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話が噛み合わない人……言葉の「表面」だけとらえて反応するパターン

横山信弘経営コラムニスト

「話せばわかる」と言いながら、どんなに話をしても話が噛み合わない人はいます。その原因はいろいろなパターンがありますが、今回は、言葉の「表面/上っ面」しか受け止めず、何も考えずに反応するような人について考察していきます。言葉をかなり省略しても、話が通じる人はいます。お互い、同じ経験をしていたり、同様の知識を兼ね揃えていることが前提条件です。たとえば以下の会話を読んでみましょう。

A:「この前、お袋にウィピルを渡したら、けっこう喜んでくれた」

B:「どこのウィピル?」

A:「シェラだよ」

B:「シェラのといったら、アレか……。私はサンタカタリーナ・パロポのを家に飾ってある」

A:「いつかは、トドスサントスのが欲しいけど」

B:「確かに。でも、難しいよな」

A:「まァね」

この会話文を読んで、「ああ、なるほど」とわかる人はほとんどいないと思います。私は20代のとき青年海外協力隊で中米グアテマラへ赴任していました。ウィピルとは先住民族の衣装のことで、カラフルな意匠が外国人に受け、観光地のお土産となっています。メキシコ南部やグアテマラ各地・各村でデザインが異なり、サンタカタリーナ・パロポという村には、美しい藍色のウィピルを着る少数民族がいます。「シェラ」というのは、グアテマラの第二の都市「ケツァルテナンゴ」の別称で、グアテマラに住んでいる人か、長期滞在している観光客でないと普通、使用しない言い方です。また、メキシコ国境沿いの村「トドスサントスクチュマタン」の男性用ウィピルは非常に珍しく、ウィピル好きの外国人観光客なら手に入れたい一品のひとつ。しかし、いかんせんメキシコ国境沿いは治安が悪く、敬遠する観光客は多いと言えるでしょう。つまり、この会話の「言葉」に触れただけで内容を理解するためには、その言葉の意味すること、そして背景なども知っていないと、まったく話に入っていくことができません。

実際、私がグアテマラにいるとき、余暇の時間を利用して「剣道」を社会人たちに教えていました。しかし、そもそも「剣道」がどのような武道であるかを言葉で説明しても、ほとんどのグアテマラ人は理解できないようで苦労したのを覚えています。「空手道」と「柔道」についてはグアテマラ人も見識があるため、それらと比較して「剣道」は何が違うのかを説明するのですが、実際に目の前で披露しないことには、どうしても理解してもらえません。「前提知識」がないからです。

