保護者から集めた事業収益は4000万円超え 謎多き「PTA全国研究大会」で取材拒否
「PTA全国研究大会」というものを聞いたことがあるだろうか。公立小中学校のPTA役員等が参加する研修会のようなものだが、開催地の役員たちの負担はかなり大きく、予算の使途には不明な点が多い。主催の日本PTA全国協議会には、取材を拒否された。関係者への聞き取り等から明らかになったことを伝える。
*参加チケットはP連が買い上げる
PTA全国研究大会、以下略して「全国大会」が、この夏も開催されました。毎年8月下旬に行われる巨大イベントで、参加数はおよそ8,400人。公立小中学校のPTA役員等が参加する研修会のようなもので、開催地となる都道府県は毎年替わります(*1)。
今年は8月23・24日(金・土)の2日間、兵庫県で行われました(*2)。
参加チケットの値段は1枚5千円。全国大会を主催する公益社団法人日本PTA全国協議会(以下略して“日P”)の2019年度収支予算書によると、事業収益は約4,400万円とあるので、予定参加数を上回る8,800枚近くを売る計算になります。
このほかにも広告料や補助金として計1,100万円が計上され、さらに日Pの予算からも1,500万円ほど補填投入されているため、全国大会の支出総額は約7,000万円にものぼります(*3)。
「そもそも、PTAの研修会のチケットがそんなにたくさん売れるの?」と思われるかもしれませんが、心配は要りません。大会事務局、すなわち開催地の都道府県P連が、主に近隣のP連(自治体ごとにつくられるPTAのネットワーク組織)に対し、「〇名参加してほしい」と参加要請(割り当て)を行い、各P連が人数分のチケットを買い取る仕組みだからです(*4)。
このとき支払われるP連のお金というのは、各PTAが納めた分担金です。つまり全国大会の大半の部分は、我々一般会員が納めたPTA会費によって開催されているわけです。
近隣のP連は、たくさんのチケットを買い上げるのに数十万円という多額の費用が必要になるため、なかにはこれを見越して、数年前から繰越金を貯めて備える、といったところもあります。
実際に全国大会に参加するのは、主にPTAの役員たちです(*5)。各P連は、それぞれの単位PTA(P連に入っているPTA)に対し、「〇名参加してほしい」と要請して、大会事務局から買い取ったチケットを単P→参加者に渡す、という流れです。
参加チケットの割り当ては、開催地の近辺が特に多く、1校当たり3~5人程度のところが多く見られました(*6)。交通費もP連が負担することが多いですが(遠方の場合は宿泊費も)、単位PTAや個人が一部を負担するケースなどもありました。
*役員たちの莫大な労力負担
開催年にあたってしまった、現地のP連やPTA役員たちの労力負担も、半端ないレベルです。
全国大会は、1日目に県内10会場で分科会が、2日目にまた別の1会場で全大会が行われるのですが、特に開催当日や前日はそれぞれの会場において、設営や受付、案内等々のため、数十~数百人の「お手伝いスタッフ」が動員されます。もちろん無償です。
このお手伝いをやるのも、主に各PTAの役員たちです。参加チケットと同様に、各PTAに「お手伝いを〇名お願いします」と参加要請(割り当て)がおりてくるのです。
「自分のPTAのことや、直接子どもたちのためになるようなことをしたいのに、P連の研修会に時間や労力をとられて困っている」。こういった役員さんたちの悩みは、これまでの取材のなかでもさんざん聞いてきました。全国大会に限らず、地方ごとのブロック大会や都道府県大会等でも、同様の割り当てが行われているのです。
今回の全国大会についても、兵庫県に住む人たちから、筆者のもとに悩みの声が寄せられていました。「子どもの夏休みの最後の週末なのに、朝7時から集合しろって。こんな早くから、下の子をどこに預ければいいの?」等々。
もちろん、保護者たちが講演などを聞いて、子どもたちや学校を取り巻く諸問題について学ぶのは、いいことではあるでしょう。参加した人からは「ためになる話を聞けたのでよかった」という声も聞かれます(逆の感想もありますが)。
また遠方からやって来るPTA役員さんたちのなかには、ふだんなかなか一人で羽を伸ばせる機会がなく、全国大会を口実に家から出られるのをたのしみにしている人もいると聞きます。交通・宿泊費はP連から出るので、「PTA役員という大変な仕事を引き受けているご褒美旅行」と捉えているのでしょう。
とはいえ、ここまで莫大なお金と無償労働を投入してまで、行うべきことなのか。
全国大会の運営に携わったある男性は、「準備を通して他校の仲間と知り合えたのはよかったけれど、それなら全国規模でやらなくても、市内の開催で十分です。一般のPTA会員は全く知らない世界ですし、現場との乖離が激しいですよね」と話します。
