トランプ、プーチン、習近平… 最も信頼されないリーダーは誰か―世界25ヵ国での世論調査から
アメリカのシンクタンク、ピュー・リサーチ・センターが10月1日に発表した最新の調査報告によると、世界で最も信頼されるリーダーはドイツのメルケル首相で、最も信頼されないリーダーはトランプ大統領だった。
この調査が行われた25ヵ国には日本も含まれ、日本でも他国に劣らずトランプ大統領への信頼が低いことはデータに表れている。しかし、その一方でアメリカへの親近感は高いままで、大統領への信頼とアメリカそのものへの評価が別物である点に、日本の特徴がある。
最も信頼されるリーダー
ピュー・リサーチ・センターは「アメリカに対する態度」に関する世論調査を定期的に行なっており、最新の報告書では世界25ヵ国での調査に基づき、「世界にとって正しいことをしていると信頼できるリーダー」として、アンゲラ・メルケルが唯一過半数を獲得した一方、ドナルド・トランプは習近平やウラジミール・プーチンを下回った(シンゾー・アベの調査結果はない)。
メルケル首相はユーロ危機や難民危機に見舞われるEUを支え続けてきた一方、ウクライナ危機やイラン核合意などで米ロの対立を緩和させることに腐心してきた。また、ロシアや中国の人権問題に口を閉ざさない一方で、6月のG7サミットではトランプ大統領の保護主義を糾弾する最前線にも立った。
メルケル首相への高い信頼は、多くの国で受け入れられている原則を尊重し、ルールや秩序を遵守しようとするバランス感覚によるとみられる。
信頼されない秘訣
これに対して、トランプ大統領が信頼されにくいのは、メルケル首相が高い信頼を勝ち得たことの裏返しともいえる。
トランプ大統領は就任以来、国際的なルールや取り決めを反故にし続けてきた。パリ協定やTPPからの離脱、イラン核合意の破棄、エルサレムの首都認定、ムスリムの入国制限などは、「アメリカ第一」ではあっても、他国との合意を一方的に破棄するものであることは間違いない。
「信頼」とは好悪の感情や敵−味方の立場で語られるものではなく、相手の行動が予測可能であることによって生まれる。約束事があれば「相手もそれを守る」と期待することは当然で、それを簡単に無視する者は、立場上「味方」であっても信頼されにくくなる。職場のルールや決まりごとを自分の手柄のために平気で無視する者は、たとえ同僚であっても信頼を得にくい。
これと逆に、立場上「敵」であっても、取り決めを守る限りは信頼される。冷戦時代、米ソは相手を敵視しながらも、お互いに「全面的な核戦争がお互いにとって最悪の結果であること」を理解し、最終的には相手がその回避のために行動するとみなしていた点で「信頼」していた。
習氏やプーチン氏は西側主導の協議や交渉そのものに反対することが多く、決定のプロセスも不透明で、その意味では信頼されにくい。しかし、少なくとも一旦合意によって成立した約束事を一方的に破る頻度で言えば、両氏はトランプ氏に及ばない。
期待を裏切るリーダー
トランプ氏への低評価は、アメリカの評価も引き下げている。
トランプ政権が成立した時期と、ヨーロッパを中心に多くの国でアメリカそのものに対する親近感が急激に低下した時期は、ほぼ一致している。
ただし、ここが世界にとってのジレンマといえる。
流動化する国際情勢を背景に、「中国の果たす役割が10年前より大きくなった」と認める回答は、25ヵ国平均で70パーセントにのぼった。しかし、「世界にとって望ましいリーダー」としての認知では、ほとんどの国で「アメリカ」という回答の方が圧倒的に多い。
つまり、多くの回答者は中国の力を現実として認めるものの、リーダーであってほしい対象は、むしろアメリカなのである。ところが、先述のように、実際にはトランプ政権のもとでアメリカは、世界のリーダーどころかトラブルメーカーにさえなっている。
