台風が近づくと喘息発作が増える、その理由は低気圧ってホント?
低気圧は喘息を悪化させている?
台風シーズンになりました。
この時期には、「台風が近づくと喘息が悪化します。気圧のせいですよね?」というご質問をよく投げかけられます。
実はこの質問に丁寧にお答えしようとすると、結構ややこしいのです。
そこで台風と喘息の関連をみた最近の報告から、私の考えをご紹介してみたいと思います。
もともと、台風シーズンは喘息発作が多い
秋はもともと、喘息発作の多いシーズンです。
なぜ秋に喘息発作が増えるのでしょう?
秋に喘息発作が多い理由のひとつとして、「ライノウイルス」というウイルスによる「鼻かぜ」が増えることがあります (※1)。ライノウイルスは160種類以上もいるため、風邪を引くたびに発作が起こりやすくなるのですね(※2)。
(※1) J Allergy Clin Immunol 2016; 138:1467-71.e9.
(※2) Pediatr Allergy Immunol 2016; 27:682-6.
そして、秋は台風がよく来襲する季節でもあります。
ですので、台風シーズンに喘息発作が増えるという印象が強くなるといえるでしょう(※3)。
(※3) Johnston SL, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1996; 154:654-60.
秋という季節以外にも、気候の急な変動で発作が起こる可能性も
「いやいや、私は風邪を引いていなくても、喘息発作が起こりやすいですよ」とおっしゃるかたもいらっしゃいます。
たしかに、全然風邪症状がなくても、台風や暴風雨があると発作が起こりやすくなっている印象があります。
実は、理由は他にもあります。
まずは、気候の急な変化です。
ある大学病院の救急室を受診した小児の、5559回の受診を検討した報告があります。
その受診時のさまざまな気候条件との関連を検討したところ、気圧・気温・湿度が急にあがったり、風速が急に落ち着いたりしたときに受診の数が多くなっていたことが報告されています(※4)。
(※4) Pediatr Int 2004; 46:48-52.
また、喘息発作による救急受診をした成人患者25401件に関し、温度、湿度、気圧の変動の影響を検討したところ、喘息発作と気圧の変化はむしろ関係がなく、湿度や温度の大きな上昇が喘息発作と関係していたという結果でした(※5)。
(※5) Ann Allergy Asthma Immunol 2009; 103:220-4.
そして実際に、気圧や気温を変化させることのできる「人工気象室」を使用した実験を行った検討では、気圧の低下による影響は大きくなかった(むしろ気圧の上昇の方が影響する)とされています(※6)。
(※6) 日本温泉気候物理医学会雑誌 1978; 42:1-13.
よく言われる、「気圧の低下」による喘息発作への影響は大きくなく、それよりも温度・湿度の大きな変化の方が、喘息発作への影響が大きそうですね。
台風は温度・湿度を短期間に大きく変化させますので、喘息発作への影響は大きくなるといえましょう。
では、ライノウイルスと、気温や湿度の変化だけが理由なのでしょうか?
では、それ以外に理由はあるでしょうか?
成人喘息患者58人(台風時に17人が悪化)に対する報告があります。
すると、台風時に悪化した人はもともとの喘息の安定度が低く、スギ、ヒノキ、ダニに対するアレルギーを持っている場合が多かったという結果でした(※7)。
(※7) Respir Investig 2016; 54:216-9.
もともとの喘息のコントロールが不十分だったり、花粉やダニにアレルギーを持っていると発作を起こしやすくなるといえそうですね。
では、台風や豪雨の際、それらの花粉やダニなどに対して、より強くさらされる結果になるのでしょうか?
豪雨があったときに急に悪化する喘息発作があります。
その理由として、花粉が雷雨によって湿気で破裂したり地上にたたきつけられて細かくなってちらばり、気管支に吸い込まれて発作が起こるのではないかと考えられています。
これは、「雷雨喘息(Thunderstorm-asthma)」と呼ばれています(※8)。
(※8) Allergy 2007; 62:11-6.
空気中の花粉濃度と喘息発作は関連があります(※9)が、花粉は比較的粒子径が大きく、思ったほどは喘息発作の悪化原因にはなりません。
(※9) Allergy 2018; 73:1632-41.
しかし、豪雨によって花粉が細かくなって放出されることが喘息の大きな悪化原因になるわけです。
そして、台風で増えるのは細かくなった花粉だけではありません。
台風の来襲時は、空気中の真菌(カビ)が増え、カビへのアレルギーも悪化することが報告されています(※10)。実際に、真菌の濃度があがると喘息発作は悪化します(※11)。
(※10) J Environ Public Health 2017; 2017:2793820.
(※11) Environ Health Perspect 1997; 105:622-35.
台風や豪雨により、空気中のアレルギー物質が増え、喘息発作が起こりやすくなるといえるでしょう。
台風によって喘息が増える理由はさまざまあるといえます
すなわち私は、台風の季節に喘息発作が悪化する理由を、
1) 台風の季節が秋であり、もともと喘息発作のシーズンである
2) 気圧の変化よりも、むしろ温度や湿度の大きな変化により喘息発作を起こしやすい
3) 台風により空気中のアレルゲン濃度が大きく上がり、喘息発作が起こりやすくなる
といった理由があると考えています。
ですので、気圧の変化で喘息が悪化しやすいという方は、喘息がもともと不安定な方であるともいえるでしょう。
そして秋の発作シーズンに定期的に喘息の予防薬を使用すると、喘息発作のピークを下げることが出来ることがわかっています(※12)。
(※12) Am J Respir Crit Care Med 2005; 171:315-22.
ですので、秋に喘息発作が多い方は、早めに受診して医師に相談されることをお勧めします。