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なぜフランスは苦戦しながら勝ち上がっているのか?エムバペの不調と決定力不足…デシャンの守備構築。

森田泰史スポーツライター
ベスト4に進出したフランス(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

調子が良い、とは言い難い。だが優勝候補と目されてきた力は、見せている。

フランスはEURO2024の準々決勝でポルトガルと対戦した。PK戦の末にポルトガルを下して、ベスト4進出を決めた。

フランス代表を率いるデシャン監督
フランス代表を率いるデシャン監督写真:Maurizio Borsari/アフロ

「再び、フランスはビッグトーナメントで準決勝に進出した。それは、私にとって、大きな喜びだ。フットボーラーとして、また人間として、素晴らしいグループがここにはある」とはディディエ・デシャン監督の弁だ。

「ベスト8に勝ち進んだ時点で、私は非常に楽しんでいた。いまは、ベスト4に進んだので、それを楽しみたい。ベスト4進出が当たり前のようになっているが、その結果を軽視してはならない」

■フランスの戦績と自信

フランスはEURO2016以降、EURO2020を除き、すべての主要大会でベスト4以上に勝ち進んでいる。EURO2016(準優勝)、2018年のロシア・ワールドカップ(優勝)、2022年のカタール ・ワールドカップ(準優勝)、そしてEURO2024(ベスト4)だ。

EURO2020では、カリム・ベンゼマの扱いが難しかった。“ヴァルブエナ事件”で長く代表から遠ざかっていたベンゼマだが、レアル・マドリーでのパフォーマンスが認められ、この大会前にデシャン監督と和解。ベンゼマ、キリアン・エムバペ、アントワーヌ・グリーズマンを共存させようと試行錯誤したデシャン監督だったが、スイスに敗れてベスト16敗退に終わっている。

シュートを放つエムバペ
シュートを放つエムバペ写真:ロイター/アフロ

ただ、今大会のフランスは、これまでの大会と比べて、決して良くはない。

90分で勝利したのは、オーストリア戦(1−0)とベルギー戦(1−0)のみ。然も、いずれもオウンゴールが決勝点になっている。オランダ戦(0−0)とポーランド戦(1−1)ではドローを演じ、ポルトガル戦ではスコアレスの末、PK戦をモノにした格好だ。

フランスはEURO2024で、5試合で3得点を挙げるに留まっている。オウンゴールを除くと、ポーランド戦でエムバペが記録したゴールだけ。それもPKだった。つまり、流れの中からの得点はない。

■ギリシャとの類似性と守備力

今大会のフランスを見ていて、思い起こされるのはEURO2004のギリシャだ。

ギリシャはグループステージの3試合で4得点を記録。決勝トーナメント進出以降、準々決勝のフランス戦(1−0)、準決勝のチェコ戦(1−0)、決勝のポルトガル戦(1−0)といずれも最小スコアで制して、欧州の頂点に立った。

もう、お気付きだろうが、EURO2024のフランスは、“あの”ギリシャより、悪い数字を残している。無論、あの頃のギリシャには、エムバペやグリーズマンのようなワールドクラスのプレーヤーはいなかった。

EURO2004で優勝したギリシャ
EURO2004で優勝したギリシャ写真:Action Images/アフロ

一方、フランスは守備が堅いチームだ。ここが、ベスト4進出の大きな要因になったのは間違いない。

ジュール・クンデ、ダヨ・ウパメカノ、ウィリアン・サリバ、テオ・エルナンデスを4バックに据えたディフェンスラインは堅固である。加えて、最後尾にはGKのミク・メニャンが控えている。

メニャンは、ここまで、93%のセーブ率を誇っている。16本のセーブ数で、である。セーブ率(1位)、セーブ数(2位)、共に今大会においてトップクラスの数字だ。

最後尾からチームを支えるメニャン
最後尾からチームを支えるメニャン写真:Maurizio Borsari/アフロ

フランス代表では、ロシアW杯の優勝メンバーであるウーゴ・ロリスの後継者として、ゴールマウスを守るようになった。ミランでは、ジャンルイジ・ドンナルンマ(現パリ・サンジェルマン/イタリア代表)の後釜として、レギュラーになった。

大きな重圧を跳ね除けてきたからこその活躍を、この大会でメニャンは披露している。メニャンの存在が、フランスの上位進出の大きな力になっていることに疑いの余地はない。

■エムバペ・システムの答え

フランスは、苦しみながら、ベスト4まで漕ぎ着けた。しかし、やはり、ビッグマッチで、必要なのはエムバペの得点力だ。

デシャン監督は、今大会、エムバペを左サイドに置いている。3トップシステムでも、2トップシステムでも、エムバペは左サイドに「落ちて」くる。そこを起点に、テオ・エルナンデスとのコンビネーション等があり、フランスの攻撃が展開されていく。

だが今ひとつ、嵌まっていない感がある。

足元でのプレーが増えているエムバペ
足元でのプレーが増えているエムバペ写真:Maurizio Borsari/アフロ

「ストライカーは、多くのシチュエーションに適応しなければいけない。僕は、違いをつくる選手だと、多くの人に思われている。だけど、数年前のフランスと現在のフランスは、違うチームだ」

「例えば、数年前には(ポール・)ポグバがいた。彼がいた時は、スペースに走れば、そこにフィードが送られていた。いま、僕はあの時のようにスペースに走らなくなっている。あれだけフィードできる選手がいないからだ」

これはエムバペの言葉である。

フランスの多くのサポーターがドイツに駆けつけている
フランスの多くのサポーターがドイツに駆けつけている写真:Maurizio Borsari/アフロ

エムバペが語る通り、選手が変われば、チームや戦術には変更が加えられる。デシャン監督は、当然、それを理解しており、ずっと「最適な形」を探している。

フランスの準決勝の相手はスペインだ。今大会、最も好調なチームである。

そこまでに“最適解”を見つけない限り、フランスといえど、タイトル獲得は容易ではない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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