Facebookが「社会を悪くする」のを止めるために必要な、これだけのこと
世界最大のソーシャルメディア、フェイスブックが「社会を悪くする」のを止めるために必要なことは何か――。
フェイスブックの元プロダクトマネージャー、フランシス・ホーゲン氏による社内資料に基づく告発が、同社に対する世界的な批判を、新たなレベルに引き上げている。
ウォールストリート・ジャーナルの一連のスクープ、CBSニュースへの出演、米上院での証言、さらに欧州との連携、と批判の輪は広がる一方だ。
ホーゲン氏は、フェイスブックの問題の元凶が、「いいね」やコメントなどの「エンゲージメントによるランキング」のアルゴリズムにある、と指摘。
ランキングの停止やアルゴリズムの透明化など、議会主導による規制強化を訴えた。
ホーゲン氏の主張は、プラットフォーム規制の先陣を切る欧州にも共鳴する。
すでにフェイスブックやグーグルに矛先を向けた規制法案のキーパーソンらは、ホーゲン氏と相次ぎ会談し、規制策の促進を掲げる。
フェイスブックへの十字砲火は、プラットフォームのビジネスモデル批判へと広がりつつある。
●「エンゲージメント」ランキングの危険性
米上院商業科学運輸委員会の消費者保護・商品安全・データセキュリティ小委員会で10月5日に開かれた「ネット上で子どもを守る:フェイスブックの内部告発者の証言」と題した公聴会で、フェイスブックの元プロダクトマネージャー、フランシス・ホーゲン氏は、共和党のジョン・スーン氏からの「エンゲージメントによるランキング(Engagement-Based Ranking)」の危険性についての質問に、こう証言した。
この小委員会での公聴会は、ウォールストリート・ジャーナルが9月に「フェイスブック・ファイルズ」として連続掲載した同社の内部資料に基づく調査報道を受けたものだった。
※参照:Facebookが抱えるコンテンツ削除のトラウマとは、著名人580万人「特別ルール」の裏側(09/15/2021 新聞紙学的)
※参照:反ワクチンが「コメント欄」に氾濫し、接種呼びかけを覆っていく(09/21/2021 新聞紙学的)
一連の調査報道の中でも、特に注目を集めたのが、フェイスブック傘下の画像共有ソーシャルメディア「インスタグラム」が、10代の少女たちのメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていることを、社内調査で把握していた、という問題だ。
同紙によれば、フェイスブックの研究者は2020年3月、社内で共有したスライドで、「10代の少女の32%は、自分の体形に不満を感じている時にインスタグラムを見ると、さらに自己嫌悪感が強まると語っている」と説明していた。
これが引き金となって、ホーゲン氏の証言の5日前、9月30日には、同じ上院小委員会で「ネット上で子どもを守る:フェイスブック、インスタグラムとメンタルヘルスの害」と題した公聴会で、証言に立ったフェイスブックの安全対策責任者、アンディゴニー・デイビス氏が集中砲火を浴びることとなった。
そして10月3日、米CBSの看板報道番組「60ミニッツ」に、ウォールストリート・ジャーナルへの情報提供を行った内部告発者としてホーゲン氏が登場。さらに舞台は2日後の上院公聴会に移った。
●「安全より利益」
ホーゲン氏は公聴会で、フェイスブックの「利益優先」の姿勢を批判。さらに、議会が何をなすべきか、その処方箋まで示した。
ホーゲン氏が、問題の根幹と指摘した「エンゲージメントによるランキング」の弊害もまた、ウォールストリート・ジャーナルの一連の調査報道で、取り上げられていた。
その一つのきっかけになったのが、2018年1月の友達や家族による投稿の優先表示とニュースの排除へのアルゴリズムの変更だった。
「有意義なソーシャル交流(MSI、Meaningful Social Interactions)」と呼ぶ友達や家族との健康的なコミュニケーションを目指した、とするこの改修は、だが、分断と「怒り」のコンテンツの増幅を招く。
その影響は、ネット調査会社「ニュースホイップ」の2019年3月の報告でも明らかにされていたが、フェイスブック社内でも、同様の問題点を把握していたのだという。
※参照:フェイスブックがニュースを排除する:2018年、メディアのサバイバルプラン(その3)(01/13/2018 新聞紙学的)
※参照:フェイスブックが広げているのは「分断」と「怒り」だった(03/18/2019 新聞紙学的)
この「エンゲージメントによるランキング」の問題の解決策として、ホーゲン氏が挙げたのが、ユーザー投稿に対してプラットフォームの免責を定める通信品位法230条の改正だ。
そして、それもまだ第一歩にすぎないとして、データ開示、アルゴリズムの透明性などの規制強化をするべきだ、というのがホーゲン氏の提言だ。
●フェイスブックの反論
