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ノート(146) 検察側の論告と求刑、弁護側の最終弁論の内容

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

~裁判編(20)

勾留177日目(続)

まだペーパー方式

 「では、検察官、ご意見を」

 被告人質問が終わると、裁判長が検察側にそう促した。アメリカの裁判モノ映画を見ていると、検事も弁護人もペーパーを手にせず、陪審員席に向かい、陪審員のほうを見ながら順番にお互いの意見を朗々と述べている。

 例えば、正義とは何かを深く考えさせられる名作『評決のとき』もその一つだ。2人組の白人青年が10歳の黒人少女をレイプし、瀕死の重傷を負わせて逮捕されたものの、白人至上主義の街であり、無罪放免の公算が高かった。

 憤ったのはサミュエル・L・ジャクソン演じる父親だ。裁判所で彼らを銃殺して復讐を果たすが、警護の白人警官にまで右脚切断の重傷を負わせてしまう。黒人の白人殺しは有罪だと死刑。裁判官や陪審員は白人ばかり。判決やいかに…という物語だ。

 ケヴィン・スペイシー演じる検事は州知事の椅子を狙う野心家で、論告では凶器の自動小銃を手にしつつ、被告人の父親を名指ししながら、陪審員に「有罪です!有罪です!有罪です!」と三度叫ぶ。

 一方、マシュー・マコノヒー演じる弁護士も、最終弁論では自らの内側から湧き出てきた言葉で切々と語りかけ、陪審員の胸を打った。

 2009年5月にわが国で裁判員制度が始まる前は、検察側も弁護側もあらかじめ用意していたペーパーを小声かつ早口で淡々と読み上げるという場面が多かった。

 その後、裁判員制度が浸透するにつれ、お互いの主張を分かりやすく、噛み砕いて説明する必要性が高まったことから、次第に口頭でのやり取りが中心となっていった。

 ただ、僕の裁判は2011年3月のことであり、そこまでには至っていなかったことから、論告も弁論も検察側と弁護側がそれぞれペーパーを読み上げるといった、従来どおりの方式で行われた。

 傍聴席が埋まるなど社会的に注目されている裁判であり、かなり大きな声で、ゆっくりと読むという配慮はしていた。

被告人には配布なし

 まず検察側は、必要な人数分だけ準備してきた論告要旨を「廷吏」と呼ばれる裁判所職員に手渡した。次いで、廷吏が裁判官や書記官、弁護人らに検察側の論告要旨を配布した。

 その瞬間、法廷内に「バサッ」という音がし、彼らは一斉に同じ行動に出た。最終ページに書かれている具体的な求刑を見ることだった。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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