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毎年1000万円前後の儲けも PTA巡る保険事業が「まるで打ち出の小槌」と言いたい理由

大塚玲子ライター
某県P連では、事務手数料と広告料で毎年1000万円前後の儲けが出ていたという(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 今年6月、神戸市PTA協議会が数千万円の余剰金を各校の備品購入にあてようとした問題を取り上げました。この案は結局見送られたそうですが、そもそもなぜこんな大金を、PTAのネットワーク組織であるP連が貯め込んでいるのかと驚いた人も多いでしょう。

 それはズバリ、保険・共済事業(以下、略して「保険事業」)で収益をあげているからです。神戸市のP連と同様に、保険事業の儲けで多額の余剰金を蓄えるP連は、実は全国に少なからずあります。(*1)

 P連の保険事業は、なぜ儲かるのか? という説明に入る前に、まずは基本的な仕組みを解説しておきます。

 P連の保険事業は、大きく分けて2種類あります。ひとつはPTA活動中の事故等を補償する保険(以下「PTA活動中の保険」)、もうひとつはPTA活動とは直接関係なく24時間補償する、一般的な傷害や賠償がセットされた保険(同「24時間総合保障」)です。

 前者はPTAが補償責任を果たすため契約するもので、後者は基本的に、希望する保護者が任意で加入するものです(P連が団体契約、被保険者は児童・生徒)。

 P連は市区町村ごとや、都道府県ごとにつくられていますが、保険事業を手がけているのは主に、都道府県や政令市のP連です(下図参照)。これらのP連はしばしば「安全会」(「安全互助会」「安全振興会」など名称はそれぞれ異なる)など名目上の別団体をつくり(ただし役員はP連と兼任が多い)、保険事業を行っています。

 よくあるのは「PTA活動中の保険」を安全会で扱い、「24時間総合保障」はP連本体で扱うケースです。(*2)

保険事業を扱うのは主に都道府県と政令市のP連だ(画像制作:Yahoo!ニュース)
保険事業を扱うのは主に都道府県と政令市のP連だ(画像制作:Yahoo!ニュース)

*手数料・広告料は実質キックバック

 さて、ではP連は保険事業で、どのように収益をあげているのでしょうか? P連の実態に詳しい、「PTA適正化実行委員会」代表の井上哲也さんに話を聞きました。井上さんは10年以上、PTAやP連の適正化をめざして活動し、大津市教育委員会に「学校園管理者のためのPTA運営の手引き」(*3)の作成を働きかけた、陰の立役者でもあります。

 井上さんは、このように説明します。

 「たとえば、某県P連を例にとってお話しすると、『PTA活動中の保険』は安全会で、『24時間総合保障』はP連で扱い、それぞれ保険会社と契約しています。

 まず、安全会で扱う『PTA活動中の保険』でどんな収入があるかというと、各PTAから会費に含めて集める実質的な手数料(1会員あたり10円を保険料に上乗せし、会費として徴収)と、代理店から入る広告料と手数料があります。

 安全会は、PTAと代理店から(実質的な)手数料を取っていますが、実際のところ、この事業に関して実務はほとんど発生していません。一番手間がかかるのは、世帯数のカウント(幼稚園~中学校までの子どもを1世帯としてカウントする)ですが、これには兄弟姉妹がわかる学校の調査票(各家庭の児童生徒などの個人情報)が不可欠で、学校の教職員等が行っています。(*4)

 また広告料も代理店・保険会社から支払われていますが、『PTA活動中の保険』はPTAが契約する保険なので、本来広告は不要です。ですから、これは広告料という名目のキックバックといっていいでしょう。このような仕組みで、安全会はこれといった実務を行わずに、毎年多額の収益を得ているのです。

 なお、この県P連では数年前、ある市P連が『これほど余剰金が出ているのに、PTAから実質的な手数料(会費のうち保険料に上乗せした10円)を取るのはおかしい』と言って安全会を脱退したことを受け、その後、上乗せをやめました」

