バスケットで全米屈指の強豪大学で奮闘中の今野紀花に直撃。「ストイックになれる環境が本当にあります」
宮城県仙台市の聖和学園からNCAA(全米大学体育協会)ディビジョン1の強豪(3月2日発表のAPランキングで4位)ルイビル大に進学し、ベンチ陣の貴重な戦力として1年生から一貫した出場機会を得ている今野紀花。当時APランキング1位だった11月30日のオレゴン大戦では、17分間のプレーで6点、2アシストで勝利に貢献し、次のオハイオ・ステイト大戦では28分間で8点(後半に6点)を奪ったことで、3月のNCAAトーナメントに向けての期待度が増していく。
ところが、昨年夏に行われたU19FIBA女子ワールドカップ中からひざの違和感を覚えながらプレーしていた影響か、年明け以降は試合後に痛みが頻繁に出るようになってしまう。ジェフ・ウォルツコーチが1月半ばから4試合欠場させ、回復を待ちながら2月2日のアメリカ代表戦で出場機会を与えたのは、世界最高レベルの選手たち相手にプレーさせてあげたいという思いからだった。
とはいえ、試合後に再びひざの痛みが出てしまったため、アメリカ代表戦が今野にとって今季最後のゲームになる可能性が高い。複数の医師による診察を受けたものの、シーズン中の完治は難しいとの考えがチーム内にあるからだ。そんな状況であっても、今野はポジティブな姿勢を失うことなく、別メニューの練習で個人スキルのレベルアップに力を入れながら、バスケットボールというゲームを学ぶ絶好の機会と捉えている。
2月下旬にケンタッキー州ルイビルを訪問して行われたこのインタビューは、日本からバスケットボールの本場アメリカに渡った今野が、学業との両立で大変な思いをしながらも、バスケットボールに取り組む環境に充実感を持っていることを改めて知る機会となった。
今までの常識がぶっ壊されているルイビルでの生活
Q ルイビルでの生活はいかがですか?
今野紀花(以下今野) すべてが新しくて、すごく刺激的です。うまく行かないこともたくさんあるんですけど、毎日充実しています。
Q チームメイトとすごく仲が良さそうですけど、持ち前の明るさとスマイルですぐに馴染めた感じですか?
今野 みんな本当に優しくて、受け入れがすごいです。なんか思ったのが、日本人よりもこっちの人のほうが同じ留学生とかいう目よりも対等に見ているというか、すぐに受け入れてくれました。言い合いとかも今までしましたし、みんな素直な感じで楽しいです。
Q 感情がストレートに出るというところですか?
今野 そうですね。何か言い合ってもお互いに後で気にしないですし、すごくはっきりしていますから、いいですね。自分はそういうのが好きですね。
Q アメリカに来てよかったなと思えるわけですね?
今野 今までの常識がぶっ壊されていることがいっぱいあるので、新しい自分になっている気がしてすごくいいです。
Q バスケットボール以上に勉強が大変だと思いますが、きついですか?
今野 予想以上ですね、もう。本当に最初の4か月は特にきつくて、インターナショナル生(留学生)用の授業とかなかったし、バリバリ経済学とか歴史とかありましたから、最初はDをとっていたんですよ。でも、そこからどんどん慣れていって、最終的には(学期の成績で)AとBを取るくらい頑張りました。
Q 英語でのコミュニケーション、理解度はどうですか?
今野 最初は本当に酷かったんです。最近はやっと慣れてきたというか、ほとんど聞き取れるようになってきましたけど、唯一わからないことが“sarcasm(皮肉)”です。気付かないんですよ。ちょっと難しいです。使う人がコーチの方々に多いので…。
Q 本気で言っているのかどうかがわからないと…。
今野 わからないんですよ。
Q それ以外は大丈夫ですか?
今野 完璧じゃないですけど、チームメイトと普通のコミュニケーションはできます。難しい話になった場合は聞いたり、アカデミック・アドバイザーにお願いしたりしています。
Q チューター(指導教員)にも助けてもらっていると思いますが、どんなことを一番教わっていますか?
今野 全教科ついてもらっているんですけど、バイオロジー(Biology=生物学)とかは例えばプロカリオーテ(Procaryotae=原核生物界)だったらプロ(Pro)がどういう意味かとか、ジオ(Gio)だったらどうかとかいった単語のベースになるところですね。あとはよく絵を描いて教えてくれたり、リーディングがすごく苦手なのでそこで助けてもらっています。
Q 11月下旬のバージン諸島への遠征中も勉強しましたか?
今野 宿題はいつもあるのでしましたけど、そんなにしてなかったです。宿題は(遠征時に)いつも持っていってやります。
Q 遠征の移動がチャーターの飛行機であっても、深夜に戻って翌朝すぐに授業があるのがすごく大変なのでは?
