なぜ久保建英はソシエダで活躍しているのか?指揮官の信頼とプレースタイルの合致。
久保建英が、好調を維持している。
日本代表の海外組で、今季良いフォームを維持している一人が久保だ。久保が所属するソシエダはリーガエスパニョーラで第10節マジョルカ戦を終えて5位に浮上。チャンピオンズリーグではグループDのトップに立っている。
■補強とカンテラーノの融合
ソシエダは今夏、ダビド・シルバが負傷で長期離脱を強いられ、その後、引退を決断した。イマノル・アルグアシル監督は昨季の中心選手を欠いた状態でチームを再構築しなければいけなくなった。
一方、ソシエダはこの夏に5選手を獲得している。アーセン・ザハリャン(移籍金1300万ユーロ/前所属ディナモ・モスクワ)、アルバロ・オドリオソラ(移籍金300万ユーロ/レアル・マドリー)、キーラン・ティアニー(レンタル/アーセナル)、アマリ・トラオレ(フリートランスファー/レンヌ)、アンドレ・シウバ(レンタル/ライプツィヒ)が加わった。
ソシエダは両サイドバックを補強した。右サイドのトラオレ、左サイドのティアニー、いずれも加入して早々にレギュラーポジションを奪った。他方でザハリャンやA・シウバといった選手は負傷で出遅れている。しかしながら、そこは「台頭するカンテラーノたち」とシステムチェンジまた戦術の変更でカバーしようとしている。
ソシエダは、元々、選手の育成に定評があるクラブだ。すでに主力になっているミケル・オジャルサバル、マルティン・スビメンディ、イゴール・スベルディア、ロビン・ル・ノルマンらはカンテラ出身選手である。
そういったなかで、今季、ソシエダで大きな成長を見せているのがアンデル・バレネチェアだ。バレネチェアは2018年12月に16歳の若さでトップデビュー。以降、クラブは忍耐を持ちながらバレネチェアを育ててきた。そして、今季、爆発の時を迎えた。左ウィングで定位置を確保し、サイドでキレのあるドリブルを披露している。
バレネチェアだけではない。ベニャト・トゥリエンテス、ウルコ・ゴンサレス・デ・サラテ、アンデル・オラサガスティ、ヨン・パチェコ…。いずれも23歳以下の選手だが、クラブの期待を背負い、少しずつトップチームでのプレータイムを伸ばしている。
先のインターナショナルウィーク前に、スペイン『アス』が報じたところによれば、今季のソシエダのトップチームのカンテラーノ数(10名)はリーガエスパニョーラ1部で2番目の数字だ。1位のアトレティック・クルブ(18名)に次いで、ラス・パルマス(10名)、バレンシア(10名)と並ぶ数字である。
■戦術の変更と指揮官の信頼
またイマノル監督は2022−23シーズンと2023−24シーズンで布陣と戦術の変更を行っている。D・シルバがいた頃は【4−4−2】でプレーしていた。だがD・シルバがいなくなり、「トップ下」のポジションを削って、現在は【4−3−3】を基本布陣にしている。
そういった状況で、久保の役割も変化した。
昨季は2トップの一角として、前線からプレスを掛け、チームがボールを奪えばショートカウンターを繰り出すために積極的にスペースに走り込んだ。今季は3トップの右ウィングでプレーしており、持ち前のテクニックとドリブルを披露するシーンが非常に増えている。
昨季の久保は「使われる側」だった。D・シルバ、またミケル・メリーノ、ブライス・メンデス、スビメンディという優秀なパサーがいたから、それが成り立っていた。ただ今季の久保は「使われる側」であり「使う側」である。2つの軸を持ちながら自由にプレーすることで幅が広がり、それが結果(リーガ8試合5得点1アシスト)にも繋がっている。
なお、イマノル監督は以前、久保についてこのように語っていた。
「タケは昨シーズン、素晴らしいパフォーマンスを披露した。だが昨シーズンだけではない。以前から、そのクオリティ、キャパシティ、才能を見せていた」
「我々はそれを今になって発見したわけじゃない。タケには、大きな才能がある。加えて、彼は働き者だ。フットボールが大好きで、そのために生活している。我々のチームでうまく適応した。ハードワークを行い、すごく成長した」
■増えてきた代表組と疲労
良いフォームをキープしているソシエダだが、課題がないわけではない。近年、スペインと欧州で躍進しているチームだ。そのチームで活躍している選手を、各国の代表は放っておかない。
先日のインターナショナルウィークでは、スビメンディ(スペイン代表)、メリーノ(スペイン代表)、オジャルサバル(スペイン代表)、ル・ノルマン(スペイン代表)、久保(日本代表)、トラオレ(マリ代表)、サディク・ウマル(ナイジェリア代表)らがナショナルチームに招集された。
そうなると、難しいのはコンディション調整とプレータイムの分配だ。
そもそもイマノル監督はローテーションが得意な指揮官ではない。「22人のレギュラー選手を抱えるというのは、我々には不可能だ」とイマノル監督自身が語っている。
ただ、今季に関しては、もはやローテーションは不可避だ。リーガ、コパ・デル・レイ、チャンピオンズリーグ、今後のソシエダには過密日程が控えている。
前述の通り、ソシエダは育成が強い。ポテンシャルのあるカンテラーノが控えており、そういった選手たちを使いながら、やり繰りしていく必要があるだろう。その壁を突破できれば、昨季以上に「サプライズ」を起こせる可能性は十分にある。