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田植えの前の「稲の種まき」ってどんな作業?東京で300年以上続く農家さんで体験してきた

田窪綾フードライター

八十八もの手間がかかることから「米」と名が付いたとも言われるお米。毎年4~6月頃になるとテレビなどで「田植えが始まりました」というニュースをよく見聞きしますが、その前にもやらなくてはいけない作業がたくさんあるんですよね。

2024年5月、筆者は都市部でのお米作りを応援するプロジェクト「東京お米サロン」のイベントで、東京・国立市の「西野農園」さんに伺ってきました。田植えの前段階である“稲の種まき”をお手伝いできる貴重な機会です。どんな風に作業するのか、写真とともにお伝えします!

江戸時代から続く「西野農園」

「西野農園」は東京都国立市で300年以上続く専業農家さんです。代表の西野耕太さんは13代目。先祖代々受け継いできた田んぼや畑で、お米や季節ごとの野菜を40種類ほど育てています。

JR南武線の谷保駅から徒歩10分、閑静な住宅街に広がる田園風景。天気は快晴!西野さんの畑では、にんじんやじゃがいも、とうもろこしなどの葉が青々と茂っていました。

谷保天満宮でお祓いした籾種(もみだね)を植える

お米づくりというと、苗箱にいっぱい育った稲を思い浮かべますよね。今回お手伝いするのは、その前段階である「籾(もみ)ふり」という種まき作業です。

この日集まったのは10人ほど。ご近所の方や大学生、小さなお子さんと一緒のご家族連れの方ほか、シンガポールから来たというインフルエンサーの方も!みんなで手分けして作業にあたります。

水をしっかり吸わせた籾種
水をしっかり吸わせた籾種

西野農園さんでは、「キヌヒカリ」という品種のお米を育てています。減農薬にこだわって栽培し、数十年かけてつないできた籾種。西野さんの田んぼに合うよう年月をかけて変化してきているそう。籾種は近くの谷保天満宮でお祓いを受けており、収穫したお米は「天神米」の名前で販売されます。

稲の種まき、どうやるの?

作業は大きく分けて、

①苗箱に床土を敷く

②籾種をまく

③土をかぶせる

の3工程。

まずは「①苗箱に床土を敷く」から。苗箱と呼ばれる縦長の薄い箱に床土を敷き詰め、しっかりならします。土がでこぼこしていると水はけにばらつきが出て苗の生育状況が変わり、稲の実りのタイミングにも影響が出てしまいます。

西野さんのお手本
西野さんのお手本

箱のサイズに合わせた鉄板でザザーッとならし、余分な土を落とします
箱のサイズに合わせた鉄板でザザーッとならし、余分な土を落とします

まんべんなく水をかけ、土にしっかり吸わせます
まんべんなく水をかけ、土にしっかり吸わせます

続いて「②籾種をまく」。すじまき器と呼ばれる板に籾種をスキマなく並べ、①の苗箱に撒きます。

細い溝が付いているすじまき器。洗濯板みたいな形状です
細い溝が付いているすじまき器。洗濯板みたいな形状です

苗箱の上にすじまき器をセットし、トントントン
苗箱の上にすじまき器をセットし、トントントン

このすじまき器、2重構造になっていて、中フタをスライドすると溝にある籾種が下に落ちる仕組み。溝に挟まった籾種も全部落ちるよう、トントンと叩きます。

すじまき器を外すと、一直線に籾種が並んでいました!「オオーッ」とどよめくみなさんと私(笑)。
すじまき器を外すと、一直線に籾種が並んでいました!「オオーッ」とどよめくみなさんと私(笑)。

最後に「③土をかぶせる」。床土と同様、均一にならしますが、まいた籾種がしっかり隠れるよう慎重に土をのせていきます。籾種が顔を出していると、鳥に食べられてしまうことも。

籾種が隠れるよう、均一に土をかぶせます
籾種が隠れるよう、均一に土をかぶせます

ピシーッと揃う覆土。見ているだけで気持ちいい!西野さん、左官工事もできそう
ピシーッと揃う覆土。見ているだけで気持ちいい!西野さん、左官工事もできそう

さらにたっぷり水をかけて。上からふわっとまんべんなくかけるのがコツ
さらにたっぷり水をかけて。上からふわっとまんべんなくかけるのがコツ

実際にやってみよう!

