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シニアに「スキマ時間」はない……!?

田代真人編集執筆者
(写真:アフロ)

 昨年から今年に掛けて、シニア雑誌とWebサイトの編集に携わった。その雑誌は50代以上をターゲットにしたものだったが、想定メインターゲットは60代。厚生労働省が行なった「平成29年就労条件総合調査」によると定年制を導入している会社は95.5%。そのうち60歳で定年になるのは79.3%だ。しかし2013年の高年齢者雇用安定法の改正により、多くの企業が65歳までは働けるようにしている。「勤務延長制度」を導入している会社が9%、嘱託や契約などで「再雇用制度」を導入している会社が72.2%。だから8割以上の会社で65歳までは働くことができる。

 とはいえ、定年を迎えるとほとんどの場合、給与も下がることもあり、のんびりと仕事を続けるスタイルが主ではなかろうか。そして65歳ともなれば本当のリアイア生活が待っている。しかし、雑誌を買うにもお金がかかる。よく「活字を読むのはシニア層」だとは言われるが、雑誌や書籍を買う余裕がない人も多い。だから各地の図書館が盛況となるわけだ。そして、たまにの友人との団らんの場として安い居酒屋で“昼呑み”する。

 某大臣も胸を張って「スマホを使用している」と言っていたくらいなので、シニアへのスマホ浸透率は高くなっている。NTTドコモ・モバイル社会研究所によると2018年1月の調査で60代のスマホ使用率が56%となり、いわゆる“ガラケー”の使用率と逆転したとのこと。年を重ねるほど、その率は高くなっていくだろう。

 であれば、スマホでWebサイトを見る人も多くなると思われる……というのがWebサイトを構築するうえでの私の「仮説」であった。しかし、Webサイトのアクセス動向などを調査して、ある一定の別の仮説が浮かび上がってきた。そう、シニアには「スキマ時間」がないのだ。

 現状、もっとも忙しく働いている年代は20代から40代だろう。仕事に遊びに忙しく、あちらこちらに行けば、電車を待ったり、人を待ったりで空き時間が生じる。その「スキマ時間」を利用して、スマホをイジることになる。5〜10分の空き時間であればスマホで暇を潰すのが最適なのだ。多くの人気サイトは、そんな忙しい20〜40代の人々のアクセスを膨大に集めて、500万、600万とページビューを稼いでいる。それが広告費となってサイト自体が稼げる構造になっている。

 一方、50代後半あたりから役職定年になり、大きな仕事に取り組むこともなくなったシニア層、60過ぎて定年を迎えた層はどうか? 彼ら向けにWebサイトを作ってもアクセスが稼げない。いろいろと内容を練ったところで難しい。その理由を探ってみたところ、どうもシニア層にはスキマ時間がないのではないかという新たな仮説にいきついた。

 つまり彼らには「スキマ時間」はないが、「スキマではない時間」がたっぷりとあるのではないか。だから彼らは忙しくスマホをイジるよりも、2時間かけてゆったりと映画を観る。本が好きな人はカフェや図書館に行ってじっくりと読書する。実際、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が行なった調査によると男性では60代のみが前年度に比べ、映画観賞率が上がっている。70代は同程度。女性は10代20代の観賞率は上がっているが、30代40代は前年割れ、50〜70代で前年度より観賞率は上がっている。

 結局そんなシニア層にターゲットを絞ったWebサイトを作ったところでアクセスは稼げないのである。また消費欲も若年層に比べ劣っているので、Webサイトに出広する優良な広告クライアントもなかなかいないのが現実だ。

 私はいままで「ネットに使い慣れた若年層がシニアになればネットを使い出すのでシニア向けのWebサイトも十分成立する」と考えていた。しかし、いま現在そうは思えなくなった。いや端的に言おう。アクセス至上主義ではシニア向けWebサイトは稼げない。つまるところ、シニア層向けのWebサイトで稼ぐのであれば、シニアが欲しがる物品をそろえたECサイトくらいでないとビジネスにならないとの結論にたどりついたのだ。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にて初代Webマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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