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諦めムードが蔓延。被災地の除染はいま?

田代真人編集執筆者
ごっそり表土を削り取る除染 (c)naonori kohira

先日、いまだ福島県で続いている放射性物質除染について、現状をお伺いしたので、みなさんにもご報告しておきたい。お話を伺ったのは株式会社花咲じいさんの山中讓社長。代々続く古美術商の4代目だが、49歳までは丸紅で商社マンとして働いていた。その後はIT企業の社長として辣腕を振るっていたが、2011年の震災の際、なにか被災地の力になりたい、と復興ボランティアを始めたという。

山中讓氏 (c)naonori kohira
山中讓氏 (c)naonori kohira

ガイガーカウンターはもはや必要ない

「いま被災地でも現地のみなさんの危機感が変わってきましたね」

山中氏は開口一番にこう切り出した。

「以前はみんなガイガーカウンターを持ち歩き、至るところで放射線量を測定していたのが、いまそういう人はいません。感覚が麻痺したというか、いくら除染しても新たな放射性物質は飛来しているようで、もはや諦めたといった感じでしょうか」

報道などでもあったように自治体による除染は何次にも渡る下請け業者が作業し、実際はそうとうな手抜きが行なわれてもいる。それらの除染に効果を期待するのも虚しく、また、たとえ自分の家を洗い、庭の表土を削ったところで、福島第一原発からの放射性物質拡散が止まったと信じていない被災者たちは、神経質に放射線量を測ることさえ徒労に終わると思っているようだ。

「表土を5cmも削れば、90%以上は除染できます。しかし、芝生があったところなど草花もろとも削りますから除染後は無残な姿です。しかもみなさん念のために、と多めに削っていく。そして削り取った土も自宅で保管しなければならないんです」

当初は、復興ボランティアとして現地の野菜販売を手伝ったり、被災地バスツアーの企画をしたりと被災地のために活動していた山中氏。そこで出会ったNPO法人の人たちと話していくうちに、現地で行なわれている除染について疑問をもったという。

(表土を剥ぎ取るという除染ではなく、もっと自然にやさしい除染はできないものか?)

そこから除染剤の研究を始めた。しかし現状考えられるものは、どれも満足がいくものではなかった。放射性物質を吸着するというゼオライトという物質は、雨水にあたると吸着したものを吐き出してしまう。

サンゴで培養された菌というものもあったが、非常に高価で大量に使うことができない。そもそもサンゴ自体が貴重なものだ。塩素は放射能物質除去だけを考えると化学的に効果的だが、技術が未成熟で、かつ植物などを枯らしてしまう。

どの方法も一定の効果は認められるも、自然を残したまま除染できるものではなかった。結局、吸着のみを考えた単純な多孔質物質だけでは難しく、活性炭や籾殻などカーボン系の材料も検討したが、効果・材料供給・自然破壊などの点で疑問符が付いた。

サトウキビの絞りカスに除染効果が!

そこで山中氏が行き着いたのがサトウキビの絞りカスであるバガスだった。氏はもともとフィリピンでCO2排出権確保のための植林をやっていたという。そういった経験から多孔質で放射性物質を吸着して除去できる物質としてバガスを思いついたのだ。バガスは大量に手に入れられ、価格も安い。であれば、効果が認められれば最適なものになる。

「そこで私たちは実証実験をしました。南相馬市など、福島県内、百数十か所。その結果をみると、驚くことにすべての地点で数値が下がっていたのです。となれば除染剤としての効果を認めざるをえません」

その後、山中氏は株式会社花咲じいさんを設立。本格的な研究開発と許認可取得に動いた。そうしてこの除染剤は、見かけ上バガスを原材料とした土壌改良材として、特殊肥料『復興のちからS』の販売許可を得た。ただ、実は、単にバガスを加工しただけではないという。

「製法には、いくつかのポイントがあるのですが、それは明かせません。しかし、結果として効果が出ています。また、たとえ散布後に新たな放射性物質が降下しても、しばらくすると線量が下がるということもわかりました」

これほどの効果を生み出しているのはなぜだろうか? 山中氏は、その科学的根拠を探ろうと何人かの大学教授の先生にも検証してもらったという。

「大学の研究室でいくつかの実験などしていただきましたが、実はわからないというのが正直なところです」

なんと、大学の研究所で放射線量が下がる根拠を探ろうとしてもわからないという。ただ、研究を繰り返して、わかってきたのが実は吸着による効果ではないらしいということ。ただ現状その先はわからない。しかし効果はある。1年以上前に散布した場所ではいまだに効果を発揮し続けているそうだ。

自分の身は自分で守るという選択肢

「震災から3年も経とうとしているのに国や地方自治体による抜本的な対策は、いまだなされていません。それら対策を待ち続けても精神的に疲弊していくだけです。そろそろ被災者自身が自分たちを守るという選択がなされてもいいのではないでしょうか」と山中氏は訴える。

いま国が定めた除染の基準は、追加被ばく放射線量年間20ミリシーベルト以上の地域はそれ以下に、年間20ミリシーベルト以下の地域は年間1ミリシーベルトまで除染していくというもの。この基準については、厳しすぎるという声も多い。厳しくしているがために除染が終わらず、無駄な税金が投入されているという意見だ。

そのような意見もわからないではないが、被災者にとっては国が定めた基準を無視できるものでもなく、そのなかで生活するには心理的な不安も大きい。山中氏が開発した土壌改良材は、その科学的根拠が示されてない点で評価するには弱いものかもしれない。ただ一方で、実証実験において除染効果が確認されている。効果があるのであれば、被災者にとって救いの一つになるであろう。

被災地から遠く離れた者にはわからない苦しみ。私たちができることは事故を風化させることなく、忘れず、かかわっていくことだけなのかもしれない。今回山中氏の話を聞いて強くそう感じた。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にてWebマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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