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アメリカの肉食の現状と加速する日本版フードテック。そして最新版Impossible肉インプレッション

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト

アメリカの肉食トレンドに大転換点が訪れているという。元Evernote日本法人CEOで、現在スクラムベンチャーズのパートナーをつとめる肉好き・食好きの外村仁さんがサンフランシスコから東京に戻ってきている。そこで外村さんから聞いた「肉食大国アメリカのいま」が衝撃的だったので触れておきたい。

外村仁さん(左)と筆者(中)。2016年頃、鹿浜の某焼肉店にて。ちなみにその右でお休みになられているのは「伊勢うどん大使」でコラムニストの石原壮一郎さん
外村仁さん(左)と筆者(中)。2016年頃、鹿浜の某焼肉店にて。ちなみにその右でお休みになられているのは「伊勢うどん大使」でコラムニストの石原壮一郎さん

「アメリカでは、若い世代でも普通に肉を食べなくなってきていています。大学生がランチで4人いても誰も肉を食べないようなグループも珍しくありません。うちの娘も普通に肉は食べないですね。『肉焼くぞ』と言っても、喜んで肉を食べるのは、だいたい40代以上――僕らくらいの年代ですね」

日本でも「代替肉」「プラントベース」という言葉を聞くようになったし、今年は3大コンビニすべてで「大豆ミート」を使った弁当や惣菜が販売されるようになった。もっとも、日本ではまだそうしたムーブメントが「物珍しさ」を伴ったニュースになってしまう程度の認知度なのもまた事実だ。

「アメリカの状況はまったく違います。スーパーの棚が象徴的で、ベイエリアのスーパーの食肉コーナーの光景は激変しました。コロナ以前には広大な牛肉売り場と豚肉売り場が中心であとは鶏肉が少し、という構成だったんですが、このところ牛肉のニーズが急速に縮小しています。近所のスーパーでは牛肉と豚肉の売り場が半分になって、鶏肉の売り場が2~3倍に。肉を食べるにしても、比較的環境負荷の少ない鶏が選択されるようになった印象です。そして牛が減ったところにImpossibleなどのプラントベースミートがリプレースされているのです」

そうはいっても、"格差社会"の代名詞のようなアメリカのこと。セレブリティの間での一時的な流行りなのでは……と訝っていたら、Whole Foods Marketのような高級店だけでなく、Safewayのような一般的な店やWalmartのような大衆店、Targetのような食品以外にも衣類や家電なども扱う店――。あらゆるスーパーで「普通に」プラントベースミートが扱われているという。

「一昨年頃にはまったく想像できなかった状況です。例えば昨年、バーガーキングがimpossibleのパティを使ったImpossible Whopper(インポシブル・ワッパー)を全国展開して話題になりました。ニューヨークや西海岸の店舗限定なら、僕も驚きません。でもバーガーキング全店というとアイオワやオハイオ、テネシーと言ったおよそプラントベースと縁のなさそうなエリアにも展開することにもなる。そうしたすそ野の広がりが、新しいムーブメントの力強さを象徴しています」

プラントベースミートが生まれた背景には「環境への負荷を最小限にしたタンパク源の確保」「フードロス減」という、地球や環境の未来につながるニーズがある。大量消費社会の象徴とも言えるアメリカで、自然発生的に湧き上がった若者を中心とした未来志向。もはや海外において、フードテックは単なるトレンドではない。フードテックは、望ましい食の未来を実現するための杖なのだ。

加速する日本版フードテック

実は外村さんが(アメリカから日本への帰国に際しても、隔離期間が必要な)コロナ禍のこのタイミングで帰国したのには理由がある。自身がパートナーをつとめるスクラムベンチャーズが『Food Tech Studio - Bites!』を立ち上げたからだ。

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少し前の本稿でも紹介した『フードテック革命』の監修者でもある外村さんたちは『スマートキッチンサミットジャパン』への関わりなどを通じて、国内における「食」分野のイノベーションの必要性を様々な形で訴えかけてきた。それでもレストランからインスタントまで、高次元に発展してしまった日本の食は一朝一夕には動かない。

