『となりのトトロ』のネコバスの乗り心地はいいの!? 空想科学でマジメに考えてみると……!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
8月19日の金曜ロードショーは『となりのトトロ』。それを見ながら、ぜひとも考えてほしいことがある。
それは、ネコバスの乗り心地!
ご存じのとおり、ネコバスは、迷子になったメイをサツキが探すシーンで登場する。
筆者はあの場面を見るたび、「メイは無事なのか!?」とドキドキすると同時に、「ネコバスの乗り心地はどうなんだろう?」と気になって仕方がない。
画面を見ていると、爽快である。
ネコバスが田んぼを走っても稲は倒れない。
池の水面を走っても、わずかに波紋が広がるだけ。
鉄塔をよじ登り、高圧線の上を走ることさえできる。
しかも、モノスゴク速い!
とはいえ、ネコバスはネコだ。
車輪で走行する機械ではなく、足で歩く哺乳類食肉目ネコ科の動物。
それに乗って疾走すると、乗客はどんな感覚を体験するのだろうか?
◆車輪がないと、どうなるか?
ネコである以上、ネコバスの車体は生物の体であろう。
サツキが乗り込んだ車内はフカフカだったが、ネコだったら当然だ。
彼女はそーっと歩いて、ソファのような座席に静かに座る。
と、座席はいったん深く沈んで、盛り上がった。まるで、ネコバスがくすぐったがっているかのように。
気になるのは、ネコの体温が人間より高いことだ。
平熱が38.5度。
しかも『となりのトトロ』は夏のお話だから、外気温によってはけっこう暑く感じるかもしれない。
そして、ネコだから車輪では走らない。
ネコは「後ろ足でジャンプして、前足で着地」を繰り返して走るが、ネコバスの走り方も同じである(ただ、たぶん化けネコのネコバスは、足が合計12本もあり、前足も後ろ足も、左右3本ずつある)。
ネコのように走るバスは、独特の乗り心地になるはずである。
後ろ足でジャンプして、前足で着地!
すると、ジャンプしているあいだ、ネコバスの車内はフワリと無重力になる。
でも着地するや、乗客の体はググ~ッと座席に押しつけられる。
再びジャンプすると無重力状態、また着地するとググ~ッと押しつけられ……と、これが延々と繰り返されることになる。
無重力になる時間は、ジャンプの高度で決まり、高さ1mなら0.9秒だ。
着地のときに押しつけられる力は、ネコバスが体を沈める距離次第で、50cmなら体重の3倍。それが0.45秒続く。
つまりネコバスが走ると「0.9秒間フワ~ッと無重力になる」と「0.45秒間ググ~ッと体が体重の3倍の力で押さえつけられる」が繰り返される。
5分走り続けようものなら、この「フワ~ッ&ググ~ッ」セットが222回!
むむむ、想像しただけでキモチ悪くなってきた。ネコバスの乗り心地はよくないのか……?
◆新幹線より速い!
結論はまだ早い。ここでは、ネコバスのスピードに注目しよう。
画面で計ると、ネコバスの体長はサツキの身長の4倍ほどある。
サツキの身長が小6女子の平均と同じなら、136.2cm(昭和35年)で、するとネコバスは5m45cm。
同様に屋根の高さを計算すると、3m75cm。中型の路線バスは全長9m、高さ3mなので、ネコバスはかなりズングリムックリしている。
このサイズと比較して、ネコバスが画面のなかをどのように移動しているかを測定すれば、スピードが求められる。
たとえば、サツキとメイを乗せて七国山病院に向かった直後のスピードは時速20kmだ。
いちばん速かったのは、クスの木の上から出発して、田んぼを走ったとき。
カン太のおばあさんが「メイちゃあああん」と叫ぶ横を通り過ぎたとき、おばあさんはたちまち小さくなった。
目測だが、おばあさんとの距離は1秒ほどで100mくらい開いた印象だったので、もしそれが正しければ、秒速100m=時速360km。
なんとネコバスは、新幹線より速い!
カン太のおばあさんは「ここから七国山まで大人の足でも3時間かかる」と言い、大人の歩行速度は時速4kmだから、七国山まで12kmほど離れているのだろう。
そんなに遠くの病院まで、時速360kmなら、たったの2分! 優秀なバスである。
◆モフモフが嬉しい!
これほど速いと、先ほど心配した「フワ~ッ&ググ~ッ」を味わう回数も少なくて済む。2分だったら89セット。これくらいなら耐えられるのでは……。
筆者が気になるのは、ネコバスの窓に、ガラスがないことだ。
ネコだから仕方がないのだが、これで時速360kmなど出そうものなら、ガラスのない新幹線に乗るよりもっとヒドイことになる。
風速100m/秒というモーレツな風が吹きつける!
そして、強い風が吹きつけると、体感温度が下がる。風速100m/秒だと、40度も下がってしまう。
前述したとおり『となりのトトロ』は夏のお話で、サツキが乗ったときの気温を30度としても、体感温度はなんとマイナス10度に……!
あっ! でも、だからこそネコの体が役に立つのか!
体温38.5度のモフモフに埋もれていれば、猛風のなかでもヌクヌクかもしれない。
結論。
ネコバスは、①ネコならではの激しい動き、②新幹線を上回るスピード、③窓がなく猛風が吹き荒れる極寒車内、というバスの常識をくつがえす驚異のバスだ。
でも、ネコだからこそのモフモフが、それらキビシイ車内環境を軽減してくれて、かなり乗り心地がよいのでは!?
……というのは、あくまでも筆者の考察の結果だけど、今夜の『トトロ』は、そんなネコバスの乗り心地も想像しながら見てください。