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自称「ブラック侍」のベネズエラン、ホリエモン新球団・西岡剛監督からの言葉

阿佐智ベースボールジャーナリスト
今シーズンはBCリーグ・茨城を監督として率いたジョニー・セリズ氏

「そりゃもう、エンジョイベースボールね」。地球の裏側から届く電話口の声は相変わらず明るかった。ジョニー・セリス氏は、来日して10年。今シーズン、独立リーグ初のベネズエラ人監督としてルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツを率い、球団創設以来勝率1割台という低迷を続けてきたチームを勝率3割台まで押し上げたが、結果は例年のごとく地区最下位。たった1シーズンで退任となったので心配していたが、「それは元から1年契約だったから」と、結果すべてのプロ野球の世界に生きる者として気にする風もなかった。すでに彼の気持ちは新たな行先であるヤマエ久野九州アジアリーグの新球団、福岡北九州フェニックスに向いている。彼の来年の活躍の場は、何かと独立リーグ界の話題をかっさらう「ホリエモン球団」だ。

漢字も分かる!「侍」になったベネズエラン

 彼とはもう数年来の付き合いだが、会話はすべて日本語で行っている。メールのやりとりも全く問題ない。漢字交じりの文章が返ってくるのもしばしばだ。自らの褐色の肌から「ブラック侍」を自称するが、フィールドで話していると、彼が外国人であることなどすっかり忘れてしまう。

 ホワイトソックスにスカウトされ、母国のアカデミーでプロデビュー。アメリカへ渡ったものの、マイナー生活が続き、「メジャー」への望みをかけて関西独立リーグ(初代)の神戸サンズに入団したのは2012年のことだった。その望みは、独立リーグとの交流戦の人数が足りないからと、「アルバイト」として呼ばれたDeNAで叶えられるのかと思ったが、ベイスターズのユニフォームを着たのはこの練習試合のみ。結局アルバイトはアルバイトでしかなく、NPB球団との契約はならなかった。それでも、ジョニーの打力に注目したBCリーグの富山サンダーバーズにスカウトされ、ここから彼のBCリーグとの長い付き合いが始まる。

BCリーグではながらく主砲として活躍した。(福井ミラクルエレフェンツ時代)
BCリーグではながらく主砲として活躍した。(福井ミラクルエレフェンツ時代)

 BCリーグ1年目は、アメリカ志向のベネズエラとは違った日本の投手の攻めに戸惑い、数字を残せなかったが、福井ミラクルエレファンツで迎えた2年目から徐々に成績を上げ、リーグを代表する助っ人スラッガーに成長してゆく。人の入れ替わりがNPB以上に激しい独立リーグで8シーズンもプレーを続けることができたのは、プレー以上に日本になじんだことが大きかった。

ペラペラの日本語が結んだメジャーリーガーとの縁

 日本語をあやつり、選手だけでなくファンにも気さくに接したそのキャラクターは、引退後も役に立った。来日後、次第に日本の野球に慣れ、2017年にはBCリーグで打点王に輝くが、結局、ジャパニーズドリームは叶えることなく2019年に群馬ダイヤモンドペガサスで打率.316、13本塁打、67打点の数字を残して引退を決めた。総試合数がNPBの半分ということを考えると、主砲として十分な働きをし、当時32歳という年齢を考えると、まだまだプレーできたが、日本で妻を娶り、生活をしていくことを考えた時、そろそろ次のステップに進まねばならないことを悟った。

BCリーグでは、富山、福井、滋賀、群馬の4チームでプレーした。
BCリーグでは、富山、福井、滋賀、群馬の4チームでプレーした。

 北海道日本ハムファイターズの通訳の仕事を得、1シーズンラテン系選手の世話を見てきたが、この職も、その年限りで退任し、この春には、茨城アストロプラネッツの監督を引き受けることにした。残念ながら、この仕事からも1シーズンで退くことになったが、そこに西岡剛からの声がかかったのだ。「一緒に九州行かない?」

プレーイングマネージャーを助ける名参謀への期待

現在はベネズエラでスカウティングに携わっている。隣は今シーズン、BCリーグ茨城でプレーしたラモン・カブレラ(本人提供)
現在はベネズエラでスカウティングに携わっている。隣は今シーズン、BCリーグ茨城でプレーしたラモン・カブレラ(本人提供)

 千葉ロッテでスピードスターの名をほしいままにし、2011年から2年間はメジャーにも挑戦した西岡は、2013年に阪神で日本球界復帰。その後、2019年にはBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスに活躍の場を移すが、ここでジョニーと出会った。

「僕は、現役最後の年、ファーストを守っていたんだけど、試合中にヒットを打った西岡さんと話をしていたんだよ。ナイスバッティング、って」

 試合中の何気ないやりとりが西岡の印象に残っていたのだろう。北九州フェニックスから、監督就任の打診があり、まずはトライアウトを見てみようとなった時に、西岡はジョニーに声をかけた。そして、選手兼任の上での監督就任を決意すると、真っ先にジョニーに声をかけた。

「ヘッドコーチとして、アドバイスを頼む」

 ジョニーはふたつ返事でこれを引き受けることにした。

 まだ34歳。監督と同じく現役復帰はどうだと話を向けると、数年前よりずいぶん大きくなったおなかをさすりながら、「それはもういいよ」とやんわりと否定する。

「西岡さんとは野球に対する考え方が同じなんでね。きっといいチームができると思うよ。僕は、ベネズエラ、アメリカ、日本でプレーしてきた。その中で吸収した日本のいいところ、海外のいいところをバランスよく生かしたいね。それはメジャーでもプレーした西岡新監督も同じ。それにやっぱり野球は楽しまなくっちゃ」

「まだ(オーナーの)堀江さんには会ったことはないんだけど」と笑うジョニーは、現在、故郷ベネズエラでつかの間のオフを家族と満喫しつつ、「助っ人」のスカウティングに奔走している。

 まだまだ現役選手としてプレーするつもりの新監督にとって、日本の独立リーグで指揮をとった経験のある彼の存在は頼もしいものになるに違いない。

(断りのない写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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