だが、世界のスピード感はケタ違いだ。

「例えばアメリカで、Impossible Foodsより一足先に上場したBeyond Meetは、創業わずか11年にして一兆円規模の企業に成長しています」

国内で時価総額1兆円企業と言えば、食産業ならばキッコーマンやヤクルト、日清食品といった食分野を代表する企業となる。その規模に準ずるスタートアップは国内には見当たらない。国内ベンチャーの時価総額ランキング50を見ても「食」領域となると47位に飲食店の予約管理と顧客台帳システムの「トレタ」(194億円)が入っているくらい。「フードテック」が世界を席巻するなか、スケールとしては日本だけ蚊帳の外という状態が続いているのが現状だ。

そんな現状を打破し、「食」領域で世界基準のイノベーションを起こそうというのが、『Food Tech Studio- Bites!』(https://www.foodtech.studio/)の目指すところだ。

「僕がシリコンバレーに引っ越して起業したのが20年前。その頃、ベイエリアにまともなレストランなんて数えるほどしかありませんでした。それが10年前からITやAI、バイオなどのさまざまなスタートアップが生まれ、成功し、その資金が周辺産業に入ってきて、フード関連のスタートアップも激増し、いまではベイエリアの星付きレストランの数はニューヨークを凌ぐほど。いまのうちならまだ日本の「食」が持っている知見やアドバンテージで世界を驚かせることができる」

本日9月30日、YouTube Live(https://www.youtube.com/watch?v=hi73CoMTZ_0)で発表された『Food Tech Studio- Bites!』の事業モデルは、日本の大企業と世界のスタートアップをスクラムベンチャーがつなぎ、新たな事業や価値創造につなげること。立ち上げから参画するパートナー企業には、不二製油、日清食品、伊藤園、ユーハイム、ニチレイ、大塚ホールディングスの6社が名を連ねた。

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「企業によっては、商品やサービスの領域が重なる部分もありますが、共創、協業で新しい技術・サービスを展開したいという思いが強い企業ばかりです。元祖"食のイノベーター"とも言うべき企業が集まって、『日本の食のイノベーション』という旗をともに掲げてくれることがとても心強い」

旗を支える同士は他にもいる、アカデミックパートナーとして辻調グループが参画し、メンター陣には『フードテック革命』の共著者であるシグマクシスの岡田亜希子氏に田中宏隆氏、HAJIMEの米田肇シェフなど、内外のスタートアップのつわ者やアカデミアが顔を揃える。

「今日から11月末まで、今年度のスタートアップの募集をワールドワイドで行います。『フードテック』というと狭い世界のことを想像されるかもしれませんが、『世界700兆円産業』とも言われるほどカバーエリアは広範囲に渡る。『食』に関するイノベーションを共に巻き起こそうという熱意にあふれた起業家とスタートアップからの応募を私たちは待っています」

世界に冠たる美食都市東京が、「食」を消費するだけの都市でいいはずがない。食と切り離せない「健やかさ」とは何か。もはや合言葉のように謳われる「サステナブル」はどこへ行くのか。それは企業やスタートアップという範囲にとどまらず、我々一人一人に突きつけられた課題なのだ。

最新版Impossibleの正体とインプレッション

そして本日のYouTubeライブの終盤に登場した最新版Impossibleを外村さんがお持ちだというので、頼み込んで試食をさせてもらうことに。「せっかくだから、黒毛のハンバーグと食べ比べましょう」とご提案いただき、いそいそと六本木へ。

「いままでのImpossible、食べたことありますか? ない? ならちょうどいいですね。先入観を持たずに食べてみてください」と外村さんにご案内いただいたのは、六本木の『格之進』。黒毛和牛の「黒格ハンバーグ」とImpossibleの食べ比べをしてみようというわけだ。

ちなみにアメリカにおけるImpossibleの小売価格は12オンス(3/4ポンド=337.5グラム)で9.99USドル。日本における牛肉の価格とそう変わらない。「ただ、いまアメリカで牛肉価格が下落していて、引きずられるようにImpossibleも買いやすくなっています。いまは7ドルくらいかな」。日本国内で販売はされていないものの、牛肉と好勝負が期待できそうな価格帯。相場を決める要因はさまざまだ。

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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