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“ペットの死”を考える。「亡くした愛猫を剥製(はくせい)にする」という漫画が話題に

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

ねとらぼは、漫画家の矢野満月さんがTwitterに投稿した短編漫画「シビは寝ている」が、ペットロスへの向き合い方を描いており「考えさせられる」として、Twitterで4万いいねを集めていると伝えています。同漫画は、愛猫を剥製にするか悩み、男女がすれ違いながらもその死に向き合っていくものです。

今日は、ペットの剥製について考えてみましょう。

ペットを剥製にして手元に置いておきたい?

ペットを飼っているものは、彼らにはできるだけ傍らにいてほしいと思います。ペットを抱っこして、そしてその手触りを感じておきたいので、剥製にして手元にいてほしいという飼い主の気持ちは理解できます。

筆者の愛犬・ラッキーは、18歳と10カ月生きていました。ラッキーの最期は、寝たきりで食事も水も自分で飲むことができず、強制給餌をしてオムツをして生きていました。家族には、そこまでして生かさなくてもとも言われました。

しかし、私はラッキーの心臓が動き一緒の空間で息をしているだけでよかったのです。そんな体験をしているので、愛するペットの死は受け入れがたい人もいることがわかります。

ペットの剥製のメリット

ペットを剥製にするメリットは「いつまでもペットの姿を手元に置ける」ことです。

「眠ったままでもそばに居てくれるだけでいい」という飼い主には、向いているかもしれません。ペットが亡くなったことで、精神的に弱って、なにもできなくなる人には、愛犬や愛猫を剥製にするのは、ひとつの方法かもしれません。

ペットの剥製のデメリット

愛する犬や猫の剥製は、当然のことながら死体です。そのため、体温が感じられず触っても温かみがなく柔らかくないのです。

そのうえ違和感を感じやすいところは、やはり目でしょう。潤いのある見慣れていた目が、潤っていなくて生前とは微妙なバランスの違いなどを感じてしまうこともあります。思ったような仕上がりとならず「生前の面影がなくなってしまった」という場合もあります。

愛犬や愛猫の剥製を見て死んでしまった現実を目の当たりにし続けることにもなり、ペットロスをより強く感じてしまう場合もあります。

一般的な剥製の作り方

漫画家の矢野満月さんがTwitterに投稿した短編漫画「シビは寝ている」にあるように、愛猫の死体を冷凍して剥製業者に送ります。

打ち合わせのときに、希望するポーズ、義眼の有無や色形など決めます。上述しましたが、表情の仕上がりは生前のような目ではなくなるので、眠っている目で、体も丸く眠っているポーズでの仕上がりがいいと言われています。

剥製の作り方をざっくり説明すると、剥製は動物の毛皮を剥ぎ、防腐処理を施したのちに内臓や骨格の代わりとなる損充材を内部に詰めることで生前の姿に近づけて保存する技術です。昨今では技術革新のため、筋肉の盛り上がりや質感などの再現性も高く、より生前の姿に忠実な仕上がりが可能となっています。

谷崎潤一郎氏の猫のペルちゃんの剥製

芦屋市谷崎潤一郎記念館@AshiyaTanizaki より

最近は、ペットブームなので、飼い主が愛犬や愛猫を剥製にしたいと思うのだと考えていませんか。

実は、『細雪(ささめゆき)』などで知られる文豪・谷崎潤一郎氏は、愛猫を剥製にしているのです。芦屋市谷崎潤一郎記念館に、上の写真のように谷崎晩年の飼い猫ペルの剥製があります。谷崎氏は、よほどかわいがっていて、死後も身近に置いていたといいます。

まとめ

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

愛犬や愛猫が、いくら長寿になったからといっても、20年以上生きてくれる子は珍しいです。

どんなときでも、傍らにいて飼い主に温かみや癒やしをくれていた彼らが、亡くなると悲しいものです。

そのときに、あれもしたらよかった、これもしたらよかったと後悔しないように、ペットを剥製にするということも知っておくことは、大切だと思います。

彼らが、健康なうちから、愛犬や愛猫を剥製にしたとき、メリットとデメリットを考えておきましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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