W杯でABEMAが史上最高の視聴者数1000万突破が「未来のテレビ」に与える意味
サッカーのW杯カタール大会で、日本がドイツに対して歴史的な勝利をあげ、大きな話題になっていますが、その裏でもう一つの快挙が達成されていたのをご存じでしょうか。
それがインターネットテレビ局ABEMAの、開局史上最高となる視聴者数1000万人突破です。
参考:【W杯】ABEMA視聴者数1000万を突破、開局史上最高 森保日本がドイツに歴史的な勝利
ただ一般の方の中には、ABEMA1000万人突破の凄さがピンときていない方も少なくないかもしれませんので、その快挙が注目されるポイントをご紹介しておきたいと思います。
■過去の公表数値と比べると少ない1000万の意味
実はABEMAはこれまでも様々な数値を軸にリリースをしてきているので、過去のABEMAの公表数値を覚えている人からすると、1000万という数字を小さく感じられることもあるかもしれません。
ABEMAが2016年4月にサービスを開始した後、ABEMAの発表数値が最初に大きく注目されたのは、2017年5月の「亀田興毅に勝ったら1000万円」企画でしょう。この時すでに1420万視聴という数値が話題になっています。
参考:AbemaTVの亀田企画1420万視聴は、スゴイのかスゴクナイのか
さらにABEMAの歴史上最も大きな数値というのは、2017年11月に元SMAPの「新しい地図」のメンバーが、ABEMAの「72時間ホンネテレビ」に出演した際の、7400万視聴という数値でしょう。
参考:元SMAP72時間テレビで振り返る、SMAPファンの凄さ
過去に、ABEMAが7400万という数値をアピールしていたことを覚えている方からすると、今回のW杯において「1000万人突破で開局史上最高」と言われても、少なく感じる場合があるのは当然です。
実は、5年前のABEMAは、「視聴者数」ではなく番組の「視聴数」、つまりは番組を視聴した「人数」ではなく、番組が表示された「回数」を元に発表をしていたのですが、一部メディアやユーザーがその視聴数を視聴人数と誤解して話題にするなど混乱していた記憶があります。
なにしろ「亀田興毅に勝ったら1000万円」は5時間番組、そして「72時間ホンネテレビ」はタイトル通り72時間番組で、その最中に何度も同じ人がザッピングを繰り返すと「視聴数」は一人の行為を何度もカウントして増えることになります。
そのため、当時は一時的に1420万や7200万という巨大な数字が一人歩きしたものの、同時「視聴者数」は大きく見積もっても100〜200万程度、実際のところは数十万程度なのではないかというのが業界関係者の冷静な見方だったわけです。
実際、ABEMAが発表している当時の1週間あたりの利用者数のグラフを見ると、2017年の7400万視聴の番組が公開された11月のピーク時でも729万人でした。
ここから、当時の1日の視聴者数は多くても200〜400万程度と類推されます。
それが今回発表された1000万人は、明確に「1日の視聴者数」ですので、ABEMAにとって非常に重要な記録更新となったことは間違いありません。
おそらくはABEMAの1週間あたりの利用者数も、過去最高の1896万はもちろん2000万も大幅に超えてくることになるでしょう。
■1000万人は試合単体ではなく1日の数値
ただ一方で、今回のABEMAの1000万人という視聴者数は、W杯の日本×ドイツ戦の試合単体での記録ではない点にも注意が必要です。
ABEMAの発表では「23日の1日の視聴者数が1000万」となっており、あくまで23日のABEMAの他の番組全てをあわせた視聴者数が1000万人ということになります。
日本×ドイツ戦の同時視聴人数は発表されていませんが、おそらくは数百万人台前半〜中盤というところだと推定されます。
一方、今回のW杯の日本×ドイツ戦は、ABEMAが独占配信していたのではなく、地上波やBSの放送はNHKが実施していました。
そのNHKのW杯中継の世帯視聴率は、瞬間最高視聴率で40%を超え、個人視聴率も平均で22・1%だったそうです。
参考:サッカーW杯「ドーハの奇跡」日本×ドイツ戦 瞬間最高視聴率は試合終了時40・6%!独撃破、列島大興奮
つまりは単純計算でも日本の2000〜3000万人が、NHKの地上波で試合を観戦していたことになります。
その人数と比較すると、ABEMAの「23日の1日の視聴者数が1000万」や、日本×ドイツ戦の同時視聴人数が類推で数百万人というのは、地上波に比べればまだまだ少ないということもできるわけです。
