映画館離れなど無い…映画館での映画鑑賞の動向推移をさぐる
名作が続々製作され好調なように見える映画業界。実情として映画館に通い映画鑑賞をしている人はどれほどいるのだろうか。その推移を総務省統計局による社会生活基本調査(※)の公開値から確認する。
まず最初に示すのはデータが取得可能な1986年以降の映画館での映画鑑賞の行動者率(調査日において過去1年間に1日でも映画館で映画鑑賞をした人の割合)と行動者数。1986年から1991年は15歳以上が、1996年以降は10歳以上が対象となっているため、厳密には双方間に連続性は無い。さらに1986年と1991年分は総数の行動率が計上されていない(対象年齢が異なるためだろう)。そのため行動者率推移では考察から外している。
男女とも、映画館での映画鑑賞の行動者率は増加の一途をたどっている。2011年に一時的に落ち込んだのは、同年3月に発生した東日本大震災に伴う直接の被害や自粛ムードに伴うものだろう。1996年当時には男性で1/4近く、女性で3割近くが少なくとも年に1日は映画館に足を運んで映画鑑賞をしていたが、直近の2016年では男性で4割近く、女性は4割強にまで増加している。
行動者数では2011年のみならず1991年でも減少の動きを示したが、大よそ増加の流れにある。1986年当時と比べ、30年が経過した2016年では男性で600万人強、女性では1000万人近く増加している。
これを年齢階層別に見たのが次のグラフ。一部年齢階層では調査年によって未対象だったため、その年の分は空欄になっている。
まず行動者率。調査年のヒット作とその対象年齢で少なからぬ影響も生じているようだが、大勢としては男性は30代以降、女性は20代後半以降はおおむね映画館での映画鑑賞をより積極的に行う傾向を示している。若年層は映画館での映画離れ的な動きも一部で見られるが(特に男性)、2016年では大いに挽回をし、調査対象期間内では最大の行動者率を計上している。調査期間時に上映されていた「君の名は。」が貢献した可能性を示唆する動きではある(「この世界の片隅に」は2016年11月上映開始のため、今回調査結果では反映されていない)。
行動者数の動向でも似たような状況が確認できる。男性は30代までが漸減、30代で増加の後に横ばい、それ以降は漸増。女性は行動者率とはやや異なり40代以降で好調化の動きをしている。
昨今一部界隈で語られている「映画館での映画鑑賞離れ」といった話は、今回の調査結果の限りでは確認できない。あるいは1950年代から1960年代の時のような、インターネットはおろかテレビも十分に普及しておらず、映像作品に触れる数少ない機会が映画館での映画鑑賞だった時のような盛況ぶりでは無いから、足が遠のいているとでも評しているのだろうか。
当時と現在とでは、人の生活に関わる映像娯楽の環境は大きく様変わりを示している。映画館の入場者が1958年をピークに大きく落ち込んだのはテレビの普及によるものであり、テレビが無かった時代と同じような活況ぶりを期待する方が間違っている。
インターネットの普及に伴い高解像度の動画が自宅で楽しめるようになり、テレビも大型化・高画質化・多機能化を示している。映画館での映画鑑賞の動員数増加を目指すのなら、それらと対抗できる良質コンテンツの製作を成しえる土壌づくり、インターネットや家庭のテレビでは得られない魅力あふれる体験を提供する模索が求められよう。
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※社会生活基本調査
5年おきに実施されている公的調査で、直近分となる2016年分は2010年時点の国勢調査の調査区のうち、2016年の熊本地震の影響を受けて調査が困難な一部地域を除いた、総務大臣の指定する7311調査区に対して実施された。指定調査区から選定した約8万8000世帯に居住する10歳以上の世帯員約20万人を対象としている。ただし外国の外交団やその家族、外国の軍人やその関係者、自衛隊の営舎内や艦船内の居住者、刑務所などに収容されている人、社会福祉施設や病院、療養所に入所・入院している人は対象外。2016年10月20日現在の実情について回答してもらっているが、生活時間については2016年10月15日から10月23日までの9日間のうち、調査区ごとに指定した連続する2日間についての調査となる。調査方法は調査員による調査世帯への調査票配布と回収方式。
(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。