パリにデジタルアートの新名所誕生
4月13日、パリにアートの新名所が誕生する。
その名は「ATELIER DES LUMIERES(アトリエ・デ・リュミエール=光のアトリエ)」。
世界に冠たる芸術の街パリには数多の美術館があり、常に魅力的な展覧会が開かれているが、これは全く新しいコンセプトによる施設だ。
場所はパリ11区のSaint Maur(サンモール)街。どちらかというと美術的施設は少ない庶民的なエリアという印象で、ツーリストにとってはあまり馴染みのない地域だ。ではどうしてそんな場所が選ばれたのかといえば、施設が昔の鋳造工場跡を利用したものだから。つまり時代から取り残されたような空洞が新しいアートの舞台に変身したのである。
ではそこでいったいどのようなことが繰り広げられるのか。
プロジェクションマッピングを想像していただきたい。
昨今様々な観光地やイベントで行われるようになった、壁面や建物をキャンバスにした映像アート。それがここでは、工場跡の空間の壁面を大画面に見立て、360度、さらには鑑賞者の足元まで覆うようにして展開される。しかも単発的なイベントとしてではなく、毎日それが見られるというところが新しい。
空間の床面積は2000平方メートル、投影される総面積は3300平方メートル。140機の映写機と50のスピーカーから、めくるめくような光と色彩、そして音が溢れ出す。壁の高さは10メートルあり、一角には昔の溶鉱炉と煙突の一部が残されていて、その湾曲した面もまた映像のキャンバスになる。
施設のオープニングを飾るプログラムは、3つの作品から構成されているが、そのメインになるのが「クリムト」だ。
映写時間30分ほどのその「作品」には、クリムトの代表作である『接吻』を始め、金彩に彩られた官能的な女性たちの肖像、そして四季の風景、連続するモチーフなどが様々な形で織り込まれているほか、彼の芸術の前段階としてのウィーン美術、さらにエゴン・シーレの作品も盛り込まれ、さながら歴史美術絵巻のよう。鑑賞者はその世界の中に身をおいているような気分になる。
美術館でのアート体験はたいていの場合、壁にかけられた作品を前にじっと動かずに鑑賞するものだが、ここでは作品が四方八方から立ち現れ移り変わるだけでなく、鑑賞する側もその中を浮遊するように動き回ることが可能だ。そして聴覚による刺激も美の体験を増幅させる。
冒頭「ネオクラシックのウィーン」と題された映像は、ワーグナーの「タンホイザー」とともに幕を開け、時代を追って展開するクリムトの自然、女性たちには、ベートーベンの交響楽、ショパン、マーラー、そしてプッチーニの「マダムバタフライ」が重なり、一大スペクタクルが展開する。
ところで、この「アトリエ・デ・リュミエール」を仕掛けたのは、フランス各地の美術施設や歴史遺産を運営管理するCulturespaces。パリではジャックマール=アンドレ美術館、マイヨール美術館の運営もしている。デジタルアートの展開はパリ初の試みだが、実は2012年からすでに南仏Baux-de-Provence(ボー・ドゥ・プロヴァンス)の採石場跡地を舞台に展開していて、毎年60万人が来場するという成功を受けてのパリ進出なのだ。
大人も子供も楽しめる、いまだかつて体験したことのないこの自由なアート空間。パリっ子に受けないはずはない。
「アトリエ・デ・リュミエール」の開場時間は10時から18時(金曜、土曜は22時まで)。定休日なし。
「クリムト」をメインにしたオープニングプログラムは、11月11日まで開催される予定。
動画はこちらから。