しかし「前提知識」があるはずなのに、言葉の「表面」だけをとらえて反応する人がいます。次の友人同士の会話を読んでみてください。

A:「なんだか最近、悩んでるんだよね。会社を辞めようかと思って」

B:「ふーん、いつ辞めるの?」

A:「え?」

B:「辞めるんだろ?」

A:「いや、その」

B:「辞めるって言ったじゃん」

A:「そ、そうなんだけど、お前知ってるじゃないか。俺、去年結婚して子ども産まれたばっかりだって。妻に相談しない限り、そう簡単に決断できないよ」

B:「奥さんにはやく相談すればいいじゃん」

A:「子どもが産まれたばかりで、毎日大変なんだよ。君の奥さんにも、しょっちゅう手伝ってもらってるじゃないか」

B:「だったら会社を辞めなきゃいいじゃん」

A:「来年の2月から東南アジアへ転勤って言われたんだ。妻は一緒に行かないと言うし、駐在になったら、今度いつ日本に戻ってこられるかわからない」

B:「じゃあ、辞めればいいじゃん」

A:「だから、そう簡単に決められないんだよ。家だって30年ローンがあるんだし」

B:「家のローン、返せばいいじゃん」

A:「返すお金があったら、とっくの昔に返済しているよ。そのことは以前、相談してるから君も知ってるはずだろう」

B:「だったら、東南アジアへ転勤すればいいじゃん」

A:「俺は結婚したばかりだし、子どもも生まれたばかりだから、離れ離れになるのはイヤなんだよ」

B:「それなら、東南アジアへ転勤しなければいいじゃん」

A:「そういうわけにはいかないんだよ。上層部からの命令なんだから」

B:「だったら会社辞めればいいじゃん」

A:「もういい!」

まるでBさんが、友人Aさんをおちょくっているように読めます。Aさんが納得できないのは、いろいろな事情(前提知識)をBさんが知っているにもかかわらず、まるで何も考えずに反応しているように見えるからでしょう。まさに、相手の立場に立って話している、とは言い難い風に聞こえます。AさんはBさんに対して「話せばわかる間柄」とは思えません。上司と部下とのやり取りでも、よくあることです。

部下:「業績が落ち込んでいるので、何か手を打たないといけません」

上司:「そうだな。どんな手を打とうか?」

部下:「売れる商品を開発すべきだと思います」

上司:「よし、売れる商品を開発しよう」

部下:「しかし、そのためには開発費用を捻出しないといけません」

上司:「わかった。開発費用を捻出しよう」

部下:「しかし、開発費を工面するためには、キャッシュフローを健全化させることが必要だと社長が言っていました」

上司:「そうだな。キャッシュフローを健全化させることが先決だ」

部下:「そのためには収益を上げることが重要です」

上司:「そうだ。収益をアップさせよう」

部下:「しかし、これ以上のコストカットは難しいですので、本業の売上を伸ばす必要があります」

上司:「本業を伸ばそう。そうしよう。それが一番いい」

部下:「売上アップには、何か手を打たないといけません」

上司:「そうだな。どんな手を打とうか?」……

極端な例ですが、このように「言葉」だけをとらえて何も考えずに反応する人はどこの世界にもいます。「前提知識」があるにもかかわらず、何も考えずに応じているように見えるため、非常に無責任で、誠実さが感じられない印象を受けます。私は現場に入り、コンサルティングしている身ですから、このような中間管理職の方と話をしていると、とにかく噛み合いません。

私:「あなたの部下、まるで行動が変わっていませんよ」

部長:「そうなんです。まるで行動が変わらないんです」

私:「行動が変わるように伝えてください」

部長:「行動が変わるように伝えます」

私:「どのように伝えるんですか」

部長:「そうですね。どうしたらいいんでしょうか」

私:「直接会って、強い調子で言ったほうがいいですよ」

部長:「わかりました。直接会って、強い調子で言います」

私:「しかし、あなたの部下はみんな海外にいますよね?」

部長:「そうです。海外にいます」

私:「半年に1回ぐらいしか会いませんよね? どうやって直接会いますか?」

部長:「そういえばそうですね。どうやって直接会えばいいんでしょうか」

深く考えず言葉の表面しかとらえない人を見分けるには、5W1Hなどの「オープンクエスチョン」を使って質問してみることです。「クローズドクエスチョン」で問い掛けると、イエス/ノーで答えてくれますが、「オープンクエスチョン」で尋ねるととたんに「どうしたらいいんでしょう?」と質問に対して質問で返してきます。深く考えられないからです。言外に匂わす何かをとらえて話してもらえないので、真剣に相談を持ちかけてきているケースだと、大きな苛立ちを覚えます。

スイカでたとえてみましょう。スイカの果皮は緑色で、一般的に果肉は赤色です。スイカの外観を見ていても、その中には赤い果肉がぎっしりと詰まっていると誰もが想像するはずです。しかし、言葉の表面しかとらえない人は、スイカの果皮しか見ていません。中身は赤い果肉だと知ってはいても、想像できないのです。スイカのジュースを作ると言われると、その色は赤くなると多くの人は想像しますが、このような人は緑色のジュースをイメージするのかもしれません。

話を噛み合わせるためには、事前に「前提知識」を共有させておくことが重要です。しかし共通認識があるにもかかわらず、いつも言葉尻しかとらえない人とは「話せばわかる」とはなりづらいですので、信頼して任せることができません。何をすべきか、細かく指示する必要があるかもしれないので、気を付けたいですね。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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