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藤井聡太銀河、2連覇まであと1勝! 杉本和陽五段に快勝で今期銀河戦も決勝進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 第31期銀河戦準決勝▲藤井聡太銀河(八冠)-△杉本和陽五段戦が放映されました。棋譜は公式ページで公開されています。

振り飛車VS居飛車、相穴熊の戦いに

 杉本五段は生粋の振り飛車党です。1回戦の豊島将之九段戦は先手で三間飛車。2回戦の渡辺和史六段戦では後手で四間飛車を採用しています。

 本局は後手番で三間飛車を選びました。

 対して藤井銀河はいつも通り、居飛車で対抗します。

 藤井銀河が振り飛車党と対戦する機会は、そう多くはありません。本棋戦で今期ここまで当たった羽生善治九段、斎藤明日斗五段、千田翔太七段とは相居飛車の戦型になっています。

 藤井銀河が今年度のタイトル戦番勝負で当たった渡辺明名人(現九段)、佐々木大地七段、永瀬拓矢王座(現九段)なども居飛車党です。

 唯一、叡王戦五番勝負で対戦した菅井竜也八段は振り飛車党。来年1月に開幕する王将戦七番勝負は、菅井八段挑戦で、振り飛車党にとっても注目のシリーズとなりそうです。

 本局は互いに穴熊に組み合う「相穴熊」の進行となりました。それは杉本五段の想定通りで、十分に研究を重ねて臨んだようです。34手目。杉本五段は飛車のいる3筋の歩を五段目に伸ばしました。

杉本「ちょっとやってみたかった手なんですけど」

 後手番ながら積極的に動こうという構想です。

 対して居飛車側はどう応じるか。かつての相穴熊では浮き飛車の構えが多かったところですが、本局、藤井銀河は飛車を1路左に寄せる袖飛車で応じました。これが現代最前線の進行のようです。

藤井聡「こちらもいろいろな指し方があったと思うんですけど。(袖飛車の)▲3八飛車は今年の叡王戦第2局(▲菅井挑戦者-△藤井叡王)でも部分的に同じ指し方をして。そのときはちょっとうまくいかなかったんですけど。今回は先後逆で(穴熊に金を寄せて固める)▲7九金の一手が入って、その分、戦っていきやすいかなというふうに思って、飛車を寄りました」

  将棋は長く指されてきた結果、統計上は先手番がわずかに有利です。さらに、おそろしく序中盤の研究が進んだ現代将棋では、先手番のアドバンテージが広がりつつあるようです。

 また序盤において、コンピュータ将棋ソフトが示す評価値、およびそれに基づく「勝率」の表示は、一般的に振り飛車側がやや低めに出ます。

 本局の解説者は、振り飛車党のカリスマ・藤井猛九段。杉本五段側にやや低めの数字が出ているのを見て、苦笑しながらこう語ります。

藤井猛「形勢、評価値が出てますね。これはね、皆さんもうご存知だと思いますけど、見なくていいです」「後手番としては全然不満なく見えますね、私的には。(44手目の段階で)全然不満ないですね。(「勝率」表示は)37パーセントですけど(苦笑)。大成功じゃないですか。後手番の展開としては、まあ十分」

 ほとんどの視聴者は、藤井九段の解説にうなずいたことでしょう。

藤井銀河、粘りを許さず

 駒がぶつかって、いよいよ本格的な戦いが始まります。杉本五段も、さすがはこの形のスペシャリスト。形勢ほぼ互角の中盤戦となりました。

 58手目。杉本五段はじっと飛車側の端歩を突きます。端に桂を跳ねる余地を作った、落ち着いた手でした。

 61手目。藤井銀河は杉本陣に打った銀を成って、飛車取りに当てます。杉本五段がもしその成銀を取れば、藤井銀河は角を取って、駒得になります。大きな勝負どころを迎えました。

 62手目。杉本五段は飛車を一つ浮いて逃げます。

藤井猛「あれ?」

 首をかしげる藤井九段。ここは杉本五段に重大な誤算がありました。代わりに端を突いた手を活かし、桂を跳ねる順が優ったか。

「勝率」の表示は藤井54パーセントから88パーセントに跳ね上がります。藤井銀河は相手のミスをまず見逃しません。角桂と銀の交換という大きな駒得を果たしながら、飛車を成り込み、一気に優位に立ちます。

 非勢に陥った杉本五段は、じっと辛抱を続けました。

「将棋は逆転のゲーム」と言われます。プロ同士の対局であっても、わるい側が辛抱を重ねているうち、逆転のチャンスが訪れる場合もしばしばあります。

 しかし藤井銀河が大差の優勢から逆転を許す例は、ほとんどありません。藤井銀河は杉本五段に粘る余地を与えず、着実に杉本陣を攻略していきます。

 最後は藤井陣の穴熊が手つかずで安泰な一方、杉本陣は収拾困難に。91手目、藤井銀河が金取りに歩を打った手を見て杉本五段が投了を告げました。

 藤井銀河はこれで決勝進出。2年連続3回目の優勝をかけ、今期ファイナルマッチに臨みます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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