今野 そうですね。たまに2時くらいに帰ってくる時もあって、次の日朝8時に授業があったりとかしました。その時は部屋に戻ったら荷物を投げて、シャワーを浴びてバッーと寝て、苦しいけど頑張りました。キャンパスが近いので、(授業が)8時からの時は7時半に起きてギリギリに行ってました。
交代出場の仕方がわからないくらい緊張したデビュー戦
Q 11月5日のデビュー戦、交代でゲームに入るのがうまく行かなかったシーンがありましたけど、やはり緊張していたのですか?
今野 あれ(コートの)真ん中に行くんですよね。知らなくて普通に“交代です”って言ってベンチの隣に立っていればいいと思ったんですけど、“真ん中だよ”とコーチから言われるまでわからなかったんです(苦笑)。もちろん緊張しました。試合前にみんなから“大丈夫だよ。おめでとうデビュー戦” みたいな感じで言われましたけど、自分はガクブルでした。楽しみにしていたので…。
Q ウィンターカップとは比較にならない?
今野 そうですね。まったく違う緊張感がありました。プレッシャーとかはなかったんですけど、初めてのことが目の前にあったので…。
Q レベルの高いチーム内の練習に慣れるまで時間がかかりましたか?
今野 かかりました。最初来た時に衝撃的だったのが、日本では並んで順番にやっていくじゃないですか、でも、ここはやりたい人がコートに入って順列なんてなかったですし、行き遅れたらコートに入れなかった。全員に意欲があって“次は私!”みたいで、“2回休んだから入れて”とか、自分からコートに入っていくのが、日本と違って最初ビックリしました。あとはみんな体も強いですし、スピードも速いですし、ついていけないことがたくさんありましたけど、ちょっとずつ慣れていきました。
Q ここでやれると思えたきっかけや瞬間はありましたか?
今野 日本の人たちのほうができるなということはありました。例えば、合わせのプレーとか、コーチが求めているもののレベルは高いですけど、言っている細かいこと、頭を使ったり、タイミングだったり、周りを見るという面で日本のほうがすごいなと思って、自分が今まで学んできたものをしっかり出せれば、そこを評価してくれるという感じになりました。
Q 得意のドライブやミドルレンジ(中距離)のシュートは通用すると思いましたか?
今野 まだ全然ですね。でも、パスと我慢するタイミングとかは評価してもらっています。ドライブでコンタクトしながらシュートするというのはまだですね。
Q 今までの練習や試合で常に意識して何かをやってきたことはありますか?
今野 常に意識してやってきたこと…、人が言っていることは絶対に聞き入れたいなと。言語の問題で何かがわからないというのが嫌なので、必ずわからないことは聞いていましたし、すべての情報を自分の中で処理できるように、逃さないような努力はしています。
Q たくさん質問しているわけですか?
今野 質問していますね。
Q オレゴン大戦とオハイオ・ステイト大戦はルイビルに来てから一番いいパフォーマンスだったと思えますか?
今野 オレゴンの時はアメリカで1位のチームでしたからすごくワクワクしていて、自分の中ではエナジーがすごかったんですよ。楽しいと思ったのはその時かもしれないです。サブリナさん(イオネスク=通算で2000点、1000リバウンド、1000アシスト以上を記録している全米屈指のオールラウンダー)もいて、実際にマッチアップしましたし、ウイングの選手のファウルトラブルで自分の出番になりました。すごくワクワクしてコートに入って、サブリナについて闘志があふれていました。その時は、冷静な判断と思い切りの良さが出たかなと思いました。
Q オハイオ・ステイトの時は第4クォーターがほぼ出ずっぱりでした。すごくアウェイを感じる試合だったのでは?
今野 アウェイのほうが燃えるというか、そういうのを感じましたし、オハイオ・ステイトの時は自分のターンオーバーから相手の流れになったので覚えているんです。3クォーター最後のところですけど、そこから本当にこれを取り返さなければという気持になったし、ガンガン攻め続けて、コーチも自分のことを使って得点を取るセットをやってくれたから、その時は得点のことしか考えていなかったです。
Q そこまでコーチが信用してくれているのがうれしいというか、ますますモチベーションが上がる要因になっているのでは?
今野 はい、そうですね。その試合は自分のディフェンスがよくて、そこを評価して出してくれた。コーチのバスケットを理解して、ディフェンスをしっかりやらないと信頼は得られないと思いました。
Q (成功率12.5%の)3Pシュート以外の課題はやはりディフェンスですか?
今野 3P以外だと自分はターンオーバーですね(平均1.3本)。ディフェンスはその時こそ大丈夫だったんですけど、ターンオーバーが多かったので…。
Q ターンオーバーはやはり相手選手の長さ、スピードに慣れていなかったからですか?
