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「ジュラシック・ワールド」のような世界は実現可能? 現代の生物工学技術で”恐竜”を作り出す方法

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー
この記事は個人的な見解であり、飛躍した発想や推論も含みます

1993年の映画『ジュラシック・パーク』では、琥珀に閉じ込められた蚊の体内から恐竜のDNAを取り出し、現代に恐竜を再生するという技術が描かれていました。

実際にそんなことが可能なのか、少し前に科学的に検証してみましたが、残念ながら不可能に近いという結果が出てしまいました。

その際の検証過程については、X(旧Twitter)や記事をご覧ください。

「恐竜の再生」が実現困難な理由

  1. 恐竜の遺伝子情報が経年(数千万年以上)により失われている
  2. 仮に遺伝子情報(DNA配列)が分かっても、DNAを正確に合成できない
  3. 恐竜の細胞は作れたとしても、個体として産まれさせることができない

恐竜を作り出すことなら可能では?

映画『ジュラシック・パーク』シリーズの続編となる『ジュラシック・ワールド』シリーズでは、遺伝子改変によるオリジナルの新種恐竜が作られていました。

絶滅した恐竜をそのまま再生することは不可能でも、「ジュラシック・ワールド」のように遺伝子をデザインして、新たな種類の恐竜を作り出すことなら可能なのではないでしょうか?

そこで今回は、生物工学(遺伝子工学・細胞工学・発生工学など)の技術を駆使して、上記の3つの問題点を解決し、新種の恐竜(過去にいた恐竜とは別物であっても、恐竜の見た目をした生物)を作り出す方法を考えてみます。

作り出されたのが恐竜なのか、恐竜に似た別の生き物なのかは意見が分かれるかもしれないが……
作り出されたのが恐竜なのか、恐竜に似た別の生き物なのかは意見が分かれるかもしれないが……

倫理的問題は考えない

実際の社会では、カルタヘナ法などによって遺伝子改変生物の作出には厳しい制約がかせられています。法律以外にも、企業や研究機関ごとのルールなどのしばりもあります。
恐竜のような大型動物を全く新しく作り出すとしたら、極めて難しい議論を経ることになるでしょう。様々な団体からの反対や抗議、妨害なども考えられます。ですが、今回は法律や倫理面の問題は一切ないものとして考えます。

倫理面、道徳面、法律面など人類が作り出した制約は考えず、技術的なことだけに注目する
倫理面、道徳面、法律面など人類が作り出した制約は考えず、技術的なことだけに注目する

3つの問題を解決していく

(問題1)失われた遺伝情報

生物の情報はDNA配列によってコードされています。しかし、DNAは酵素反応や酸化、紫外線の影響などで壊れていきます。化石からDNAを取り出すことはもちろん不可能ですが、仮に永久凍土などから生の恐竜が発見されたとしても、経年によってDNAは完全に壊れてしまっており、遺伝情報は判別できないでしょう。

(解決案)AI技術の応用

実際の恐竜から遺伝情報を取り出すのではなく、恐竜の骨格や想像上の見た目などから遺伝子配列を推定するという方法を用いてはどうでしょうか?

現在、AIによって遺伝子情報を解析する技術の研究が進められております。部分的に欠損したDNA配列を、様々なDNA配列を学習したAIに読み込ませ、欠損部分を補わせる技術もあります。

現存するあらゆる生物のDNA配列と生物ごとの特徴をAIに学習させれば、作りたい恐竜の姿や性質のイメージから恐竜の遺伝情報を推定させ、DNA配列情報を生成させことができるかもしれません。

この方法で生成された恐竜のDNA配列は、過去に生きていた恐竜とは異なっている可能性がありますが、その代わりに現在の環境に適応可能な恐竜(のDNA配列)を作り出すこともできるはずです。

この図のように一つの遺伝子は数千~数万ケタにおよぶa、t、g、cの配列でできている。いろいろな遺伝子がいくつも合わさって一つの個体のDNAができており、全てのケタ数は数億~数十億になる。
この図のように一つの遺伝子は数千~数万ケタにおよぶa、t、g、cの配列でできている。いろいろな遺伝子がいくつも合わさって一つの個体のDNAができており、全てのケタ数は数億~数十億になる。

(問題2)DNA合成の限界

DNAにはa、t、g、cの4種類があり、その並び方によって遺伝子情報や生まれ持つ特徴が決まります。現在、4種類のDNAを任意の順番で並べていく技術は確立しています。しかし、その精度は100%ではありません。100ケタくらいまでならなんとか並べられますが、数億ケタ以上もある動物のDNA配列を正しく並べることはまず不可能です。

(解決案)現存する生物から切り出す

科学的にDNAを並べていく限界は100ケタほどですが、元となるDNAがあればそれを正確に複製することは可能です。それがPCR法です。数年前には新型コロナウイルスの検出方法としても話題になりましたが、そもそもPCR法とはDNAを極めて正確に複製する技術です。

恐竜の場合、元となるDNAが失われており、上記方法によってAIによって生成したDNA配列の情報しかないのが問題です。

そこで現存する生物から、目的の配列に近いDNA配列を部分的に切り出してきて、それらをつなぎ合わせる方法で、恐竜のDNAを作るという手段をとってはどうでしょう?

