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結婚について知っておきたい法知識 その10~夫婦間の約束は破ってもOK!?

竹内豊行政書士
民法では夫婦間の約束を破っても問題ありません。しかし、現実はそうはいきません。(写真:アフロ)

民法にちょっと信じ難い条文があります。

夫婦は婚姻中に締結した夫婦間の契約を、婚姻中はいつでも、たとえ契約の履行後であっても、何の理由もなしに、しかも一方的に取り消すことができるというのです。

(夫婦間の契約の取消権)

民法754条

夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

なぜこのような法律ができたのか

この条文の立法趣旨は次のとおりです。

・夫婦間の契約は、一時の気まぐれや威圧などによってなされることが多い

・そのため、真意の確保が困難である

・そもそも、その契約の履行は当事者である夫婦間の愛情や道義によるべきである

・したがって、法律上強制するとかえって、家庭の平和を害することにつながる

確かに、そうかもしれません。しかし、夫婦の独立と平等を原則とする現行法の下で、「夫婦間の意思表示が真意に基づくものではない」ことを前提とするような規定はおかしいと言わざるを得ません。憲法24条を見てみましょう。

(家庭生活における個人の尊厳と両性の平等)

憲法24条

1.婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

2.配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

真に受けると夫婦関係は破綻する

確かに、夫婦の間の約束事はその通りにならないことはよくあります。

妻「夏休みにはハワイに行こう!」

夫「うん、いいよ」

妻「30歳までに家を買いましょうね」

夫「うん、そうしよう」

妻「今晩は早く帰ってきてね」

夫「わかったよ」

(なぜか、要求する側が妻ばかりですが、気にしないでください)

さて、このような約束を夫が何の理由もなしに、一方的に破っても民法は夫を守ってくれます。

妻が怒ったら「民法754条には『夫婦間の契約は取り消すことができる』と書いているんだ」と主張すればよいのです。

しかし、間違いなく火に油を注ぐ結果になります(結婚している男性ならお分かりいただけると想います)。

この条文は、国もさすがに無理があると考えているようです。法務省は民法改正要綱案に「第754条の規定は、削除するものとする」としています。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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