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1層構造スタンドからビール醸造所まで完備。トッテナムの新スタジアムが遂にオープン

田嶋コウスケ英国在住ライター・翻訳家
新本拠地「トッテナム・ホットスパー・スタジアム」が遂に完成した(写真:ロイター/アフロ)

イングランド・プレミアリーグのトッテナムが、ロンドン北東部のホワイトハートレーンに帰ってきた。

4月3日、新本拠地「トッテナム・ホットスパー・スタジアム」で初の1軍公式戦が行われ、クリスタルパレスとのプレミアリーグ第32節に約6万人のファンが駆けつけた。記念すべき初戦は、トッテナムが韓国代表FWソン・フンミンなどの得点で2−0の勝利を収めた。リーグ戦の直近5試合は4敗1分と絶不調のトッテナムだったが、オープニングマッチを白星で飾ることができた。同クラブのダニエル・レヴィ会長が「次世代のための新スタジアム。ここを特別な場所にしたい」と頬を緩めれば、マウリシオ・ポチェッティーノ監督も「特別な夜になり気持ちが高ぶった。勝利することが大事だった」と笑顔を見せた。

トッテナムが、この日のオープニングマッチを迎えるまでには紆余曲折があった。2013年に新スタジアム計画が本格的に始まり、16−17シーズンをもって36,284人収容の旧スタジアム「ホワイトハートレーン」を閉鎖し、新スタジアムの建築に着手した。翌17−18シーズンはサッカーの聖地ウェンブリー・スタジアムを「仮の本拠地」として使用し、選手もサポーターも新スタジアムの完成を待ちわびた。

しかし、計画は予定通り進まなかった。当初は昨年9月のリバプール戦で初の公式戦を行なう予定だったが、工事の遅れにより延期。しかも、テスト段階で安全上の不備が見つかり、完成が遅れに遅れた。結局、18−19シーズンも3月までウェンブリー・スタジアムの使用を余儀なくされた。最終的に、当初の予定から7ヶ月遅れで、ようやくこけら落としにこぎつけたことになる。

それでも、待っただけの価値のある新スタジアムになった。最大収容人数は62,062人と、旧スタジアムに比べて約2倍の規模を誇る。地元ライバル・アーセナルの本拠地エミレーツ・スタジアムの60,260人を上回るように設計され、ロンドンを拠点とするクラブでは最も大きいスタジアムとなった。イングランド全体で見ても、74,994人を飲み込むオールド・トラフォード(マンチェスター・ユナイテッドの本拠地)に次ぐ、リーグ2位の収容人数を誇る。

記者席から見た「サウススタンド」(撮影・田嶋コウスケ)
記者席から見た「サウススタンド」(撮影・田嶋コウスケ)

注目は、ゴール裏の「サウススタンド」だ。通常の大型スタジアムでは1階席と2階席の2層構造になるが、このサウススタンドは下から上までひとつでつながる1層構造だ。狙いは、スタジアム全体に広がる一体感。1層構造としては、このサウススタンドは英国最大になる。

試合中、コアなサポーターが集う同スタンドから大音量のチャントが始まり、スタジアム全体にこだましていく様子は圧巻だった。収容人数が旧スタジアム時代から約2倍になり、記者席で聞こえたサポーターの声量も2倍になった印象だ。

スタンドからの眺望も工夫されている。ゴール裏スタンドとピッチの距離は、エミレーツ・スタジアムの約13メートルに対し、トッテナムの新スタジアムは約8メートル。勾配のある2〜3階席からも、ピッチ全体が気持ちよく見渡せる。四隅のコーナー上部には巨大モニターがそれぞれ設置され、リプレイも随時確認できる。スタジアム内ではクラブ提供の無料Wi-Fi が利用でき、スマートフォン時代のサポーターのニーズにも応えた。

そして、なにより驚いたのは、クラフトビール醸造施設をスタジアム内に併設していることだ。ロンドン・トッテナムの地元ブルワリー「ビーバータウン」とコラボレートし、出来たてクラフトビールをサポーターに提供するという。サッカースタジアムでは世界初の試みだ。

また、前述のサウススタンド室内には、欧州最長となる全長約65メートルの巨大バーが設置され、手際よくアルコール類を販売している。スタジアム内にはレストランやバー、売店など計65店舗が入り、スタジアム全体で1分間に1万パイント(1パイント=約568ミリリットル)のビールをサポーターに提供できるという。ビール党の多いイングランド人サポーターも、これには大満足だろう。

さらに、富裕層やビジネス利用をターゲットにした15,000ポンド(約220万円)の年間シートも発売された。この高額チケットにはミシュランシェフ、クリス・ガルバン氏経営のレストランの食事もついているそうだ。

これらのチケットや飲食物の販売などで、試合日の売上げは旧スタジアム時代の2倍強となる見通しだ。今後、新スタジアムにはネーミングライツ(命名権)の導入も進められ、さらなる収益アップにつなげる。

ポチェッティーノ監督は「世界最高峰のスタジアムだ。これから、このスタジアムに見合うだけのチームになっていくことが大事。あらゆる点において、真のビッグクラブになる必要がある」と語気を強めた。そして、サポーターにとっても、思わず足を運びたくなるような魅力的な新スタジアムが完成した。

「これから新時代を築いていく」との指揮官の言葉通り、トッテナムは未来に向けて大きな武器を手に入れた。

英国在住ライター・翻訳家

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍にあわせ、2012〜14年までは英国マンチェスター在住。ワールドサッカーダイジェスト(本誌)やスポーツナビ、Number、Goal.com、AERAdot. などでサッカーを中心に執筆と翻訳に精を出す。

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