ABEMAが見せた「新しい未来のテレビ」
ただ、ネット業界側の視点から考えると、今回のABEMAの記録更新は1000万人という数値以上に大きな意義を持っているのは間違いありません。
象徴的なのは、本田圭佑さんの解説がツイッターを中心に大きな話題を集めたところにあるでしょう。
参考:【W杯】本田圭佑、自由すぎる解説「マキ、これやんな!」槙野智章と好連携披露も
実は本田圭佑さんの解説はABEMAで実施されていたもので、地上波のNHK側の放送の解説は、福西崇史さんと井原正巳さんが担当されていました。
同時視聴人数で言えば、前述のようにNHKの放送を見ている人の方がはるかに多かったはずですが、ツイッター上で話題になったのはABEMAの本田圭佑さんによる解説だったのです。
これにはABEMAがツイッターユーザーと相性が良かったり、本田圭佑さんの解説が本当に独特で話題になりやすかったからと言う面もありますが、そうしたところを狙って本田圭佑さんを番組の顔にするなど、さまざまな選択を行ったABEMA側の作戦勝ちとも言えます。
ABEMAにはツイッターを連携してコメントすると動画もセットで配信される機能があることもあり、少なくともツイッター上でみていたユーザーの多くにはNHKと同じぐらい、人によってはそれ以上にABEMAの配信の存在感が大きい結果となっていたわけです。
ABEMAは「新しい未来のテレビ」を掲げていますが、今回文字通りSNS時代に対応した「新しい未来のテレビ」の形を、自ら体現することに成功したと言えるでしょう。
ネットの同時配信数の限界の常識を超えて
そもそも、インターネット経由の配信は、ネットワーク回線の負荷を考えると、W杯サッカーやオリンピックのような同時に大勢が視聴する番組には向いていないというのが従来の常識でした。
以前、日テレで開催されたJoinTVカンファレンスに登壇した、当時ドワンゴの川上さんが、「数百万人~数千万人が同時に視聴するような番組は技術的にも地上波の方が向いていてネットでやるのはコストが合わないけど、数十万人や数万人視聴の番組はネットの方が向いている。」と発言されていました。
参考:日テレ JoinTVカンファレンス2013 | Life is Love and Literacy
それが今回、ABEMAはその地上波とネットの領域をまたぐところに足をかけたことになります。
もちろん、YouTubeのライブ配信では、日本でも手越祐也さんのYouTubeライブが132万人を超えた記録となっていますし、世界では「リーグ・オブ・レジェンド」の世界大会で19放送局での合計の最大同時視聴者数が7386万人を超えるという凄まじい事例が存在します。
参考:「リーグ・オブ・レジェンド」世界大会の観戦データが明らかに。最大同時視聴者数は7386万742人,合計視聴時間は10億8499万1999時間
そういう意味ではYouTubeなどの海外のプラットフォームでは、100万人を超える同時配信の実績は既に多数出てきているのですが、今回、そこに日本の事業者であるABEMAが食い込んだ点は特筆すべきと言えるでしょう。
新しい未来のテレビは日本に根付くか
実際、地上波と同時にABEMAをみると、ABEMA側は30秒ぐらい遅延があることが確認できますが、現時点でデメリットと感じるのはそれぐらい。
地上波と遜色のない高画質で配信されている上に、カメラを四種類切り替えることができたり、前述のようなツイッターに画像付きでツイートできる機能があるなど、一部の機能で明らかな優位性もあります。
また、何といってもテレビだけでなく、スマホやタブレットなど好きな端末で好きなところで見ることができるのが地上波に比べたABEMA最大のメリット。
日本代表がドイツ戦のような活躍を本大会で継続し、本田圭佑さんの解説などABEMA独自要素が注目されれば、当然ABEMAを利用するユーザーがさらに増えて、さらなる記録更新も期待されます。
日本では、ながらくテレビのデジタル化がメディアの中でも最も遅れていると言われてきましたが、今年は地上波のリアルタイム配信も開始され、TVerの存在感も大きくなりつつあります。
今回ABEMAがW杯中継において存在感を高めれば、日本の「テレビ」のイメージが、ABEMAやTVerなどのネットテレビも含めた新しい未来のテレビに一気に更新される可能性は大きそうです。
カタールW杯は、日本代表の活躍とセットで、是非ABEMAの活躍にも注目していただきたいと思います。