ウォールストリート・ジャーナルの一連のスクープ、そしてホーゲン氏の告発に対して、「誤った決めつけ」などとしてフェイスブックは徹底抗戦の構えを見せている。
インスタグラムの10代のメンタルヘルスへの悪影響の調査については、注釈付きで自ら内部資料を公開するなどの広報戦略を展開する。
CEOのマーク・ザッカーバーグ氏も、公聴会の後、「多くの主張は、まったくナンセンスだ」などとする社内向けメモを、自身のフェイスブックページで公開した。
また、同社の公式声明も、「(ホーゲン氏は)首脳レベルの経営会議に出席したこともない」など、証言の信頼性への攻撃に重きが置かれている。
ただ、その結論は、奇妙にホーゲン氏の主張と一致する。
ここで言う25年を経た「ルール」とは、1996年に制定された通信品位法230条を指す。
ザッカーバーグ氏は2021年3月、アルファベット(グーグル)CEOのスンダー・ピチャイ氏、ツイッターCEOのジャック・ドーシー氏とともに米下院エネルギー・商務委員会のフェイクニュースに関するリモート公聴会に出席した。
この席でザッカーバーグ氏は、通信品位法230条改正について「議会に熟慮の上の改正を希望する」と踏み込んだ発言をし、改正に否定的なピチャイ氏、ドーシー氏らとは対照的な姿勢を鮮明にした。
※参照:ザッカーバーグ氏がフェイク対策で法規制を求めた―その理由とは?(03/26/2021 新聞紙学的)
だが議会側は、その発言を額面通りには受け取っていないようだ。
議員らからは、規制強化に対応できない競合の脱落を見越した「独占の地位固め」との冷めた反応が相次ぎ、今回もそのような指摘が出ている。
「230条改正では十分ではない」と、とさらにデータ公開、アルゴリズムの透明性の要求も掲げるホーゲン氏の指摘には、そんな背景もあるようだ。
2022年11月の米中間選挙を控え、議会もギアを上げる。公聴会を開催した小委員会委員長のリチャード・ブルメンソール氏も改選となる。
ブルメンソール氏はザッカーバーグ氏の反論を受けて、ツイッターの投稿でこう述べている。
さらに、こう述べる。
●EUへの波紋
ホーゲン氏の告発は、米連邦議会だけでなく、フェイスブックなどのプラットフォームへの規制を強めるEU(欧州連合)にも反響を呼び起こす。
欧州連合の価値・透明性担当副委員長、ベラ・ヨウロバー氏は米上院公聴会の翌日、ホーゲン氏とのリモート会談の写真とともに、ツイッターでこう述べている。
欧州委員会は2020年12月、フェイクニュースなどをめぐるプラットフォームへの規制強化策として、政策パッケージの「欧州民主主義行動計画」、さらにコンテンツ管理に焦点を当てた「デジタルサービス法(DSA)」と、競争促進に焦点を当てた「デジタル市場法(DMA)」を相次いで発表。ネット上の政治広告規制策も検討している。
※参照:2021年、GAFAは「大きすぎて」目の敵にされる(12/18/2020 新聞紙学的)
ホーゲン氏の内部告発と提言は、EUにとって「渡りに船」のタイミングだ。
ホーゲン氏はこのほか、プラットフォーム規制を主導する欧州委員(域内市場担当)のティエリー・ブルトン氏らと相次いでリモート会談を行っている。
ブルトン氏もツイッターでこう述べる。
またホーゲン氏は、違法有害コンテンツ規制のための「オンライン安全法案」を審議中の英国議会にも、フェイスブックの内部資料を提供する予定だという。
「オンライン安全法案」合同委員会の委員長、ダミアン・コリンズ氏は英デイリー・ミラーなどへのコメントで、こう述べている。
●構造的な問題と進退
今回の騒動は、巨大プラットフォーム、フェイスブックの抱える構造的な問題とトップの進退をめぐる議論にも発展している。
フェイスブックの元最高セキュリティ責任者(CSO)で、スタンフォード大学インターネット観測所所長のアレックス・スタモス氏は、ニューヨーク・タイムズでのカーラ・スウィッシャー氏によるインタビューで、こう指摘している。
また、フェイスブックがコンテンツ規制についての諮問機関として設立し、「最高裁」とも呼ばれる監督委員会についても、今回の内部告発をきっかけに、「機能していない」との批判が再燃している。
※参照:Facebookの利用規定を書き直せ、と「最高裁」が言う(02/01/2021 新聞紙学的)
※参照:トランプ氏停止は支持、だがFacebookは無責任と「最高裁」が言う(05/06/2021 新聞紙学的)
前述のコリンズ氏は、英デイリー・テレグラフのインタビューに、こう述べている。
焦点となった問題のいずれについても監督委員会は権限を持たず、「無力」だとの指摘だ。
今回の内部告発をきっかけに、プラットフォームへの規制強化の歯車が加速すれば、その影響はフェイスブックだけに止まらない。
フェイスブックに対する批判は、プラットフォーム全体へと広がりつつある。
(※2021年10月8日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)