菅氏は「明確なビジョンが欠如」「メディアに作られた“おじさん”」「温かさやユーモアのセンスなし」米紙
菅義偉氏が自民党新総裁に選出され、首相に指名されることとなったが、米二大紙は同氏をどう見ているのか?
すでによく報道されている“イチゴ農家出身の苦労人”などの点はさておき、懸念している点をあげてみたい。
明確なビジョンがない
ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストは、菅氏にある共通の問題を見出している。それは、菅氏が明確なビジョンに欠けているという点だ。
ニューヨーク・タイムズは「菅氏は安倍氏が中断したことにまた着手すると約束したが、日本に対する彼自身のビジョンを明確にしていない。一般的に、政治家は少なくとも上辺では理想を語るものだ」というカリフォルニア大学サンディエゴ校政治学准教授メグミ・ナオイ氏の意見を紹介している。
つまり、どんな世の中にしたいかというビジョンが菅氏には見えないというのである。
また、約四半世紀、政界にいるにもかかわらず、実質的に安倍氏の参謀であり、主要な政府スポークスマンを務めてきた菅氏があまり強いポリシーを発表してこなかった点も指摘されている。
ワシントン・ポストも同様の見方をしている。
「菅政権は非常に実務的で、明確なビジョンに欠けたものになると思う」という流通経済大学教授で政治アナリストの龍崎孝氏の声を紹介している。
“安倍独裁”の陰の立案者
また、両紙は、菅氏が安倍氏の右腕として舞台裏で動いてきた点にも触れている。
ニューヨーク・タイムズは「評論家は、“菅氏は、官僚制上に権力を統合することやメディア批判を封じる戦術を含め、安倍氏の独裁主義推進を陰で立案した”と話している」とし、元文科省事務次官の前川喜平氏がサンデー毎日に対してした「安倍氏以上に危険。安倍時代以上の官僚の官邸下僕化、私兵化は進むだろう」という発言を紹介している。
ワシントン・ポストは「菅氏は安倍政権の権力統合を立案し、派閥支配の党と官僚制を統合させ、メディアを“アメとムチ”で服従させた。日本の報道の自由度ランキングは安倍政権時代、低下した」と、菅氏のメディア・コントロールを疑問視している。
温かさやユーモアのセンスがない
ワシントン・ポストは菅氏のリーダーとしての資質にも問題を見出しているようだ。
「菅氏の冷たさは討論の時に現れ始めたが、それが不利になるかもしれない。問題は彼の政治スタイルが国民にどう見られるかだ。強いリーダーは通常、心温かく、ユーモアのセンスもあるが、菅氏はこれまでのところ、どちらの資質も見せていない」という前述の龍崎氏のコメントを紹介している。
メディアに作り上げられた“おじさん”
ワシントン・ポストはまた、菅氏が、政権に媚びへつらっているメディアによって作り上げられた点に、皮肉な視線を向けている。
「党の主要派閥も安倍・二階がした選択を支持し、へつらっているニュース報道が菅氏のイメージを作り変えて仕上げを行った。むっつりしたイメージの、能率がいい政治オペレーターと見られている男は、謙虚な叩き上げの政治家であり、一生懸命に働く酒を飲まない“おじさん”として新たに想像されたのである。そして、党員と世論は菅氏支援に動いた」
同紙はまた、菅氏が、安倍政権が辞任により再評価された恩恵を受けると見ている。
「日本の次の首相は、安倍政権時代が突然再評価された恩恵も受けるだろう。外向的な首相(安倍氏のこと)は、コロナとの戦いの中、精彩のないリーダーシップで人気が急落したが、支持率は辞任を発表した後、高まった」
日本の談合体質
既成勢力が強く、“密室の談合”が行われている日本の政治体質が菅氏選出を後押ししたことも指摘されている。
「菅氏優勢は、回転ドア式に首相が変わってきた国を安心させた。イデオロギーよりも安定をしばしば重視する日本で、菅氏はチェンジに抵抗する伝統に縛られた既成勢力にアピールした」(ニューヨーク・タイムズ)
ワシントン・ポストも「菅氏の選出は日本のエリート政治の典型である一種の“密室の談合”によって進められた」とし、菅氏選出の背後には、安倍氏の支援や二階氏の存在があり、安倍氏批判をしている石破氏を外す動きがあった点にも言及している。
果たして、菅氏はどんな政治手腕を見せてくれるのか? 米メディアの厳しいウオッチは今後も続く。