今野 長さ(腕)が本当に長くて、普通にパスしただけなのに手に引っかかったので、日本代表で経験したしっかりパスをすること、踏み込むことが大切なんだなと思いました。
Q ファンダメンタルにプラスして長さの感覚に慣れることが大事?
今野 慣れることがすごく大事です。練習中もそこでのターンオーバーが絶対に要らないし、ここでは通用しないので、気をつけてパスを出しています。こういう環境で練習できることは、絶対にいいことだと思います。
故障欠場は残念だが、ゲームの理解度を高めるチャンスでもある
Q ひざの状態がまずいなと思い始めたのはいつごろですか?
今野 クリスマスに1回日本に帰って、戻ってきてからまずいと思ったので、1月くらいですかね。
Q コーチと相談して今は休んでいるわけですか?
今野 相談して、お医者さんとかもいっぱい行っていろいろなことをしたんですけど効かなくて、今のように休んでいたらいいんですけど、プレーしたらすぐに痛くなるんです。
Q 出られないフラストレーションはあるけれど、バスケットボールを学んでいる感じですか?
今野 はい。だいぶコーチのバスケの見方が変わったというか、自分への(情報の)入り方が変わってきました。最初は慣れなかったからだと思うんですけど、(日本と)まったく違うバスケなので結構動揺していたんです。最近はコーチのあげるポイントとかが“おもしろいな”とか、“そんなことをするんだ”とか、“ディフェンス難しいな”とか、コーチのバスケットは自分が学びたい意欲をすごく強くしてくれました。そういうのが楽しいですし、見ることが今はいいことだと思えます。
Q スカウティングや相手の傾向をチェックするのは楽しいですか?
今野 スカウティングが日本よりも本当にすごいと思うんです。だからこそいろいろなルールがあって、すべて頭に入れないと…。少しでも間違うとベンチなので、そういうちょっと違う感じのバスケですよね。
Q アメリカ代表と試合ができたことをどのように捉えていますか?
今野 あれは“2度とないというか、滅多にないチャンスだから全員にプレータイムを与えたい”とコーチが言っていて、自分もちょっとひざが心配だったんです。とりあえずやってその後また痛くなってしまったのですが、スー・バード(五輪で4度金メダルを獲得している名ポイントガード)とマッチアップした瞬間もあったし、写真撮影の時に肩を組んでくれたのが彼女で、絶対に一生会うことのない人だと思っていたので、ここに来て得られたチャンスだったから、コーチには感謝しています。
Q 試合終了後にそれぞれの選手と握手したけど、ダイアナ・タウラジ(五輪金メダルを4度、WNBAのMVPを3度獲得した実績を持つ偉大なシューター)がお辞儀してくれましたね?
今野 そうなんですよ。試合の前にルイビルで(アメリカ代表の)選手たちが練習したんですけど、その時に質問や写真を撮っていいよという時間があって、その時にコーチとダイアナさんが自分のことを話していて、彼女がこうやった(手を合わせる仕草をした)のです。“それはタイだよ”と言ったら、お礼だけということを練習で学んでいて、試合が終わった後に“合っているよね”という感じでやってくれてビックリしました。光栄です。
Q スーとダイアナと実際に話す機会はあったのですか? あれば世界のスーパースターと間近で話ができたことで得られたこととは?
今野 ありました。すごく刺激をもらいましたし、自分がここに来てよかったと思えた瞬間でもありました。気さくに話してくれたんですよ。人柄とかいいなと思いましたし、ダイアナさん輝いていました。
Q いつ復帰できるかわからない状況だけど、ルイビルのメンバーとしてまずはNCAAファイナルフォー(全米王座を決めるトーナメントの準決勝)、そして優勝という経験ができるチャンスがある現在をどのように感じていますか?
今野 いい選手がいっぱいいて、自分は試合に出られないけど、学ぶチャンスでもあります。自分にとってNCAAトーナメントは初めてで、日本でずっとYouTubeを見ていたくらいなのです。そこに行くことが自分にとって今後のバスケットでいい経験になりますし、学びがあると思うので、ちゃんとエンゲージ(従事)して貢献できるようにしたいです。
Q 改めて、ルイビルに来てよかったこと、これからの自分が目指すところを話していただけますか?
今野 アメリカって言っていいのかわからないですけど、ルイビルの今のチームは気持の強い人が多くて、そういった面でも学んでいますし、自分がストイックになれる環境が本当にあります。それがすごく自分にとってよかったなと思っています。まだ何もしていないので、本当にこれからだなと自分の中で前向きに思っていますし、ケガをしていますけど、リバビリの間は孤独に辛抱して、次のチャンスに向けてしっかり準備をして、ベスト・プレーヤーになれるように頑張ります。その後は(日本)代表に入ることです。
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