて、8人くらいの国籍の人が集い、調査を元に議論していく。
ある回で、「ガイドブック」を取り上げていた。日本はとにかくガイドブックの類が多い。旅行のガイドブックでは地域ごとに、食の分野でも、蕎麦・クリームソーダなど、細かくガイドブックが存在する。
なぜなのか。
外国籍の人の意見は
だった。
失敗したくない。
リスクをとりたくない。
だから、あらかじめ、情報を徹底的に仕入れておいて、物事に臨む。その説明は腑に落ちた。
SDGsもそれと同じようなところがある。
「最近、SDGsって流行ってるみたい」
「なにそれ」
「みんなバッジつけてるよ」
日本は、横並び意識が強い。「みんながやっている」と、取り残されたくないから自分もやる。
2011年、東日本大震災の時も、同業他社が寄付した金額を確認し、同じ金額を寄付した、という業界もあった。
「うちの会社はちゃんとSDGsに取り組んでいる」ということを示したい。なぜなら「みんなやっている」から。うちの会社だけ取り残されると「不安だから」。テレビや新聞の取材を受ける経営陣は、胸にSDGsバッジをつける。「うちの会社はSDGsに取り組んでいますよ」ということをアピールするため。
SDGsの報道件数が4桁に増えた2018年から2019年にかけて、企業がこぞってSDGsを謳い始めた要因の一つもそこだろう。
日本は形から入ることも多い。初対面の人と、まず名刺交換をするのもその一つだ。このあともお付き合いが続くのならともかく、もう二度と会わないであろう人とも名刺交換する。
形だけで、魂がないものもたくさんある。
たとえば、その一例が、「なんだかよくわからないけどとりあえずつけているSDGsバッジ」だ。
スウェーデンでSDGsバッジを見て言われたこと
筆者も、SDGsバッジが流行る前はつけていた。間伐材、つまり、捨てられる木から作られたSDGsバッジだ。
CSR講座の受講生の、木材の会社が作ったものだ。2018年にクラウドファンディングをやっていたので、寄付金を支払って入手した。
「捨てられるものを活かす」ところが、「捨てられる食べ物を減らす」活動をしている筆者の考え方にも合致すると考えた。
このバッジをつけてスウェーデンへ取材に行ったとき、取材の企画をしてくださった通訳の方が「これ(SDGsバッジ)を見て、とても嬉しい」とおっしゃった。
彼が強調していたのはエネルギーの「地下と地上」だった。地下から採取する石油などのエネルギー資源は、有限だ。再生可能ではない。スウェーデンでは「再生可能」つまり「持続可能性」を重視する。最初に訪問したマルメ市では、バナナの皮やコーヒーのカスなどをリサイクルした再生可能エネルギーを使ってバスが走っていた。つまり、それは地上から採取した資源で、再生できるものだ。
筆者がつけていたSDGsバッジは間伐材。地上のもの。スウェーデンを視察する日本企業のほとんどが、石油資源で作られた、キラキラ光るSDGsバッジをつけてくるという。だから通訳の方は、間伐材のバッジを見て「嬉しい」とおっしゃったのだ。
SDGsの理念は「誰一人取り残さない」
国内でSDGsへの取り組みをアピールする企業を見ていて思うことがある。SDGsの理念である「誰一人取り残さない」を忘れてはいないか、ということだ。
SDGs自体は世界全体をよりよくするための取り組みだ。だが、実現するのは足元から。自社で、取り残されているような社員がいるのにSDGsを謳っているのは疑問に思う。
国内で最初にSDGsについて報じた共同通信の記事には、ローマ法王フランシスコの言葉がある。
広い視野で、弱い立場の人を慮ることが求められているのに、自分の会社では「SDGsのこれをやっている。だからOK!以上」で終わらせるといったノリが、一部の企業で感じられるのだ。
「あの会社、SDGsウォッシュ」と言われないための3ヵ条
SDGsのゴールは17、ターゲットは169ある。言い出せばキリがないが、「あの会社ってSDGsウォッシュだよね」と言われないために、これだけは押さえたいという3つを挙げてみる。
1、安易に捨てる行為をしない
製品などの物を捨てない。
食品を大量に捨てない。
リユース(再利用)やリサイクル(再生利用)の努力をしてから処分する。
1990年代、ドイツから入ってきた考え方に「マテリアルフローコスト会計(MFCA)」がある。
これは環境管理会計の一つで、製造工程などで発生したロスも金額で示し、考慮に入れるやり方だ。正常品・良品だけを考えて、ロスは会計上、見ないというのではない。良品もロスも数字(金額)で示し、環境負荷を削減する目標に向かうことができる。
あるSDGsの専門家は「MFCAと反対の考え方がコンビニ会計だ」と指摘していた。
捨てないのは物だけではない。人材である社員や、取引先、関連店舗で働く人たちも切り捨てない。
リストラなどをしなければいいだけではない。人の心を切り捨てるような行為をしない。
なぜなら、SDGsの基本理念は「誰一人取り残さない」だから。
2、マテリアリティに当てはめて終わりにしない
よく見られるのが、自社の活動をSDGsの17あるゴールのうち、どれかにあてはめて「うちの会社はSDGsやっています」というもの。
自社のマテリアリティ(重要課題)にあてはめて終わらせるだけでは不十分だ。
SDGsは、世界全体で、地球資源の持続可能性を目指すものなので、自社だけよければOK、ではない。
3、公式発表と現場の齟齬をなくす
公式サイトや記者発表で発表している内容と、実際の店舗など、現場の状況が、あまりにも乖離しているケースがある。
何かの実証実験を「やります!」というときは、メディアを呼び、華々しく花火を打ち上げるが、実証実験が失敗に終わってしまった場合、結果がどうだったかを公開しない企業がある。実際、2019年にもあった。before→afterを明確にしない、隠す。
実態とそぐわない、形だけをとりつくろう、ごまかすような行為は、「ウォッシュ」と言われても仕方がない。
以上、3点を挙げてみた。
次のようにも言い換えられる。
1、自社に関わる製品・人・取引先、すべてを大切にする。
2、視野狭窄に陥ることなく、地球規模で考える。
3、公式発表と現場を統一させる。
はたして、自分の会社は「SDGsウォッシュ」になっていないか。
ささやかではあるが、3つのポイントを、考えるきっかけにしたい。
参考情報
1)SDG Washing: What it is & How to Avoid It (sopact)
2)What Is Greenwashing? How It Works, Examples, and Statistics(Investopedia, 2022.11.8)
3)『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(井出留美、幻冬舎新書、2016)