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米韓首脳が会談で「核廃棄=体制保障」の原点を再確認…米朝会談に一歩前進

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
22日、ワシントンで首脳会談を行った韓国の文在寅大統領と米国のトランプ大統領。(写真:ロイター/アフロ)

22日(現地時間)午後、米ワシントンで米韓首脳会談が開かれた。会談では北朝鮮の懸案事項である「体制保障」が正面から取り上げられ、情勢を進める成果があった。会談の内容をまとめる。

会談の目的は「6.12とその後」

韓国青瓦台(大統領府)の尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通主席はワシントンに向かう機内で、今回の首脳会談について「今後の朝鮮半島の状況をいかに導いていくのか、米韓両首脳の意見交換が目的だ」とした。

その上で、「今回の米韓首脳会談は、事前の調節が一切無いまま行われる」と明かし、議題は「『6.12米朝首脳会談をどのように成就させ、重要な合意に到達できるか』と、『合意する場合、それをどのように履行していくか』の2つだけだ」と述べた。

また、会談の形式については、「両国の随行員が昼食を共にしながら行う会談があるものの、両首脳が十分な時間をかけて正直な意見交換を行う」とし、文在寅(ムン・ジェイン)大統領とトランプ大統領による随行員を排した単独会談の重要性を強調した。

単独会談は21分で終了

だが、単独会談への道のりは簡単ではなかった。22日午後12時5分、両首脳は会談に先立ち、ホワイトハウスのオーバルオフィスで共同会見を行った。

当初、両首脳は冒頭発言だけ行い、単独会談に入る予定だったようだ。だが12時10分に冒頭発言が終わるや、トランプ大統領に記者団からの質問が殺到するなか、同大統領はこれにすべて答えるという「即興」を行った。

質疑応答時間が終わったのは12時42分。そこから13時03分までの21分間、米韓首脳による「単独会談」が行われた。当初は12時35分に単独会談が終わる予定であった。

22日(現地時間)午前、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当、左)、ポンペオ国務長官(中央)と面談する韓国の文大統領。写真は青瓦台(韓国大統領府)提供。
22日(現地時間)午前、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当、左)、ポンペオ国務長官(中央)と面談する韓国の文大統領。写真は青瓦台(韓国大統領府)提供。

トランプ大統領は「貿易」に言及…米朝会談は「開催できるか様子を見る必要がある」と

それでは首脳会談の内容を追っていく。トランプ大統領は冒頭発言で「文大統領がホワイトハウスに合流したことをとても嬉しく思う。文大統領と私は長い付き合いの下、とても良い友だちになった」と切り出した。

そして「我々は様々な問題について協力している。もちろん、北朝鮮問題がもっとも大きい協力の議題だ。それ以外にも韓国との貿易についても議論する。韓国との貿易は今、再交渉中であり遠からず良い知らせがあるだろう」とした。

その上で「最も重要なシンガポール会談についても議論する」とし、「シンガポール会談が開かれるか開かれないかは、様子を見る必要がある。もし、それが開かれるのならば、とても良いことになるだろうし、北朝鮮にとっても良いことになる」と明かした。

さらに「もし開かれなければ、それも大丈夫だ」と付け加え、文大統領に対して「様々な協力に感謝する」とした。

文大統領は「トランプ大統領のおかげ」連発

一方、文大統領はまず「歓待に感謝する」とした。そして「数日前、テキサス高校で起きた銃撃事件で罪の無い犠牲者が起きたことに対し、大統領と米国の国民に労りの言葉をかける」とし、「米国の抑留者が北朝鮮から無事帰還したことに対し、もう一度お祝いする」と続けた。

さらに、「『力を通じた平和』という、大統領の強いビジョンとリーダーシップのおかげで、史上はじめての米朝首脳会談が開かれることになり、朝鮮半島の完全な非核化と世界平和という夢に、大きく近づくことができた。トランプ大統領大統領だからこそ、去る数十年間、誰もできなかったことを成し遂げられると私は確信する」とトランプ大統領を讃えた。

その上で、「韓国と朝鮮半島の運命と未来にもとても重要な仕事であるため、私も最善を尽くし、米朝首脳会談の成功を手伝い、トランプ大統領といつまでも共にあるという点を約束する」との立場を明かした。

