This is JAPAN NAVY…日本は「軍」を保有? 答えを出さなかった平成の終わりに
「THIS IS JAPAN NAVY, THIS IS JAPAN NAVY」ー この言葉にショックを感じた人もいるかもしれない。そういえば私たちの国、日本は、Navy(海軍)を保有しているのか?
韓国海軍駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射したとされる問題で、防衛省が12月28日、機内から撮影した映像を公開した。映像には「日本国海上自衛隊」との翻訳字幕が付いている。他方で、隊員が「KOREAN NAVAL SHIP」と呼びかけたシーンは「韓国海軍艦艇」と訳されていた。当然といえば当然ではある。
だが、私たちは、同じ概念を国外と国内で「言葉の使い分け」をしている現実を、改めて目の当たりにすることになった。
NHKなどのテレビニュースでは字幕も含めそのまま映像を流していたので、「JAPAN NAVY」に気づいた人も多かったようだ。ツイッター上でも話題になっていた。だが、今朝の全国紙はすべて日本語表記に直されており、「JAPAN NAVY」という表記は見当たらなかった(読売、朝日、毎日、産経、日経、東京の29日付朝刊を調査)。
私たちの社会の公的な言論空間(国内)では、自衛隊は「軍(戦力)ではなく、実力組織」とされてきた。憲法9条2項に「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」(land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained:防衛省HPの英訳より)と明記されているため、政府は「通常の観念で考えられる軍隊とは異なる」との見解を維持してきた。「国際法上、一般的には、軍隊として取り扱われる」との認識を示しつつも、自衛隊を「軍隊」と同視してはこなかった。
3年前に「我が軍」と言った安倍晋三首相が批判を浴びたように、日本国内では「軍」と「呼ぶ」あるいは「同視する」こと自体がタブー視されてきた。しかし、他国軍との交流や共同軍事演習も行っている自衛隊(Self-Defense Force)は、対外的には軍隊(Force)と同視され、軍事用語の使用が禁止されているわけではない。このたび、海上自衛隊(正式にはJapan Maritime Self-Defense Force、JMSDF)が現場の実務では「Japan Navy」で通用しているという事実が(別に隠していたわけではないだろうが)、白日のもとに晒されたわけである。
ここで、いまいちど、自衛隊ホームページの装備品を見てほしい。
諸外国の軍隊と同じような装備品を持ち、国防を担う軍事組織であるという事実は否定できないはずだ。それでも、私たちの社会は「言葉の言い換え」によって、いわばオルタナティブ・ファクト(代わりの事実)を信じることにしてきたのである。
古くは「退却」を「転進」と言い変え、現実から目を背けた。最近も「戦闘」を「衝突」に、「空母」を「多用途運用護衛艦」に言い換えるなど、枚挙にいとまがない。戦後社会を貫くオルタナティブ・ファクトの最たるものが、「自衛隊は『軍』ではなく、『実力組織』」ではなかろうか。
改めて、米国日本占領軍軍事顧問団本部幕僚長として、自衛隊の前身である警察予備隊の創設を指揮したフランク・コワルスキー大佐の言葉が、思い起こされる。
(参考:誰もが憲法9条に対してクリーンハンドではない、ということ ~今後の熟議のために 2015/9/23)
これが約半世紀前に発せられた言葉である。そして、平成の時代に入り、冷戦が終結して30年近く、憲法9条の矛盾問題はさんざん議論が交わされてきた。しかし、私たちは、すでに「軍」を持っている国なのかどうか、という基本的な問いにも答えられないまま、平成の幕が閉じようとしている。