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災害の変化で「昔とった杵柄」は使えない 深刻な雪害は車社会の進展から

饒村曜気象予報士
雪が積もった家と車庫(提供:イメージマート)

気象災害の変遷

 気象災害とは、自然現象によって人が亡くなったり、家財・建造物が喪失したり、人間活動がふだんどおりてきない現象のことです。

 従って、人が住んでいないところの自然現象は災害になりえませんし、人間活動が変わると災害も変わります。

 最近は「猛烈な雨を観測する回数が増えた」など、現象の変化による災害の変化もありますが、それ以上に人間活動の変化による災害の変化が大きいといわれています。

 古代は大きな災害であった干害(旱魃)は、灌漑施設の充実とともに減ってきました(図)。

図 日本の災害消長のイメージ図
図 日本の災害消長のイメージ図

 しかし、都市に人口が集中したことにより、局地的に深刻な水不足が発生することから無くなってはいません。

 また、東北地方で稲作をするようになった近世以降は冷害が大きな問題となってきましたが、農業技術の進歩で現在は減少しつつあります。

 水害は低地に人々が住み始めてから増加しており、特に明治後半からの都市への人口集中で急増しました。

 しかし、戦後は堤防の整備などで大規模な洪水は減少しています。

 しかし、都市化とともに、昔なら人が住まなかった低地や崖のそばに住むようになったっため、がけ崩れや小規模の洪水が増えています。

 なかでも、一番大きく変わったのは雪害です。

雪害は明治時代から

 最近の人間生活の変化に対応し、災害は都市化、過疎化、高齢化、ネットワーク化の4つによって、従来とは違った面がでています。

【都市化】田畑が宅地になることなどから、都市河川の水位が急速に上昇する水害などが登場。

【過疎化】農地や森林の管理が難しくなることによる土砂崩れなどの土砂災害の増加。

【高齢化】高齢者が増え、いわゆる弱者対策が増えたことによる災害の拡大。

【ネットワーク化】高度情報化社会で、ネットワーク化か進むことで、ネットワークの一部の地域の災害が社会全体に影響。

 雪は昔から降っており、「大雪は豊作の兆し」といわれているように、春先の農作業で必要な水を供給してくれる恵みと考えられていました。

 冬の間は、食料を蓄え、じっと春を待つ生活では、雪を災害とは特に意識していませんでした。

 逆に、道無きと山や川を進むことができ、そりで重たい山奥の材木の運搬ができるなどのメリットも感じていました。

 しかし、交通機関が発達し、冬の間でも人や物が行き来するようになると、雪が災害として意識されるようになります。

 明治時代となり、全国に鉄道網や電力線が張りめぐされれるようになると、それらが雪によって切断されたときには、広範囲に影響が及ぶことから、雪害というものが意識されるようになりました。

 冬でも大勢の人が集まる機会が増えれば、いったん災害が発生すれば甚大な被害となります。

 昭和13年(1938年)1月1日、新潟県十日町市の映画館が積雪の重みで倒壊し、死者69 名、重軽傷者92名という大きな被害がでています。

 映画館には正月映画を楽しむため観客700名が入場していましたが、中央部の屋根が2メートルの積雪の重さに耐えきれずに落下したからです。

 また、昭和36年(1961年)の正月は、日本海側の豪雪により100 本の列車が立ち往生しましたので、15 方人が車内で年越しをしています。

車社会の到来

 昭和38年(1963年)の「三八豪雪」以降は、モータリゼーションの発達したため雪害が変わりました。

 道路除雪をすぐにしないと生活が成り立たなくなってきたため、雪害が大きな災害となってきました。

 雪の多い日本海側の地方では、昔は屋根の雪下ろしをしてもその雪がそこにあったので、屋根から落ちてもケガをしませんでした。

 また、屋根からの落雪は、屋根からそこにある雪の上への落下ですので、屋根から雪面までの距離が短く、破壊力が大きくありませんでした。

 しかし、今は、そのようなゆとりの場所がなく、道路上に捨てられた雪はただちに雪捨て場に運ばれています(写真)。

写真 雪下ろし作業
写真 雪下ろし作業写真:イメージマート

 このため、屋根から落ちた場合は、即、地面にたたきつけられることから、転落死が急増しています。

 屋根からの落雪は、加速してからあたります。

 高齢者が若いころの雪害と、現在の雪害は、車社会の大幅な進展によって変わっています。

 高齢者の雪下ろし作業では、「若いころは大丈夫だった」というのは、体力がそれほど落ちていなくても通用しません。

 「昔とった杵柄」は使えないので、安全には十分注意してください。

 強いクリスマス寒波のあと、やや強い年末寒波のあと、元日は少し暖かくなっていますが、2日以降は強い年始寒波がやってきます。

 年始寒波は、前日の暖かさで雪面が少し融け、それが寒波で凍った上に大雪が降ることで、雪崩や落雪がおきやすいという特徴があります。

 年始寒波の大雪では、帰省帰りの交通障害に警戒するとともに、雪崩や着雪に注意が必要です。

 また、雪の少ない太平洋側の地方でも、雪に慣れていないために転倒事故が続出していることに加え、雪に対しての脆弱性が増しているため、ちょっとの雪で交通機関は大混乱して都市生活に影響を与えています。

 定刻通りに、人や物がつかないと困る社会になってきたので、強い寒波のときには、日本海の雪雲が脊梁山脈の低い所から流れ込んでくる太平洋側でも注意が必要です。

雪のメリット

 日本は気象災害の多い国と言われていますが、日本は豊かな恵みをもたらす気象現象の国でもあります。

 雪にしても、少なければスキーなどのレジヤー産業に打撃をあたえ、春先の農業用水が心配になります。

 また、雪があると地中の温度が極端に低くなることがないので、雪によって動植物が守られているともいえます。

 私たちの日常生活はその微妙なバランスのうえに成り立っています。

図の出典:筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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