トランプ大統領と記者団との質疑応答

その後、前述したように当初の予定に無かった質疑応答が続いた。主要なものを取り上げる。

記者:北朝鮮の非核化という問題を解くにあたり、文在寅大統領の仲裁についてどの程度、信頼しているのか

トランプ大統領:私は文大統領の能力をとても信頼している。文大統領でなければ、この問題がここまでこなかったはずだ。文大統領は大きな寄与をした。(中略)文大統領は、韓国や北朝鮮だけのために交渉を行うのではなく、朝鮮半島全体のために努力している。その点で大きな信頼をおいている。

しかし北朝鮮との交渉がうまくいくかいかないのかは、様子を見なければならない。私はこういった交渉において、とても多くの経験を持っている。どんな場合にも、交渉に入るにあたり可能性がゼロだったのが、交渉を通じて100になる場合があるし、(成功する)可能性がとても大きかったのだが、まったくダメになる可能性がある。そのため、いったん行かなければならない。しかし、韓国にとって文大統領が大統領であるということが、とても運がいいと思う。

記者:非核化が一度に一括妥結することを臨むか、あるいは段階的・漸進的に行われるべきかと思うか。

トランプ大統領:一度に、一括妥結することが望ましい。それがより良い。完全にそうすべてきということではないが、全体的に見た場合、一度にビッグディールで妥結するのが望ましい。しかし一度に行われることは物理的な要件により不可能であるかもしれないので、短い時間内に取引が行われるのが望ましい。

記者:北朝鮮と金正恩氏がCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)を決定する場合、大統領は本当に北朝鮮政権の安全を保障するつもりか?

トランプ大統領:保障する。はじめからそのように話してきた。金正恩氏は安全であるだろうし、とても嬉しいはずだ。北朝鮮はとても繁栄するだろうし、北朝鮮の国民はとてもよく働く国民だ。北朝鮮国民のためにも、韓国のためにもとても良い出来事になるだろう。米国はこれまで韓国に数兆ドルの支援をしてきた。そして今、韓国が世界でも立派な国になった。北朝鮮も同じ民族の人たちだ。このため、今回の交渉がうまくいくならば、金正恩委員長もやはりとても喜ぶだろうし、うまくいかない場合には喜べないだろうと思う。

しかし今、金正恩委員長は歴史上もっとも大きな機会を前にしている。何かを成し遂げられる機会を持っている。(中略)北朝鮮の国民に対してだけでなく、全世界のために、朝鮮半島のためにとても良いことをする機会が今、金正恩委員長の手の中にある。そしてもう一つ重要な点は、韓国と中国、日本と私は対話をした。この3つの国はすべて北朝鮮を助け、北朝鮮をとても偉大な国家にするため、多くの支援を今、約束している。

22日(現地時間)午後、ホワイトハウスで行われた米韓首脳会談の様子。写真は米大統領公式ツイッターより引用。
22日(現地時間)午後、ホワイトハウスで行われた米韓首脳会談の様子。写真は米大統領公式ツイッターより引用。

記者:中国が北朝鮮に対し、米国との関係について若干、否定的に話をしたと見るか?

トランプ大統領:金正恩委員長が2度目(5月7〜8日)に習主席と会ったあと、私が見るに態度が少し変わったようではある。それについて私は良い予感がしない。そうでないことを願う。なぜなら、私は習主席ととても良い関係を維持しているためだ。さらに皆さんがご存知のように、私が中国に行った再、とても歓待された。

とはいえ、金正恩委員長が2度目の中国訪問のあと、態度が変わったのは事実だ。私は分からない。習主席は世界最高のギャンブラー、ポーカーフェイスのプレイヤーだと見てよいだろう。私も同様だ。(中略)重要なことは、習主席と金正恩委員長の会合について誰も知らなかったという点だ。そしてその後、皆は驚いた。態度の変化があったという議論が事実であるのは間違いない。

文大統領は2度目の習主席と金正恩委員長の会合について、別の考えを持っているかもしれない。今、お話になっても結構だと思う。しかし、文大統領は気をつけなければならないと思う。なぜなら、北朝鮮とすぐ隣に住んでいるからだ。困難な立場にさせるつもりはないが。

文大統領:まず、米朝首脳会談が成功するかしないか、そして北朝鮮の完全な非核化ということが、果たして実現するかどうか。ここに対して懐疑的な見方が米国内にあるという点を良く理解している。しかし、これまで失敗してきたからといって、今回も失敗するだろうと悲観するのならば、歴史の発展というのはあり得ないだろう。米朝間でもこれまで何度も合意があったが、首脳間で合意が図られるのは歴史上はじめてのことだ。

