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『白雪姫』実写化で、7人の小人は時代に反するか、必要か? 有名俳優の苦言から波紋も広がる

斉藤博昭映画ジャーナリスト
人気俳優となったピーター・ディンクレイジの発言に同調と反発の声が。(写真:REX/アフロ)

名作アニメーションを、どのように実写化すれば成功するのか。アニメだからこそ成立していた要素を、実写でリアルに表現するには、さまざまな模索があり、時にはリスクも生じたりする。アニメなら観ていてOKだけど、それをあからさまに実写で表現されたら、受け入れづらくなる……というわけだ。とくに作品の根幹に関わる要素では、その実写化に慎重を期す必要がある。

このところ、名作アニメの実写化が続くディズニーも現在、この問題に頭を悩ませているようだ。

『美女と野獣』や『シンデレラ』、『アラジン』、『ムーラン』、『ダンボ』などが次々と実写化され、『リトル・マーメイド』など製作中の作品も多い。そのひとつ、『白雪姫』の実写化で、ちょっとした波紋が広がっている。

『白雪姫』の実写版『Snow White(原題)』は2023年に公開予定。主人公を『ウエスト・サイド・ストーリー』のマリア役に大抜擢されたレイチェル・ゼグラーが務め、彼女に毒を盛る女王(魔女)にワンダーウーマン役でおなじみのガル・ガドットと、キャストも話題。監督は『(500)日のサマー』『アメイジング・スパイダーマン』のマーク・ウェブというのも期待感を高める。

現在、波紋のポイントになっているのが、『白雪姫』における重要なキャラクター(たち)だ。それは、7人の小人。

森で迷った白雪姫がたどり着いたのは、彼らが暮らす家。白雪姫は小人たちとの生活を楽しみ、彼らには深い絆が育まれるが、その家に魔女に化けた女王を招き入れ、毒リンゴを食べさせられてしまう。一旦は永遠の眠りについた白雪姫に、小人たちは嘆き悲しみつつ、いつまでも寄り添う。その後、あの有名な王子様とのキスが待っているが、小人たちは最後まで登場する重要キャラクター。1937年のアニメでは、彼らが歌う「ハイ・ホー」も有名になった。

実際にアニメ版の原題は『Snow White And the Seven Dwarfs』、つまり「白雪姫と7人の小人」だ。

では、実写化作品に小人たちは登場するのか? 登場するなら、どういう表現になるのか? キャストも含めてまだ正式には発表されていないが、ここに疑問を呈したのが、俳優のピーター・ディンクレイジだ。

人気TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」でエミー賞などを受賞。日本でも2/25に公開される『シラノ』ではシラノ・ド・ベルジュラックを名演して今年の賞レースに絡むなど、数々の作品で活躍している。ディンクレイジは軟骨無形成症で、身長が132cm。同じ症例の多くの人にも夢と勇気を与える、稀有な存在である。

そのディンクレイジがポッドキャストの番組で『白雪姫』の実写版について次のように指摘したことを、Hollywood Reporterなどが伝えている。

「冷静な気持ちで何を作っているのか考えてほしい。白雪姫役にラテン系の俳優をキャスティングという進歩的な方向をとりながら、相変わらず7人の小人がひっそりと暮らす設定を受け継ごうとしているのか」

放送禁止用語も交えながら、ディンクレイジは語った。

「これは自分だから伝えられる指摘であり、何も言わないで放置するわけにいかない。実写版がクールで進歩的な作品になるように、繊細な側面でサポートする用意がある」

このディンクレイジの発言にはSNSなどで多くの賛同が集まった。そのためディズニー側も即座に次のように反応。

「オリジナルのアニメにおける固定観念(ステレオタイプ)の強化を避けるため、7人の小人に関しては異なるアプローチを考え、軟骨無形成症など小人症のコミュニティーから意見をもらっています。映画の製作において多くのことを共有するのを楽しみにしています」

そして実写版『白雪姫』では、7人の小人の代わりに「魔法の生き物(magical creatures)」が登場するのでは……という噂も駆け巡った。

しかし、このやりとりに反発する人も現れる。せっかく7人の小人という重要なキャラクターが実写になるのだから、それにふさわしい俳優に活躍の場を与えるべき、というもの。ディンクレイジと同じ身長132cmのレスラーで俳優、ディラン・ポストル(映画『ザ・マペッツ2 ワールド・ツアー』などに出演)は、ディンクレイジの意見に猛反対。このように発言した。

「多くの俳優が演じることができない役が7つも用意される。私たちのような俳優は、なかなか役をもらうチャンスに恵まれないが、最も有名な物語のリメイクに参加できるとなれば、心から喜びたい。これは私にとって夢のような役なんです。ディズニー、私に連絡をください。他の6人もすぐに集められますよ」

そして、こうも付け加えた。

「私たちの社会は前に進むことも重要ですが、これは“おとぎ話”なんです」

他の俳優からも「私が軟骨無形成症なのは事実であり、その個性を生かしてキャスティングされることも望んでいます。ピーター・ディンクレイジ、一人の意見でディズニーがすぐさま方針を変えようとする現実の方が逆に恐ろしい」という声も上がった。

これは、ひじょうに繊細で、難しい問題かもしれない。「小人(こびと)」という単語は、アニメーションの『白雪姫』に登場したキャラクター以外、現在はあまり使われなくなった。差別用語だという認識も浸透している。「コビトカバ」のような種類の名前では目にするし、映画ではスタジオジブリの『借りぐらしのアリエッティ』は原作が「床下の小人たち」なので、そのまま使われたりもしているが、これらは稀な例になった。「小人プロレス」という言葉も今はほとんど聞かれない。

一方で、ハリウッドを中心に、さまざまな側面で「多様性」が重視されつつある現在、その人の個性、そのままを尊重するという考えも広まっている。顕著なのが、人種やLGBTQ+で、キャラクターに多様性を盛り込んで、さまざまな人種やセクシュアリティをバランスよく配置するのは、今や常識となりつつある(賛否の声も聞かれるが)。また人種は言うまでもなく、セクシュアリティ、たとえばトランスジェンダーの役があれば、実生活でもトランスジェンダーである“当事者”の俳優に演じさせるべき、という風潮にもなっている。そうした役にふさわしい俳優が存在し、彼らによりチャンスを与えられるからだ(これにも賛否の声はあるが)。

今回の7人の小人に関しても、実写で登場させるべきか、そうなった場合、どのような配慮がなされるべきか、これから論議が起こりそうだ。“当事者”の中でもこのように意見が分かれているわけで、『白雪姫』が85年の時を経て、どのような作品に現代の観客に届くのか、注目したい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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