 なるほど、仕組みが見えてきました。では、もうひとつの保険「24時間総合保障」のほうは、どうでしょうか。

 「これも同様の仕組みです。P連が得る収入は、保険代理店から受け取る手数料(任意で申し込まれた保険料総額の5%)と、代理店・保険会社から受け取る広告料があります。

 手数料を取っていますが、こちらもやはり、P連ではほぼ何もしていません。パンフレットや申込用紙を配付するのは学校で公務中の先生たちですし、申し込みや問い合わせは、直接代理店に行きます。かかる経費は、せいぜいパンフレットの印刷代・配送費くらいでしょう。代理店が学校に直接パンフレットを送りますから、P連では配送の手間もかかっていません。

 広告料に関しては、こちらはいちおう任意で入る保険なので、広報誌やホームページに広告を出す意味は多少あるにせよ、それにしても額が非常に大きい。これも実質、キックバックといえます」 

 つまり、「PTA活動中の保険」も「24時間総合保障」も、実務はほとんどないため、収入のほとんどがP連(安全会含む)の利益、儲けになるのです。まるで打ち出の小槌のよう。某県P連の場合、これらの保険事業の事務手数料と広告料で、毎年1000万円前後の儲けが出ていたといいます。

 以前、筆者が知るあるビジネススクールの教授は、P連の保険事業について「これ考えついた奴、マジ天才」と話していたものですが、改めてその意味がわかります。(*5)

*なかには保険の抱き合わせ強制加入まで

 もちろん、保険事業はP連が儲けるためだけに行われているわけではありません。「PTA活動中の保険」はPTAの責任者や活動にかかわる人を守る目的があり、「24時間総合保障」もP連が団体契約することで、同程度の補償内容の一般の保険に比べ、掛け金がかなり割安になるので、加入者にもメリットはあります。

 ただし、問題点もあります。「24時間総合保障」のパンフレットや申込書は学校から配付されるため、「全員入らなければいけないもの」と思い込んで申し込む保護者もいます。さらに、各家庭で契約している他の保険と内容がかぶっていて、本当は入らなくていいのに、気付かずに申し込んでいるケースもよくあります。

 また、保護者がPTAを退会しようとするとき、役員さんから「PTAの保険に入れなくなる」と言って引き止められるケースもよく聞きます。しかし、もともと「PTA活動中の保険」はPTAが加入するものです(*6)。「24時間総合保障」も、PTAが扱い、且つ学校内でパンフレットが配布される以上、すべての子どもが入れるようにしなければ筋が通りません。

 なお最近は、保険会社に直接問い合わせると「PTA非会員家庭の子どもも被保険者として申込OK」と言われるケースが増えています(AIG損保や東京海上日動)。もしPTAをやめる際に、「保険に入れなくなる」と言われ、且つ保険(24時間総合保障)に入りたいのであれば、まずは一度、保険会社に確認してみるといいでしょう。

 前出の井上さんは、P連の保険事業について、以下のような問題を指摘します。

 「一番の問題は、こういった仕組みや会計が『ちゃんと公開されていない』という点だと思います。多くのP連は、保険・共済事業の仕組みや儲けの使途を、保険料等を負担する会員や保険加入者に対し、ほとんど明らかにしていないので、その仕組みが適切なものなのか、儲けが適切に使われているかどうか、判断することができません。説明が足りないために、本当は入らなくていい保険(24時間総合保障)に入っている家庭があることも問題です。

 また、地域や学校によっては、PTAへの加入と24時間総合保障の申し込みを抱き合わせにして、掛け金を強制徴収しているケースがありますが、これも非常に問題です。東北地方のP連や、高校のP連などで、こういったやり方をよく見かけますが、保険は不要という家庭もありますから、抱き合わせはすべきでないでしょう。

 それから、PTAやP連が(より広域の)P連を抜けようとすると、『保険に入れなくなる』と言って引き止められるケースもよくありますが、これも問題でしょう。

 そもそも『PTA活動中の保険』は、P連を通さず各PTAで直接契約しても、掛け金はあまり変わりませんから、もし『入れなくなる』と言われても、気にする必要はありません。

 問題は『24時間総合保障』のほうです。同等の補償内容の保険を個人で申し込むと、P連を通して契約するより掛け金がだいぶ高くなるので、これに入れなくなるというと、既にこの保険に加入している一部の会員に配慮し、退会をあきらめるPTAやP連も出てきます。(*7)