いまの時代、情報や学べる場はリアルにもネット上にもいくらでもありますし、講演会場まで直接足を運ばせなくても、オンラインで遠方から視聴できるようにすることだって十分可能なはずです。
それにそもそも、PTA役員を経験したことがない一般保護者のほとんどは、「PTA全国大会」の存在すら知りません。割れば少額の負担だとはいえ、それでも各PTA会員から集めた莫大なお金で開催される大会が、一般会員に知らされることもないというのは、首をひねらざるを得ないところです。
実際に全国大会の様子をこの目で見れば、これだけのお金や労力を投じる意味が、もしかしたら多少はわかるだろうか? かすかな望みを抱き、大会初日の8月23日、東京から新幹線に乗り、兵庫県内のある分科会会場に足を運びました。
しかし、なぜか取材は断られてしまいました。事務局には前月から取材希望の旨を伝えてあったのに、会場の受付に行くと日Pの担当者が出てきて「兵庫県政、または神戸市政記者クラブ所属の媒体しか取材はできない」と言われ、会場には入れてもらえなかったのでした。
*使途内訳が公開されていない
なお、全国大会について最も疑問を感じていたのは、お金のことでした。冒頭にも書いた通り、今大会には7,000万円という巨額が投じられているのですが、内容を見る限り、そこまでお金がかかるものとは到底思えません。
一体、何にいくらのお金が使われているのか? 具体的な内訳を知りたいと思い、東京に戻ってから改めて日Pに対し、「全国大会のお金のことについて取材させてほしい」と申し込んだのですが、これも拒否されてしまいました。
そのため、ここからは複数の関係者から寄せられた情報を元に、ある程度話をぼかして書かざるを得ないことを承知おきください。
一部の部門の収支予算書を入手できたのですが、用途や金額を見ていくと、「これは本当なのか?」と思うものが多々あります。
会場名は公開されているので、利用料は調べればおおよそのところは見当がつくのですが、設備をフルに使ったとしても40万程度のはずが、倍を上回る90万という金額だったり(数字はぼかしてあります)、登壇者への謝礼も、相場の3倍を上回るような額が記されていたり。
県内各所で見かけた「兵庫大会」とプリントされた立派な幟(のぼり)にも相当の費用がかかっていました。もともと意外と高いものではありますが、それにしても金額が張り過ぎて、一度しか使わないのに大変もったいないと感じられました。
全般に「お金がこんなについてしまったので、消化しなければ」という発想で予算が組まれている印象もあり、「このお金を、子どもたちのために直接役立つことに使えたら……」と、考えてしまいます。
現状、全国大会の収支内訳で、オープンにされているものは見当たりません。9年前の全国大会では、実行委員による1,700万円もの横領事件が起き、表に出るまで3年ほどかかりましたが、まったく不思議はないと感じます(*7)。
もしその後も横領が起きていたとしても、6、7桁以下の金額であれば、まず表には出ないでしょう。
今回筆者が入手できた資料から推測できるお金の使いみちは、全体からすればごくわずかです。莫大なお金がどこに消えているのか? 疑問がふくらみます。
全国大会についての情報を引き続き募集しています。過去に全国大会にかかわったことがある方は、こちらからご協力いただけると幸いです。
- *1 参加数は公益社団法人日本PTA全国協議会「2019年度事業計画」より。また、高校のPTAは、小中学校のPTAとは別に全国大会を行っています。今年度は京都で行われました
- *2 正式名称は「第67回 日本PTA全国研究大会 兵庫大会」
- *3 日Pの予算も元は我々が払ったPTA会費です。収支予算書には事業費合計が約7,700万円とありますが、うち650万円はブロック研究大会費なので、これを除外すると約7,000万円になります。日Pの事業計画や収支予算書などは、公益法人への閲覧請求で入手が可能です
- *4 今回は主に近畿ブロック内のP連に参加要請が行われ、その他の地域のP連に対しては、もう少しゆるい要請だったようです
- *5 PTAによっては役員ではない会員(動員を引き受ける専門委員など)が参加する場合もあります。また過去には一般会員が「参加したい」と申し出たのに「役員しか行けない」と断られたという話や、逆に一般会員にも知らせたもののなかなか応募がなかった、といった話も聞いています
- *6 大会事務局からの参加要請をスルーし、希望者のみを参加させたP連もあるようです。正しい対応だと思います
- *7 千葉県PTA連絡協議会発プレスリリース
- *番外 日Pの今年度の会長・佐藤秀行氏は2日目の全大会の挨拶で、「全国のPTAにおける入会意思確認の状況を調査する」ことに言及したそうです。これまで日Pは「PTAは既に任意加入でやっている」という、現実とかけ離れた認識を貫いてきたことを考えると、大きな前進です。また1日目のある分科会では、PTAの非加入問題や改革についてふれる祝辞もあったということです