トランプ大統領は今の劇的な対話、肯定的な状況の変化を導き出した。私はトランプ大統領が米朝首脳会談も必ず成功させ、65年間終わらせることができなかった朝鮮戦争を終わらせ、北朝鮮の完全な非核化を成し遂げると同時に、朝鮮半島の恒久的な平和体制を構築し、米朝間で国交も結び、正常な関係を実現させると確信する。それは世界史において、とてつもない大転換になるだろう。その偉業を必ず成し遂げられるよう、私も最善を尽くす。そしてそれは、北朝鮮にとっても実際の安全を保障すると同時に、平和と繁栄をもたらすだろう。

記者:(文大統領に対し)最近、仲裁者としての役割を強調したことがあるが、今の局面で、韓国政府の役割は何か。北朝鮮の態度が変わったという憂慮があるが、大統領の考えは。

文大統領:最近の北朝鮮の態度の変化をとって、米朝首脳会談が問題なく行われるのか心配する声があるが、私は米朝首脳会談が予定通り、しっかりと開かれると確信している。そして私の役割は米国と北朝鮮側の仲裁をする立場というよりは、米朝首脳会談の成功のために、そしてそれが朝鮮半島と韓国の運命に至大(とても大きな)影響を及ぼすため、米国と共に緊密に協調し、協力する関係と説明したい。

「6月12日に向け最善を」会談で合意、25日以降に状況好転も

21分間の単独会談、そして昼食会を兼ねた随行員を含めた会談が終わった15時、韓国青瓦台の尹永燦国民疎通首席は、会見を行った。

これによると、米韓両首脳は「6月12日に予定される米朝首脳会談がつつがなく行われるよう、最善を尽くすことで意見を合わせた」という。

また、「北朝鮮が最近見せた、米韓両国に対する態度について評価(判断)し、北朝鮮がはじめて完全な非核化を明らかにしたことで持ち得る不安感の解消方法などについても議論した」とした。

さらに、「文大統領が『米朝首脳会談の開催について、北朝鮮の意志を疑う必要がない』とし、『米朝間で、実質的かつ具体的な、非核化と体制安定に対する協議が必要だ』と強調した」と明かした。

尹首席によると、文大統領は「北朝鮮が非難した『マックスサンダー』米韓連合軍事訓練が終わる25日以降、南北閣僚級会談をはじめとする対話が再開されるだろうと見通した」という。

一方、「南北首脳は板門店宣言で南北が合意した終戦宣言について、米朝首脳会談以降に南北米3国が共に宣言する方案についても意見を交換した」と説明した。

握手する米韓両首脳。写真は青瓦台提供。
握手する米韓両首脳。写真は青瓦台提供。

総評:原点を確認し、議論を進める成果

4月27日の南北首脳会談、5月7〜8日の中朝首脳会談と続いたあと、5月10日(米東部時間)にトランプ大統領が6月12日の米朝首脳会談日程を発表した。

本来、今回の米韓首脳会談は、米朝首脳会談を控える中、「米朝合意」を前提に米韓の間でより具体的な「会談後」についてのプランが話し合われるはずだったものと見られる。

だが、北朝鮮が南北閣僚級会談を無期限延期し、米国に対しても「一方的な核廃棄要求時には米朝会談再考」を警告する中、「核廃棄=体制保障」という原点を再確認する会談であったと位置付けられる。

一部では、トランプ大統領の冒頭発言にあった「米朝会談実現は様子見」という発言を大きく取り上げ、米朝首脳会談の実現自体を疑う向きがある。だが、その後トランプ大統領みずから「いったん行かなければならない」と語っていることからも、筆者は米朝首脳会談の開催自体に問題は無いと見る。

さらに、北朝鮮側が繰り返し望んできた体制保障の問題についても、米韓が共に核廃棄時に得られる対価の存在を強調し、体制保障こそが交渉の原点である点をしっかりと北朝鮮側に伝える場になったと見る。その点で、文大統領を隣に座らせたトランプ大統領が、カメラの前で体制保障を明言したパフォーマンスの意味は大きい。

今後、文大統領の言うように、いかに体制保障を行うかについて米朝間で話し合われることになるだろう。これまで北朝鮮の核廃棄の方法のみがクローズアップされてきた中、議論は新しい段階に進むことになる。

なお、トランプ大統領は明らかに「貿易」の話をするとしたが、韓国側からは会談前も後も、説明が一切無かった点が気がかりではある。この点、韓国も北朝鮮とは別に、トランプ大統領を相手にギリギリの交渉を続けている可能性がある。「朝鮮半島の未来が6月の米朝会談にかかっている」という表現は決して大げさなものではない。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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