半世紀以上にわたる映画観覧料の変遷をさぐる(2024年公開版)
映画観覧料は1970年代から上昇へ
家庭用テレビの大型化やスマートフォンの普及、インターネット上の動画配信の高性能化に伴い、映画館の存在意義が大きく問われる時代が到来している。その過程で映画観覧料に関する論議も繰り返され、さまざまな実証実験も行われている。それでは映画観覧料はどのような推移を示しているのだろうか。総務省統計局の小売物価統計調査(※)の結果から確認する。
具体的には東京都区部の小売価格を参考に、1950年以降直近の2023年分までの年次値を随時取得していく。また月次に限れば東京都区部に限れば記事執筆時点で2024年9月まですでに公開済みであることから、2024年分は9月分を適用する。
金額そのものとしては1950~1970年は緩やかな上昇、1980~1985年、1995年以降はほぼ横ばいを示している。一方で1970~1980年と1985~1995年の2つ期間において、大きく値上げをしているのが確認できる。特に1970年からの10年間で、3倍以上の値上がりを見せている。
これは物価が上昇したことに加え、映画館での映画観覧に対する需要が減り、映画館の数が減少したことによるものと考えられる。カラーテレビの普及が1964年の東京オリンピック開催をきっかけとし、1960年代後半から始まっており、その影響が大きいようだ。需要が減ったことを受け、売上を維持するために単価を高める必要性が生じたわけである。
また1950年は64.6円とある。直近年は1933.0円。単純計算だが約29.9倍となる。
なお2014年4月からの消費税率改定に伴い、映画観覧料の引き上げは行われなかったため、1800円の値が継続している。このタイミングでは代わりに、各種割引料金の引き上げが実施されている(一例としてTOHOシネマズの場合、「鑑賞料金全体での適正な転化になるよう、基本鑑賞料金は現行のままとし、各種割引料金を改定いたします」とし、基本観賞料金に変更は無いが、各種割引料金に100円(税込)が追加されている)。また2019年以降一部で一般観覧料金や各種割引料金の値上げが実施されており、結果として平均値となる映画観覧料は漸次増加を示している。
消費者物価の動向を考慮すると
モノの値段の高い・安いを判断する場合、単純に金額の移り変わりだけでなく、当時の物価を考慮して考えた場合が賢明である。昔の100円と今の100円では、金額は同じでも買えるものには大きな違いがあり、価値は当然違いがあるからだ。
そこで各年の映画観覧料に、それぞれの年の消費者物価指数を考慮した値を算出することにした。消費者物価指数の各年における値を用い、直近の2024年の値を基準値として、他の年の映画観覧料を再計算する。その計算の結果を基にしたのが次のグラフ。
やはり1970年からの10年間における値上げは物価を考慮しても大きなものであったことが確認できる。一方で1985~1995年の値上げは物価に連動したものであり、それを鑑みると横ばい、あるいはむしろ実質的な値下げであったことが分かる。そしてそれ以降は物価そのものが安定しているため、料金は1800円でほぼ変わらないから、結果として実質的な料金も横ばいを維持している計算になる。直近10年ほどはむしろ実質的に映画観覧料は安くなっていることも確認できる。
なお消費者物価指数動向を考慮した上で、1950年の映画観覧料を計算すると594.4円。現在はその3.25倍ほどに相当することになる。
消費者物価の動向を反映したグラフの限りでは、1970年代以降は映画の観覧料は実質的にほぼ変わらない。にもかかわらず昨今において「映画の観覧料が高い」との意見が多々聞かれるのは、絶対額の問題ではなく、「映画を映画館で観ることへの個人の価値感」が減少していると考えれば道理は通る。昔は「観覧料を出しても観る価値はある」と考えていた人が多数派だったが、今は「観覧料ほどの価値はない」との意見が大勢を占めている。
これが単純に映画の質の低下を意味するのか、それともそれ以外の娯楽(テレビ、ビデオ、インターネット、携帯電話など)の普及で相対的に「映画館で映画を観る」ことへの価値が下げられたのかは、今件の値からのみでは分からない。ともあれ、時代の変化に伴った変革・進化を、映画館も求められているに違いない。
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※小売物価統計調査
国民の消費生活上重要な財の小売価格、サービス料金および家賃を全国的規模で小売店舗、サービス事業所、関係機関および世帯から毎月調査し、消費者物価指数(CPI)やその他物価に関する基礎資料を得ることを目的として実施されている調査。
一般の財の小売価格またはサービスの料金を調査する「価格調査」、家賃を調査する「家賃調査」および宿泊施設の宿泊料金を調査する「宿泊料調査」に大別。価格調査および家賃調査については、全国の167市町村を調査市町村とし、調査市町村ごとに、財の価格およびサービス料金を調査する価格調査地区(約28000の店舗・事業所)と、民営借家の家賃を調査する家賃調査地区(約7000事務所)を設けている。
価格調査および家賃調査の調査市町村は、都道府県庁所在市、川崎市、相模原市、浜松市、堺市および北九州市をそれぞれ調査市とするほか、それ以外の全国の市町村を人口規模、地理的位置、産業的特色などによって115層に分け、各層から一つずつ総務省統計局が抽出し167の調査市町村を設定している。
価格調査については、調査員が毎月担当する調査地区内の調査店舗などに出かけ、代表者から商品の小売価格、サービス料金などを聞き取り、その結果を調査員端末に入力する。家賃調査については、原則として調査員が調査事業所を訪問し、事業主から家賃、延べ面積などを聞き取り、調査員端末に入力する。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
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