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日本で言えば官房長官クラスの解任――金正恩氏の逆鱗に触れたのは軍不祥事かコロナの重大事態か

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
厳しい表情を見せる金正恩総書記=労働新聞より筆者キャプチャー

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が6月29日に開かれた朝鮮労働党政治局拡大会議で、住民の安全に大きな危機を造成する「重大事件」が発生したとして、政治局常務委員を電撃解任した。常務委員は金総書記を含めて序列5位に入る最高指導部のメンバーであり、日本で言えば重要閣僚、中国なら李克強首相クラス。その下の政治局委員などでも解任があり、朝鮮労働党に緊張が走っている。

◇トップ5以内の側近を解任

 冒頭で金総書記はあえて会議招集の理由を説明し、「国家の重大事を受け持った責任幹部が(新型コロナウイルス対策で)党の重要決定の実行を怠り、国家と人民の安全に大きな危機を醸成した」と述べ、重大な事件が発生したことを明らかにした。

 ここで言及された「党の重大決定」は、6月15~18日に開かれた党中央委員会総会の際、金総書記が「人民に安定した生活を保障して隘路を速やかに解決する」としながら発令した「特別命令書」を指しているとみられる。

 会議では、政治局常務委員▽政治局委員・委員候補▽党中央委員会書記▽国家機関幹部――というハイレベルのメンバーを解任し、別の人物を新たに任命した。ただ、だれが解任され、だれが選任されたか、名前は明らかにされていない。新任のハイレベルメンバーが明らかにされないのは異例といえる。

 金総書記はこの会議を、党の発展を妨げる基本的な障害物を暴き、警鐘を鳴らす目的と規定したうえで「全党的な集中闘争、連続闘争の序幕を開く」と宣言、今後も同様の措置を取っていく姿勢を鮮明にした。

 また金総書記は「幹部革命」という用語を使いながら「経済問題を解決する前に『幹部革命』を起こすべき時である」とも強調している。金総書記は最近、党幹部の能力・実績を重視する姿勢を示しており、幹部らの大幅入れ替えも進められるのではないかという推測も出ている。

◇軍で問題発生?新型コロナで非常事態?

 政治局常務委員は党の最高指導部メンバーといえ、金総書記に加え、崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議(国会)常任委員長、趙甬元(チョ・ヨンウォン)書記、李炳哲(リ・ビョンチョル)党中央軍事委員会副委員長、金徳訓(キム・ドクフン)首相の5人が就いている。

 4人のうち、だれが処分の対象となったのか……。

 韓国の聯合ニュースは北朝鮮情報に詳しい関係者の話として、特別命令書には、各地域に駐留する軍部隊が該当地域の住民に、軍用米と戦時予備物資「2号米」を供給するという内容が書き込まれていたと伝えている。

 金総書記の逆鱗に触れた不祥事が、住民たちが深刻な食糧難に苦しみ、軍の備蓄まで動員しようとしたのに、これが実行されていない――ことである説だ。この場合、軍事担当の書記を務める李炳哲氏が責任を取らされることになる。同ニュースは「議決の際、李炳哲氏だけが目線を下げ、手を低く掲げて挙手している。この際、金総書記は李炳哲氏の方を見ていた」と描写している。もちろん、これが解任を裏付けるものとはなりにくい。

 あるいは、新型コロナに関連して重大な事態が起きた可能性も指摘できる。

 北朝鮮は「新型コロナ感染者はゼロ」と主張し続け、世界保健機関(WHO)のデータ(6月29日現在)でも「ゼロ」のままだ。だが、金総書記が今回の会議で、新型コロナ感染対策について「持続的強化と、国の経済活動と人民生活の安定を重大に阻害した」と言及し、国営メディアも「(金総書記が)深刻に指摘した」と伝えていることから、何らかの非常事態になっている可能性がある。今回の会議を、党中央委総会から2週間とあけずに招集したのも、緊急対応が必要であるとの判断に迫られたからとの解釈もできる。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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