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真木よう子さんが「事実婚」を選択~「結婚」は「面倒」なものなのか

竹内豊行政書士
真木よう子さんが事実婚を選択した理由に「契約うんぬんは面倒」を挙げました。(写真:アフロ)

俳優・真木よう子さん(40)が、26日未明に自身のインスタグラムを更新して、事実婚状態てあることを公表したことが報道されました。

真木よう子(40)が26日未明に自身のインスタグラムを更新し「私にはパートナーシップの相手がいます 事実婚というものですかね」と事実婚状態だと公表した。 【写真】薬指に指輪をした左手の写真  「契約うんぬんは面倒なので、お互いの自由を尊重し合えながら永く一緒にいられたら。と言う思いです。突然の発表でごめんなさい」とつづり、薬指に指輪をした左手の写真を投稿した。真木は08年11月に元俳優の男性と結婚し翌09年5月には長女を出産も、15年9月に離婚している。(引用:真木よう子「パートナーシップの相手がいます」事実婚公表「自由を尊重し合えながらいられたら」

真木さんは、事実婚を選択した理由に「契約うんぬんは面倒」ということを挙げています。このことは、「結婚することによって発生する権利・義務関係が面倒」とも読み取れます。そこで今回は、結婚するとどのような面倒(権利・義務)が発生するのか見てみたいと思います。

届出なければ結婚なし

結婚するには、戸籍法で定める婚姻届を役所に提出しなければなりません(民法739条1項)。このように、民法は「届出なければ結婚なし」という届出婚主義を採用しています。

したがって、婚姻の届出(法律では、「結婚」のことを「婚姻」といいます)がなければ、いくら事実上の夫婦生活が続いていても、法的な婚姻にはなりません。

届出は、当事者双方および成年の証人2人以上から、口頭または署名した書面でしなければなりません(民法739条2項)。

民法739条(婚姻の届出)

1.婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。

2.前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

婚姻の効果~婚姻届を出すと発生する権利・義務

そして、大好きなパートナーと結婚、すなわち婚姻届を届け出ると、法律上、次のような権利と義務が生じます。

夫婦同氏(民法750条)

夫婦は、結婚の際に夫または妻の氏(法律では「姓」や「苗字」を「氏」と呼びます。)のどちらかを夫婦の氏として選択しなければなりません。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

同居協力扶助義務(民法752条)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助し合わなくてはいけません。

民法752(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

貞操義務~不倫はご法度!

夫婦は貞操義務を負います(つまり、不倫はダメということ)。

実は、民法には、「婚姻をして、配偶者がいる者は不倫をしてはならない。」といった、不倫を直接禁止する条文はありません。

しかし、次の3つの条文から、「夫婦は互いに貞操義務(配偶者がいる者が、配偶者以外の者と性的結合をしてはいけないこと)を負う」という不倫禁止が導き出されます。

重婚が禁止されている(民法732条)

民法732条(重婚の禁止)

配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

ここでいう「婚姻」とは、戸籍に表れる関係のことです。法律上の配偶者がいる者が、別の異性と事実上の夫婦生活を営んでも、重婚にはなりません。

「同居」「協力」「扶助」の3つの義務が規定されている(民法752条)

前述のとおり、夫婦には同居・協力・扶助の義務が課せられます。

不貞行為が離婚原因になる(民法770条1項1号)

民法770条1項1号(裁判上の離婚)

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一、配偶者に不貞な行為があったとき。

不貞行為とは、貞操義務に反する行為です。つまり、夫または妻以外の人と性的関係を持つ行為です。不貞行為が離婚の原因になるのは、道徳上当然の効果といえます。

ちなみに、民法770条は、離婚の原因として、「配偶者の不貞な行為」の他に、次の場合を挙げています。

二、配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三、配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。

四、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

(以上民法770条1項2号~5号)

以上3つの条文に加えて、一夫一婦制という結婚の本質からしても、夫婦はお互いに貞操義務を負うとされています。

夫婦間の契約取消権(民法754条)

夫婦は結婚期間中に締結した夫婦間の契約を、結婚期間中はいつでも、何の理由もなしに一方的に取消すことができます(ただし、第三者の権利を害することはできません)。

民法754条(夫婦間の契約の取消権)

夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

その他にも、

・姻族関係の発生(民法725・728条)

・子が嫡出子(婚姻関係にある夫婦から生まれた子、つまり夫の子)となる(民法772・789条)

・配偶者の相続権が認められる(民法890条)

などがあります。

このように、法律上では、結婚をする、すなわち役所に婚姻届を出す・出さないでは、大きな違いが生じます。

次に、真木よう子さんが選択した「事実婚」と「内縁」について見てみましょう。

「事実婚」とは

1980年代後半から、自分たちの主体的な意思で婚姻届を出さない共同生活を選択するカップルが社会的に広がり始めました。代表的な理由は次のようなものがあります。

・夫婦別姓の実践

・家意識や嫁扱いへの抵抗

・戸籍を通じて家族関係を把握・管理されることへの疑問

・婚姻制度の中にある男女差別や婚外子差別への反対  など

このような理由で婚姻届を出さないのは当事者が主体的に選択した関係です。そのため、これまでの内縁とは事情が異なるので、「事実婚」と表現します。

「内縁」とは

内縁とは、事実上の夫婦共同生活をしていても、婚姻の届出をしていないために、法律上の夫婦と認められない関係をいいます。この点では、「事実婚」と違いは認められません。

「事実婚」と「内縁」の違い

一般社会において夫婦として生活している当事者が、主体的に婚姻届を出さないことを選択したかそうではないかで事実婚と内縁を区別することがでます。つまり、主体的に婚姻届を出さないことを選択した場合が事実婚、そうでない場合が内縁といえます。

「事実婚」が増える背景と今後の課題

事実婚が増えている背景はいくつか考えられますが、女性の社会進出と経済的自立が大きく影響していると思います。

ただし、事実婚では、婚姻届を届出ているカップルと比べて様々な法的保護を享受できないことも事実です。

近代的な法制度では、家族の基礎となる婚姻を法の規制と保護の対象とし、婚姻外の関係については、法的規制もしない代わりに法的保護もしないという立場をとるのです。

今後は、社会的要請として、「ライフスタイルの自己決定権」を基に、事実婚を選択したカップルへの法的保護が推進されることが望まれます。

憲法が定める結婚観

憲法は24条で次のように結婚(婚姻)について定めています。

憲法24条(家族生活における個人の尊厳と両性の平等)

婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

したがって、お付き合いしている同士が、「お互いを認め合い、尊重し、協力し合って生きていく」という意思があれば、必ずしも婚姻届を届けなければならない、すなわち、法的婚姻にとらわれることはないともいえます。ただし、お互いが納得しているということが前提となります。

今回は結婚で生じる権利・義務と事実婚・内縁について見てきました。あなたは、結婚を「面倒なもの」であって不必要だと思いますか?それとも必要性を感じますか?

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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