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通い介護に疲れた。親から「親の介護は子の義務だ」と言われ、怒鳴り合いの修羅場

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
イメージ画像(提供:イメージマート)

 大好きな親はもちろん、たとえ厄介な親であったとしても、できるだけ穏やかに老後を送ってほしいと思うのは多くの子の偽りない気持ちだと思います。では、後者の親に介護が必要となったら、子として、どう対応すればよいのでしょう。

父親へのわだかまりは消えない

 トモさん(50代・東京)の父親(79歳)は中部地方の実家で暮らしています。母親が病気で亡くなって以降、1人暮らしを続けています。現役時代の父親は、自分勝手で、いわゆる愛人をつくっていました。そのくせ母親に対し、横暴ともとれる態度で、「理不尽だ」とトモさんは思っていたそうです。

「父は外面は良くて、世間的には有能だったのだと思います。だから、私も、私立の大学を卒業していますし、恩がないわけじゃない。父のことを否定しきれない」とトモさん。

 一方で、母親が60歳そこそこで亡くなったのは、「父親のせいだ」との思いも消えません。「両親を見て育ったせいか、私は結婚願望がないんです」。

 トモさんは父親に介護が必要になってからは、月に1回、帰省を続けています。「私は単身ですし、自分の老後もあるので、まさか仕事は辞められません。でも、1人っ子なので、父を放っておくこともできないんで、定期的に帰っています。あっ、でも、泊まらないの。日帰り」。

アリバイ帰省を見透かされ 

 父親はトモさんが月に1回、日帰りで帰省することが気に食わないようで、「泊まっていけ」と度々言うそうです。

「でも、どんなに気持ちを奮い立てても、泊まる気持ちにはなれないんです」とトモさん。泊まると、向き合う時間は長くなり、お互いに要らぬことを言い傷つき合うことが目に見えるから……。

 しかし、ある日、トモさんが帰省すると、父親は「明日、どうしても母さんの墓参りに行きたいんだ。連れて行ってほしい。たまには泊まれ。ヘルパーの田中さんも『娘さんが、もうちょっとゆっくりしていってくれるといいですね』と言っていたぞ」と言いました。

 ホームヘルパーが、そんなことを言わないことは分かっていました。しかし、その日は悪天で墓参りは難しかったため、仕方なくトモさんは1泊することにしたのです。

久しぶりに向き合い怒鳴り合い

 トモさんが泊まることになり、父親は寿司の出前をとり、「少しだけだ」と熱燗を飲み始めました。

「飲み始めて、間もなくでした。父は『分かっているのか。親の介護をするのは、おまえの義務なんだ』と大きな声を出し始めました」。

 グダグダが続き、トモさんは腹が立ち、とうとう言い返しました。「あんな早くお母さんが死んだのは、お父さんのせいなのに、何を言ってるの」と。

 怒鳴り合いとなり、トモさんは泊まることをやめて、実家を後にしました。

親への「介護義務」はない 

 法律上、「介護義務」という言葉はありません。とはいえ、子どもには親に対し「扶養義務」があります。この言葉を「介護義務」と捉えている人は多いようです。

 もちろん、親が弱っているのに、見て見ぬ振りをして放置したり、何のサービスも利用させなかったりすれば、保護責任者遺棄に問われるでしょう。

 けれども、「扶養義務」に関して言えば、そもそも身体的な介護ではなく、主に経済面での支援を指しています。

 しかも、未成年の子を監護教育する義務と違い、親に対しては「自分たちの生活を維持したうえで、かつ親の面倒をみるだけのゆとりがある場合に生じる」とされています。

 つまり、トモさんの父親が言うように、父親の介護をしなければならない義務はありません。それに、トモさんの父親は介護保険のサービスを利用しており、トモさんは月に1回帰省してケアマネジャーと連絡を取りあっています。まったく落ち度はありません。

家族とは難しい関係

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 少々極端な話になりますが……、日本では、「殺人事件」の半数以上が「家族間」だという統計もあるように、家族とは、下手をすれば「殺したいくらい憎い相手」になり得る存在です。憎くはなくても疲れから配偶者や親を手に掛ける介護殺人も頻繁に報道されています。殺人にまでは至らなくても、介護をきっかけに虐待する事件は、年々増加しています。

 父親との関係が良好とはいえないトモさんが「実家には泊まらない」と決めて、日帰りの帰省を続けてきたのは賢明な判断だったと思います。

「どこまでならできるか、できないか」を決められるのは自分だけです。親子の関係は個人ごとに異なり、当人にしか判断できません。きょうだいであっても、親との関係性は異なります。

 何らかの事情で受け入れられないのに、「親子だから」と“濃い”向き合いを続ければ、さらに関係性が悪化したり、ウツなどココロの病気に陥ったりすることもあります。

 特に、相手が厄介な親の場合(逆に親からみて「厄介な子ども」の場合も)、「どこまでならできるか、できないか」を自問自答することはとても大切です。トモさんはその結果、これまでのスタイルを築いたのでしょう。1泊しようとしたことが仇となりました。

 もし、何らかの事情でサポートできない(したくない)親から、「身の回りのことができなくなった。助けてくれ」とSOSが来た場合、親の地元の地域包括支援センターに連絡しましょう。事情を話せば、介護保険など公的なサービスを利用できる体制を整えてくれます。そして、“できること”を自問自答し、可能な範囲でサポートを行いたいものです。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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