期待が空振りになることへのストレスは、トランプ氏への低評価に拍車をかけていると言える。
トランプとアメリカは別
ところで、この調査が行われた国には日本も含まれる。その調査結果は、日本のアメリカ観をうかがわせる。
日本でのトランプ大統領を信頼する割合は30パーセントと低く、その水準は25カ国平均とほとんど変わらない。
しかし、オバマ政権最後の2016年に72パーセントだった日本のアメリカに対する親近感は、2018年には67パーセントにまで下がったものの、その下落幅はやはり安全保障面でのアメリカ依存が目立つ韓国やポーランドとともに、比較的緩やかだ。
また、世界全体でのアメリカのリーダーシップを期待する回答は、日本では81パーセントにのぼり、これは25ヵ国中最も高い。
つまり、日本では「トランプ氏は信頼できないが、それとアメリカとの関係は話が別」と割り切って考える人が多い。これは多くの国でみられる、トランプ氏への評価とアメリカへの観方が連動するパターンとは異なる。
コストとしてのトランプ
日本のこの特徴は、中国の台頭に対する警戒感が、他の国でのそれより強いことの裏返しといえる。
ピュー・リサーチ・センターの調査結果によると、日本での中国に「親近感がある」という回答は17パーセントにとどまり、25ヵ国平均の45パーセントと比べて際立って低く、調査対象国で最も低い。これは日本で、トランプ氏の不安定さを「大事の前の小事」と捉え、むしろアメリカとの関係を維持するためのコストとして(しぶしぶだが)受け入れようとする心理を働かせる要因といえる。
また、北朝鮮の問題でアメリカに依存せざるを得ない状況は、これに拍車をかけているとみられる。
つまり、日本では個別の政権にとどまらない、より長期的な視点でアメリカとの関係を考える人が多いともいえる。実際、「(トランプ政権が発足した)2017年からアメリカとの関係は」という問いに対する日本での「変化していない」と回答は64パーセントにのぼり、これはギリシャ、スペイン、オーストラリアに次いで高い水準にある。
アメリカへの冷めた視線
ただし、アメリカ主導の世界やアメリカとの長期的な関係を重視しているにもかかわらず、日本ではアメリカに対するシビアな評価も目立つ。
「アメリカはあなた方の国の利益をどのくらい考えに入れていると思うか」という問いに対して、日本での回答は「あまり考えていない」と「全く考えていない」の合計が71パーセントで、これは世界平均(70パーセント)と変わらなかった。
その一方で、「世界でのアメリカの影響力は以前と比べてどうなったか」という問いに対して、「大きくなった」という回答は日本で16パーセントにとどまり、これは25ヵ国中ロシアでの回答と並んで最も低い評価である。
この冷めた見方に象徴されるように、多くの日本人は、いわば「中国がリーダーになるよりまだマシだが、アメリカにも過度な期待はしない」と思っているからこそ、トランプ政権の一挙手一投足に一喜一憂しない傾向が強いのかもしれない。
誰にとっての利益か
日本のアメリカへの見方は、例えるなら、大企業の下請け業者が親会社の長期的な衰退を認識し、さらに長年買い叩かれてきたことにブツブツ言いながらも、もう一方の勢いある新興の大企業と体質的に合わず、かといってそれ以外の新たな道を模索することもなく、結局今の状態を選ぶことに通じる。
だとすると、たとえ親会社の新しい担当者がこれまで以上に無茶振りする人間だったとしても、定期的な「人事異動」でそのうち別の担当者がくるまで息を潜めていようといった感覚でトランプ政権をみていることになる。
それは確かにアメリカとの長期的な関係を重視する立場といえる。
ただし、親会社との関係しか視野にないとすれば、それで喜ぶのが親会社であることも確かだ。その意味で、日本のアメリカ観を浮き彫りにする今回の報告は、日本との貿易協議に臨もうとするトランプ氏にとっての朗報といえるだろう。