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流血必至。2018年11月、極悪スカム・パンク王アンチシーンが初来日

山崎智之音楽ライター
Antiseen / courtesy of Vinyl Junkie Rec.

極悪スカム・パンク&ロックンロール王の異名を取るアンチシーンが2018年11月、初来日公演を行う。

“いかなる音楽シーンにも所属しない”というメッセージを込めたバンド名で1983年に結成されたアンチシーンは、35年にわたってアンダーグラウンド・シーンを蹂躙してきた。ヴォーカリストのジェフ・クレイトンを中心に100枚以上のLP、CD、シングル、DVDを発表、世界をツアーしてきた彼らだが、遂に日本上陸が実現することになった。

どんな言い訳も懺悔も受け付けないパンク&ロックンロールで爆走、流血も辞さないステージ・パフォーマンスは、カリスマ的な支持を得てきた。ひたすら激しく、汚く、やかましいサウンドには、エモな要素の入り込む隙などない。

これまで未来日だったとはいえ、アンチシーンと日本の遺恨は浅からぬものがあった。彼らは1995年に日本の『1+2 Records』からシングルを発表、“公式”日本名である“暗血死陰”がジャケットに使われている。また、2003年にはジャパン・オンリーのベスト盤『ザ・グレイト・ポーゴ・ヒッツ』も発売された。どちらも日本で人気があったというよりも、レコード会社担当氏のご乱心に近いものがあったが、聴く者を暴走させるマジックが、アンチシーンの音楽にはあるのだ。今回の来日にしても、ビジネス的な打算ではなく本能的な衝動に突き動かされたという部分が大きいだろう。

Antiseen / courtesy of Vinyl Junkie Recordings
Antiseen / courtesy of Vinyl Junkie Recordings

ステージ上の脱糞行為で悪名高いG.G.アリンのバックを務めるなど、話題性も多いアンチシーンだが、彼らのキャリアを通じてよく知られているのは、そのプヲタ(=プロレス・オタク)ぶりだ。かつてNWA(全米レスリング連盟)の本拠地だったノースカロライナ州シャーロットで結成されたという事情もあるのか、しばしばプロレスを題材とした曲を発表してきた。

「Funk U」でテリー・ファンク 、「Cactus Jack」でカクタス・ジャック(ミック・フォーリー)、「Sabu」でサブゥーを歌うなど、往年のECW系ハードコア/デスマッチ・レスラーが取り上げられていることから、彼らの好むプロレスのスタイルが伝わってくる。興味深いのは、アンチシーン屈指の名曲といわれる「Funk U」ではテリーを “King of extreme, blood on the mat”と讃えていることだ。日本ではNWA世界ヘビー級王者の正統派レスラーとして語られることの多いテリーだが、アメリカではハードコアの生ける伝説と呼ばれている。とはいえ、蔵前国技館でアブドラ・ザ・ブッチャーにフォークで刺されて大流血するなど、彼は実際にはどこの国でもブレがないファイト・スタイルを貫いていた。

アンチシーンは日本のハードコア・プロレスにも傾倒しており、有刺鉄線電流爆破デスマッチをテーマにした「Exploding Barbed Wire Death Match」という曲も発表していた。また、ベスト盤『ザ・グレイト・ポーゴ・ヒッツ』とSTUPID BABIES GO MADとのスプリットEPのジャケットには日本の“デスマッチの帝王”ミスター・ポーゴが登場している。

彼らの盟友であり、ジョイント・ツアーやスプリット・シングル発表も行っているZEKE(ジーク)のブラインド・マーキー・フェルチストーンも「あいつらがプロレスの話をしているときに割って入るなんて不可能だ!」と嘆くほどのプヲタぶりが、日本のステージでも発揮されるだろう。

日本公演で彼らを迎え撃つのは、流血ブリザードとSHOOTMASTERだ。11月16日(金)池袋手刀・17日(土)新宿アンチノックでのライヴでは極悪バンド三つ巴の死闘が繰り広げられることになる。

またアンチシーンと流血ブリザードは11月18日(日)新木場1stリングで開催されるGENOCIDE FEST 2018への参戦も決定。リッキーフジやウルトラマンロビン、藤田ミノル、カラテバラモンらのプロレス試合との対決はただでは済まないことが確実だ。

なおライヴ会場ではアンチシーンと流血ブリザードのスプリットCD『KING OF SCUM WORLD CHAMPIONSHIP EP』も発売される。

アンチシーンの35年の軌跡は決して順風満帆ではなかった。彼らのレコードやCDがメインストリーム市場でヒットしたことは一度たりともないし、2014年にはギタリストのジョー・ヤングが54歳の若さで、心不全で亡くなっている。だが彼らはタオルを投げ込むことをせず、遂に日本へと史上最大の道場破りをかけることになったのだ。

血を見ずには終わらない。アンチシーンの初来日公演は、控えめに言って必見だ。

ANTISEEN来日ポスター courtesy of Vinyl Junkie Recordings
ANTISEEN来日ポスター courtesy of Vinyl Junkie Recordings

【流血ブリザード presents 『激突!スカム王世界一決定戦!』】

ANTISEEN / 流血ブリザード / SHOOTMASTER

2018年

11月16日(金)池袋手刀

17日(土)新宿アンチノック

18日(日)新木場1stリング GENOCIDE FEST 2018

日本公演特設サイト

https://vinyljunkie.zaiko.io/

日本公演公式告知動画

https://twitter.com/vinyljunkierec/status/1054943572787691520

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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