知られざる数億ションの世界(8)広いだけでは驚かない……富裕層を感動させた収納とは
分譲価格が数億円、ときに10億円以上となる高額マンションでは、部屋だけでなく収納スペースもケタ外れに大きい。寝室に併設されるクローゼット(服入れ)は6畳以上。その特大クローゼットが夫用と妻用で2箇所に設置されたりする。
衣類を大量にしまえるだけでなく、動きやすさ、探しやすさ、そして着替えやすさも追求される。数億ションの収納では、クローゼット内で着替えができるケースが多いのだ。
必要最小限の服しか持たないミニマリストの生活が注目される世の中だが、それとは正反対のライフスタイルが実践されていることになる。そもそも数億ションは150平米以上あるのが普通で、標準的な3LDKの2倍以上。ミニマリストの世界とはかけ離れている。
といっても、セカンドハウスとして使用する場合はそれほど大きなクローゼットは求められない。短期間の利用が多いセカンドハウスでは、その都度、必要な衣服だけを持ち込むからだ。
クローゼットが小さければ、衣装部屋をつくってしまう
特大の収納スペースが求められるのは、数億ションに定住する場合だ。しかしながら、巨大なクローゼットは購入時の必須条件ではない。
クローゼットが小さく、収納スペースが足りないとき、富裕層はすぐに衣装部屋をつくってしまう。空いている部屋をまるごと衣装の置き場にしてしまうので、大きなクローゼットを用意する必要はない、とも考えられている。
そのため、数億ションのモデルルームでは、ただ広いクローゼットをつくるだけでなく、びっくりするような工夫を凝らして、見学者の興味をひこうとする。
それは、一般のマンションでは、想像もできない工夫となる。
たとえば、10畳以上の広さがあり、中央に鏡付きの洗面台を設けたクローゼットをモデルルーム内につくり、そんな暮らしはいかがですか、と提案されたりする。
冒頭に掲げたのが、その写真。多くの服が収められるなか、洗面ボウルでお湯を使うことができる。一般のマンションでは、絶対にお目にかかれない工夫である。
なぜ、そのような空間をつくったのか。
着替えをするときは、化粧もするはず。だから、服をしまう場所と洗面台を1箇所にまとめました、というわけだ。
たくさんある靴やシャツを探しやすいように、収納スペースにブティックの陳列台のような棚を設置したモデルルームもあった。
モデルルームで変わったクローゼットが提案されるのは、それまでつくったクローゼットが気に入ってもらえなかったからかもしれない。
「クローゼットは、ありきたりだね」とか、「クローゼットにも新しい工夫があるのかと期待していたんだが」などと言われてばかり……だから、思い切った工夫を凝らしたのではないか、と推測されるわけだ。
が、洗面台付きのクローゼットも、ブティックのようなクローゼットも大いに気に入られることはなかった。
予想外に気に入られた収納棚があった
富裕層に気に入ってもらえる収納スペースはなかなか実現しないのが実情なのである。
そんななか、予想外に評判がよくて、不動産会社の担当者も驚いた工夫がある。それが、下の写真、クローゼット内に設けた棚だ。奥行きが浅かったため、ハンドバッグを置くのにいかがですか、と提案された。
じつは、この棚、苦肉の策として設置されたものだった。
もともとは、ウォークインクローゼット内の壁に窪んだスペースが生じてしまい、そのままだと、違和感がある。パネルで塞いでしまうのも芸がないので、ハンドバッグを置くスペースとして提案してみたのである。この中途半端な(奥行きが浅い)棚が、意外や富裕層にウケた。
「これ、いいわ!」と富裕層の奥様方が目を輝かせた。ハンドバッグの置き場として、これ以上の工夫はない、と絶賛された。
奥行きが浅いので、ハンドバッグの置き場として最適。柔らかな素材でも、奥の壁に支えられて自立させやすい。バッグを置きやすいだけでなく、取りやすいし、なにより見やすい。
だから、多くのハンドバッグを所有する人の場合、探しやすいというメリットも生じる。
コレクションとして眺める楽しみも
奥行きの浅い棚ならば、コレクション全体を眺めることもできる。所有するハンドバッグが多い人は、それも喜んだ。
いたく感激した購入者は、大型で、もっと多くのハンドバッグを飾ることができる棚をリクエストした。
ハンドバッグの所有数を含めて、数億ションを購入するような富裕層の生活ぶりや趣味は一般の想像を超えることがある。そう実感することは、収納棚以外にもある。
他にどんなものがあるのか、機会があればいずれ紹介したい。