 ただ、そもそもP連が、PTA活動とは直接関係のない民間の団体保険の斡旋をしていることが、おかしいのです。スケールメリットを維持するために、『保険に入れなくなる』と言ってP連を抜けさせないようにするのは、誠実なやり方とは思えません。

 保護者が個人で会員になって申し込める、民間の団体保険もあるので(例/一般財団法人 全国学生保障援助会)、団体割引のある保険加入を希望する会員には、そういったものを紹介するのもひとつの方法です」

*儲けは広域P連の大会費用や学校寄付等に

 さて、次に気になるのが、P連はこういった保険事業で儲けたお金を、一体何に使っているのか、ということです。冒頭にもあげた神戸市PTA協議会(以下「神戸市P協」)は、多額の余剰金で学校に寄付する体温計を購入しようとしましたが、そもそも余剰金になるのは儲けの一部です。残りのお金は、何に使われているのでしょうか。

 実は、都道府県や政令市のP連の支出のうち、大きな割合を占めるのが、より広域のP連の活動に関する費用です。日本PTA全国協議会(以下「日P」)や地方ブロックP連に納める分担金や、全国大会、ブロック大会等の開催費、交通宿泊費等に多額のお金を出しているのです(政令市の場合はさらに、政令市P連の全国大会もある)。

 下の図は、神戸市議会議員の岡田ゆうじ氏が、神戸市P協と安全振興会(同「安振会」)の決算書をもとにまとめた「お金の流れ」です。

神戸市議会議員・岡田ゆうじ氏作成
神戸市議会議員・岡田ゆうじ氏作成

 神戸市P協と安振会は保険事業で、保険代理店から広告料・手数料約800万円(図中央)を得ているほか、保護者等の会員から徴収する実質的な手数料(会費に含まれる)を得ています。

 岡田議員はこうした収入が、より広域のP連(日P、近畿ブロックP連、政令市P連)の活動に多く使われていることを、6月の議会(文教こども委員会)で指摘しました。

 「私が入手した過去数年間の決算書を見ると、神戸市P協と安振会は、日P等の分担金や、それらのP連が開催する大会の参加費・旅費・積立金などに、毎年少なくとも計300~400万円をあてていました。

 余剰金も毎年計200~300万円ほど生じ、その結果、昨年5月の時点で、神戸市P協と安振会には計約8000万円のプール金が貯まっていました。神戸市P協・安振会の事務局長(兼任)は、このプール金の一部を体温計の購入にあてようとしたのです」(岡田議員)

 筆者は昨年、PTAの全国大会に莫大な費用が投入されていることを取り上げましたが(*7)、そういった費用には、都道府県や政令市のP連が保険事業で得た利益が多く投じられていたのです。(*8)

*P連の保険事業は妥当か

 PTAのネットワーク組織であるP連が、保険事業によって多額の利益を得て、数千万円という単位の余剰金を学校に寄付することや、日PやブロックP連が強制動員を前提に開催する大会の費用にあてることは、果たして妥当なことなのでしょうか。

 いや、間違っている。保険事業自体を見直すべきだ。そう指摘する人も現れています。

 さいたま市立浦和別所小PTA会長の澤口博さんは、さいたま市PTA協議会が各PTAに対し「児童・生徒ワイド補償制度」(24時間総合保障)の宣伝を強く求めてくることや、支出に不明点が多いことなどに疑問を感じ、数年前から異議を唱えてきました。しかし、P連のなかでも保険事業の実情を知る人は非常に少なく、問題意識が共有されるには至らなかったということです。

 P連の保険事業は20年以上前から存在していますが、一般にはほぼ知られてきませんでした。いま現在、保険事業で多額の利益を得ているP連は皆、この辺りで一度、保険事業のやり方や妥当性を見直す必要があるのではないでしょうか。

 まずは、いま現在どんな形で保険事業を展開しており、これによってどんな形で、いくらの儲けが生じ、そのお金を何に使っているのかということを、P連にかかわるすべての保護者、教職員に、きちんと説明する必要があるはずです。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』『ルポ 定形外家族』『さよなら、理不尽PTA!』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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