現在すでに、様々な生物のDNA情報が巨大なデータベースに登録されて、世界中で共有されています。データベースを検索すればその全ての中から目的の配列に近い配列を探したり、目的の配列との一致率を求めたりすることもできます。
それを利用すれば、なるべく目的のDNA配列に近いDNA配列をデザインし、DNAを切る「ハサミ」や貼り付ける「のり」のような役割をする物質を用い、デザインしたDNAを作出することもできます。

この方法なら、DNAを一つ一つ並べていくよりも容易に、長いDNA配列を再現することができるはずです。

より現実的に考えると、ワニやトカゲなどなるべく恐竜に近い生き物をベースとして、部分部分のDNA配列を組み換えていくことになると思います。この場合、100%目的通りのDNA配列を作ることはできないかもしれませんが、目的に近い配列のDNAを作り出すのと同時に、そのDNAを持った細胞を得られることになります。

欲しい遺伝子を組み合わせてつなげていくことで、目的とする配列のDNAを作る。ただし、余計な配列まで組み込まれたり、もとの配列が残ってしまったりする可能性も。※図やDNA配列は説明のためのイメージです
欲しい遺伝子を組み合わせてつなげていくことで、目的とする配列のDNAを作る。ただし、余計な配列まで組み込まれたり、もとの配列が残ってしまったりする可能性も。※図やDNA配列は説明のためのイメージです

(問題3)個体を作る困難

恐竜のDNAが手に入り、細胞を作り出すことができたとしても、そこから恐竜の赤ちゃんが誕生するわけではありません。どうやって細胞から個体(赤ちゃん)を誕生させるのかが問題です。

(解決案)クローン技術と体外培養系の応用

爬虫類をベースとして恐竜の体細胞を作ったとしたら、その核(DNA)をベースとなった爬虫類の卵細胞に移植し、胚(産まれる前の子ども)として成長を始めさせるよう化学的な刺激を与えます。ここまではクローン技術として一部では実用化されている技術です。

胚ができたら、次はその培養です。

一部の鳥類などでは、殻から取り出した卵(黄身と胚)に操作を加えてから、別の卵殻の中や試験管などで育てる技術が確立しています。それを応用して、受精卵を割って取り出した玉子の黄身の表面にある胚を、作り出した恐竜の胚と取り換え、試験管や殻の中に入れて育てていきます。ただし、育つための栄養やスペースを供給するため、取り換え先の玉子は産まれさせたい恐竜の玉子と同じくらいの大きさ(特に黄身の部分)が必要で、性質も似たものであることが望ましいです。

こうして、胚を入れ替えた卵が順調育っていけば、いずれ恐竜の子どもが誕生するはずです。

取り出した卵も黄身が破れなければ培養可能。丸印の胚の部分を入れ替えることで、恐竜を生み出せるかもしれない。あるいは、胚に恐竜の生殖細胞を注入しておく方法も考えられる
取り出した卵も黄身が破れなければ培養可能。丸印の胚の部分を入れ替えることで、恐竜を生み出せるかもしれない。あるいは、胚に恐竜の生殖細胞を注入しておく方法も考えられる

胚全体を入れ替えるのが難しい場合は、恐竜の細胞に化学刺激を与えて生殖細胞に変化させ(分化誘導)、それを胚に注入するという手段(生殖細胞キメラ:子どもを産むための機能だけ入れ替わった状態)も考えられます。

胚が育った個体は元の生き物のままですが、その個体を親にしてさらに子どもを作らせれば、恐竜を得られる可能性があります。

いつか物語の世界から現実へと、恐竜が飛び出してくるかも!?
いつか物語の世界から現実へと、恐竜が飛び出してくるかも!?

少し難しい内容になりましたが、現代の技術で恐竜を作り出す方法を考えてみました。いかがでしょうか。かなり困難ですが、実現もありえるレベルなのではないかと思います。

よく分からない言葉が多くて難しかったという人は、前の記事をご覧ください。細かな用語などについても詳しく説明してあります。
『ジュラシック・パーク』のように恐竜を現代に蘇らせることは可能?

今回の方法で産まれてくる恐竜は厳密に言えば、二足歩行の巨大なトカゲとか、恐竜っぽい見た目のワニみたいなものかもしれません。ですが、テーマパークでみられるとしたら、興奮するのは間違いないと思います。

人々の恐竜への憧れは根強く、映画『ジュラシック・ワールド』シリーズの続編の映画企画も動き出しているとのこと。いつかは現実でも、恐竜を見られる日がくるのでしょうか?

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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