ひと通り教えてもらったところで、実際に参加者のみなさんも作業開始!工程ごとに分かれて作業し、慣れたら別の作業にトライします。

特に四隅の土が少なくなりがち
特に四隅の土が少なくなりがち

西野さんのお手本を見ていると簡単そうに思えましたが、実際にやってみるとこれがなかなか難しい。でも、だんだん慣れてくるとコツをつかみ、さらに「こうするといいよ」などのアドバイスも方々で飛び出します。筆者はひとりで参加しましたが、みなさんとわいわい話しながら楽しく進めることができました。

スキマができた部分は手でちょっと直します
スキマができた部分は手でちょっと直します

水を吸った苗箱はずっしり重く、なかなかの重労働です
水を吸った苗箱はずっしり重く、なかなかの重労働です

苗箱75枚分を並べ、育苗シートをかぶせて固定します
苗箱75枚分を並べ、育苗シートをかぶせて固定します

水分をたっぷり含ませた稲の苗箱。大きな石をどかすなど平らにした畑に並べ、保湿や保温、鳥よけのためのシートをかぶせます。

田んぼ約3反分、250キログラムのお米が収穫できるそう
田んぼ約3反分、250キログラムのお米が収穫できるそう

最後に西野さんが細いミスト状の水が出るホースを中央に這わせて完成。発芽を待ちます。朝と夕、毎日水やりの作業があるため、西野さんは普段から丸1日の休みがないそう。

こうした稲の種まきは機械化で進めているところがほとんどで、手作業で行っている農家さんは少ないとのこと。貴重な機会でした。

西野さんの田んぼ。引いている水は湧き水8割、多摩川からが2割だそう
西野さんの田んぼ。引いている水は湧き水8割、多摩川からが2割だそう

育った苗は、西野さんの田んぼに移されます。田植えの前にもトラクターで田んぼを耕す「田起こし」や、水を入れて土を砕く「代かき」などの作業をしなくてはなりません。

西野さんの農園では稲刈り後のわらを田んぼに戻し、無駄なく循環するようにしているほか、化学肥料を減らした減農薬栽培を実施しています。今回はほんの少しのお手伝いでしたが、大変さを垣間見ることができました。

最後に、日本で栽培される食べ物の状況についてちょっとおさらいしましょう。

東京都の食料自給率はゼロパーセント⁉

生きていくために必要なエネルギー量に換算する「カロリーベース」と、経済的な価値として金額に換算する「生産額ベース」
生きていくために必要なエネルギー量に換算する「カロリーベース」と、経済的な価値として金額に換算する「生産額ベース」

日本国内で消費される食料が、どのくらい国内産で賄われているかを示すのが食料自給率「カロリーベース」「生産額ベース」と2種類の計算方法があり、ニュースでよく見聞きするのは「カロリーベース」が主です(農林水産省「知るから始める食料自給率のはなし」より)。

令和4年(2022年)時点での食料自給率(カロリーベース)は38%。地域別に見てみると国内トップは北海道で217%逆に一番少ないのは東京都で、なんと0%なんです。(※農林水産省:令和3年度(概算値)、令和2年度(確定値)の都道府県別食料自給率より)

こちらは四捨五入でゼロというデータなので、実際は量が少ないながらも、東京都内で食料生産に携わっている生産者さんは多くおられます。とはいえ、その中でもお米を育てる都内の農家さんは本当にごくごくわずか。東京都内すべての農地面積に対して、3.8%ほどにとどまります。

東京産のお米栽培がわかる「東京お米サロン」

東京お米サロンWebサイト
東京お米サロンWebサイト

東京でのお米づくりと、豊かな自然環境を残すために立ち上がったのが「東京お米サロン」。西野さんと協力し、農業体験やイベントなどを実施しています。次は8月、苗を植えた田んぼを前にカカシづくり&BBQを行うそう!その他、西野農園さんでの援農ボランティアも募集されています。興味のある方はぜひWebサイトを見てみてくださいね。

東京お米サロン

西野農園

フードライター

調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っています。

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